お礼の品
そして、やってきた球技大会当日。
私達のクラスは順調に勝ち進むことができ、次は準々決勝。体育の授業では一組と試合をして負けることが多かったから、あまり強くないと思っていたが、どうやら二年一組は優勝候補とされるくらい強いと予想されていたらしい。このことは私以外、みんな知っていた。相性もあるだろうけど、その優勝候補に何度か勝ったことがあったため、二組もなかなか強かったみたいだ。現に、一セットも落とさず順調に勝ち進んでいる。
しかし、次の相手は私でも知ってる、全員がバレー経験のあるもうひとつの優勝候補、三年七組だ。確か、北さんと大耳先輩のクラスだよね?だからか、先程友人が「私はなまえちゃんの応援するからな!安心してや!」と熱い視線と共に言葉を投げかけてきたのだろう。可愛いな。
まだ、試合まで時間があるから、バスケも勝ち進んでる自分のクラスの応援をするため、クラスメイト達と共に向かった。
試合が行われている体育館に入ると、大きな声援が響き渡っていた。特に、女子の声。男性アイドルのライブ会場のように聞こえる悲鳴は、二コートで双子が大活躍中だからだろう。ふたりがボール持つ度、シュートを決める度、黄色い悲鳴が響く。自分のクラスの応援ということで、ギャラリーからではなくコートのすぐそばで応援をする。
私達のクラスは三年七組と。一組である治くん達のクラスは一年生と試合をしていた。
どうやら、こちらも私達と対戦相手が同じだったらしい。しかし、あと数分でゲームは終了。数点差で侑くん達が負けている。大耳先輩が自身の身長を生かし、それに苦戦しているようだった。だってあれ、ブロックじゃない?大耳先輩の本職じゃないか。侑くんを筆頭に、銀島くんや他の男子達がシュートを決めようとするが、大耳先輩に阻止され点が入らない。
しかし、流石セッターというべきか侑くんのコントロールは凄いもので、色んなところからどんどん狙い、少しずつ点を詰めようとしている。何回か、ジャンプトス?というのだろうか。それでシュートしてたりもした。
結局、二年二組は負けてしまい、侑くんは大耳先輩を見つめて「来年は俺らが勝ちますんでっ!」と悔しそうに発したのに対し、試合には出ていなかった北信介が「来年はないで」何言っとるん?みたいな顔をしながら論破するもんだから、侑くんはぐっと唇を噛んでいた。
銀島くんの「アホ……」と呟く姿を見て、微笑ましい気持ちになり、この豪華なやりとりを見ることが出来ただけでも休まず来て良かったな、なんて思考になる。
隣のコートで試合をしている治くん達はまだ終わってないみたいで、まだ時間があるから、いつの間にかいた友人と一緒にそちらに向かう。この子は自分のクラスではなく、大耳先輩の応援をしていたらしい。相変わらず、ブレないことで。
宮治、角名倫太郎が凄い活躍をしていた。身長高いし、運動神経抜群だもんなぁ。そんなふたりを見て、私の隣にいた侑くんが「ッハ!」と拗ねたように零すのを聞いてしまった。それに気づいたのか治くんが、嘲笑うような顔でこっちを見る。え?今の聞こえてたの??それとも双子のテレパシーか何か!?すご……。
感心していると、侑くんから大きい黒目を私の方へ動かした。あ、れ……?目、合ってる??後ろを振り向くが誰もいないから、こっちを見ている気がする。気のせい、だよね?あの、よくある推しと目が合ったと勘違いする、あれ。ていうか、試合中によそ見してたら危ないんじゃ……?
