――いいか、伊壱。お前の個性は確かに強いが、お前自身は決して天才なんかじゃない。 ――お前は平凡だ。戦闘センスも頭の柔らかさも、頭脳を含めても、どこまでも平凡だ。 ――それでも、ヒーローにも、医者にもなるなんて無謀なことを言うのかい? この後少しの問答をおいて続けられた師匠の言葉を、彼は今でも鮮明に思い出せる。そして、生涯忘れることはないだろう。 外賀伊壱。前世の記憶を忘れず、“オペオペの実”というこの世界のものとは異なっていた力を約束されて転生してきただけの、ただの平凡な人間だ。 伊壱にとって、合間に休憩を挟める体力テストは助かるものだった。 彼の個性でもあるオペオペの実は、少々どころではないデメリットが確かに存在するからだ。 普段鍛えているだけあって、個性を使えない競技においても好成績を残している伊壱は、なるべく休憩を