「……っあだ!」
「……あ」
危ない。そう思った瞬間に、角名くんがパスしたボールが治くんに当たり、投げた本人は少し驚いたようだった、多分。角名くんはこっちを見ていないのは気づいてて、名前を呼んだ。それに、顔はこっちに向けたままだがボールを受け取るため手を出した治くん。それで、投げても大丈夫と思ったみたいだが、手に収まらず顔面に直撃。ボールはバウンドして転がり、相手が拾う。
「ブフッ……ぶ、ははははははは!!なんやねん、あいつ!!」
周りが一斉にこっちを振り向くほど、盛大に、そして大声で腹を抱えて笑う宮侑。それに今度は悔しそうに睨む宮治。そして、また私にチラリと視線を向ける。その顔はなんだか少し気まずそうで。確かに、大勢の前であんなことがあって、それを片割れに盛大に笑われるのはちょっと可哀想だ。それに、負けた宮侑にあんな勝ち誇った笑みを向けた後にあれだから、余計に。
今、私を見てるとか、そうでないとか関係なく。届いたらいいな、と思って口を動かした。
"が ん ば れ"
声には出さず、分かるようにゆっくり動かす。そしたら、治くんは大きな目がこぼれ落ちるんじゃないか、とひやひやしてしまう程、目を見開く。そして、パッと顔を逸らし意識をバスケに向けた。ここからでも気づくくらい、耳が赤く、隣にいる侑くんは「なんやあいつ。あんくらいで恥ずかしよって、きしょいな」と呟いた。
それから、治は更に絶好調。活躍していた。みょうじのおかげで、みょうじが観ていると思って。しかし、「がんばれ」そう言った後、直ぐにみょうじはその場を離れていたことに本人は知らない。
準々決勝。相手は三年生で、優勝候補と言われているクラス。一セット目を落とし、二セット目も中盤、四点差。一セット目、せっていたため私は試合に出ることを拒んだ。流れ変わっちゃいそうだったし、申し訳なさでお断りしてしまった。
しかし、今はもしかしたらこれで最後かもしれないという理由でメンバーチェンジをしてコートの中にいる。いや、サーブを打つためエンドラインにいるんだけど。……怖っ!?これ、私が入って大丈夫なのだろうか。皆がここまで頑張ってきたのに。緊張で手が震えて、何かやらかしてしまいそうだ。誰かの頭とかに当たったら雰囲気悪くなっちゃうかも。
でも、やらなくてはならない。ホイッスルが鳴った。八秒間だったかな?その間に打たないと、それだけで相手の点になる。ちょっとだけ深呼吸をしようと顔を上げたら、体育館の入り口付近に宮治がいるのに気づいた。そして、目が合うとさっきの私と同じように、ゆっくり口パクをする。
"が ん ば れ"
ああ、凄いサーブが打てそう。もしかしたら宮侑並のが打てるんじゃないかと、とんでもないことを考えてしまう。だって、あの宮治からがんばれの言葉を頂いたのだから。
そして、意を決して治くんに教えてもらったことを思い出しながら、サーブを打った。
あ、やば。全然、へなちょこサーブだ。ていうか、ネット超える??コートの外でぼけっと立っていたらメンバーチェンジをしたクラスメイトの「なまえちゃん!コートん中入って!!」にハッとしたその時、ボールは白帯に当たりポトッと相手コートに落ちた。
笛が鳴り、審判の手が私たちの方へ伸ばした瞬間、大きな歓声に包まれる。特にクラスメイト達は驚きと喜びで一段と声が大きい。
決めた私は冷静で喜びよりも、安心の方が勝っている。今度は、ちゃんと入れようと腕を思いっきり振った。
振った。それで、当たった。当たったのはいいが、ボールは高く上に飛ぶ。ネットを超えるかもわからない。それに、照明でボールが見づらく、どこに行ったのかよくわからない。二回目もネットぎりぎりで相手側に入ったらしく、所謂天井サーブ的なものをしてこっちの得点となった。
みんな、見たこともないくらい喜んでくれる。外からは同じクラスの男子達が、ラッキーガールと叫んでいるのに気づいた。馬鹿にしてない……?まあ、ラッキーなんですけども。
二度あることは三度ある、とは言うが三度目はネットの下を勢いよく通り過ぎて失敗。ごめんなさい……!と両手で顔を覆うが、誰も責める子はいなく、後は私らが頑張んで!と意気込む子達に涙腺が緩んだ。いい子達……!まるで、親の気持ちになってしまう。
結果は、二-〇 で負けてしまった。しかし、全員悔いはなさそうだった。私も球技大会でこういう思いをするのは初めてだな。クラスメイトのおかげでもあるが、教えてもらった治くんのおかげでもあって。そんな彼にお礼を言いたいと、体育館を出て行く後ろ姿を見つけて追いかける。
「宮くんっ!」
「?」
足が長いから普通に歩くだけでも速く、人通りが少ない渡り廊下を歩く彼に走ってやっと辿り着いた。不思議そうに振り向く治くんは「ナイスサーブやったな」とふわりと笑ってくれる。イ、イケメンだ。
「あ、りがとうございます。それで、宮くんにお礼を言いたくて」
「お礼?」
「教えてくれたから。だから、ありがとう」
「ああ。構わんよ、そんなん」
みょうじさんの頑張りやろ、と言う治くんにもうひとつお礼を言わなければならないことを思い出した。
「あと、がんばれって言ってくれた、よね……?」
「!ま、まあ。みょうじさんも……」
「あ、気付いてくれてたんだ。私、宮くんががんばれって言ってくれたから頑張れた。ありがとう」
「そうか。そんなら、お互いさまやな」
そう言って、くしゃりと笑う宮治の初めて見る表情に目を開く。だって、この顔は漫画でも見たことがない。それに動揺して早口になった。
「だからお礼したくて。色々教えてもらったし。食べたいものとかある?」
宮治に何が食べたい?的なことを聞くのはあまりしない方がいいと心掛けていた。彼は決められないと思ったから。だけど、今の私はあの笑みにやられて動揺しまくっている。
「そんなん気にせんでええよ。俺が好きでやったことやし」
「あ、じゃあ体で」
「体!?っな、なに、何言うてるん!?」
「あ。あの、肩揉みとかマッサージとか?」
「そ、それも駄目に決まっとるやろ!?」
「そっか」
スポーツ選手にはいいかな、なんて思ったけど。確かに、そういうプロでもなければスポーツもしていない人間にマッサージされるのは嫌か。というか、仲良くもない女に触られるのは嫌だろう。気の利かない提案をしてしまった。自分が思っているより動揺しているようだ。
「みょうじさん……あかんて。ほんま」
「すみませんでした」
そうだ。この間、発言に気をつけてと言われたんだった。体で払う的なことを言ってしまった。申し訳ない。
暫く沈黙が続いて、治くんが視線を逸らしながらおずおずといった感じで口を開いた。
「なら、……俺のことも、名前で呼んでくれへん……?」
「名前?」
「………ツムのこと名前で呼んどるやんか」
「……」
そんなことでいいのか。そもそも私が名前で呼ぶことがお礼になるのか。色んな疑問が頭の中で飛び交う。
そういえば、二人に勉強を教えている時に侑くんって呼んだ気がする。それを覚えていたの?ていうか、少し拗ねたように、ツムは……と言っているのがとても可愛らしい。やっぱり双子で違うのは嫌なのだろうか。
「治くん」
「!!」
名前を呼んでみると、逸らしていた目を勢いよくこっちに戻す。少し、キラキラさせているのは気のせいだろうか。もう一度、呼んでみることにした。
「治くん」
「!?」
今度は、顔がだんだん赤くなっている気がする。普段、名前で呼ばれない相手からの名前呼びは照れちゃうよね。
「これからもよろしくね。治くん」
「〜っ」
グッと近づいて下から覗き込むようしていうと、顔を後ろに逸らされる。た、楽しい!!
「治く……っんぐっ」
楽しくて、楽しくてもう一度名前を呼んだら、両手を重ねるかたちで口を覆われた。
「も、もう呼ばんでええ」
「はい。ごめんなさい」
かなり調子に乗りました。とふざけた自分の行動に後悔する。いや、ふざけてはないんだけど、あまりにも可愛かったから。
その後、みょうじと別れた治は自分の手を見つめ固まっていた。
「……。(みょうじさんの唇、触ってもうた)」
口を塞いだ時、微かに唇に触れていたようで。周りをキョロキョロ見渡し、誰もいないのを確認した後、触れた箇所に自分の口を持っていった。
そして、直ぐに恥ずかしさと後悔が押し寄せて自分の頬を殴る。
「クッソ、キモいわ!!」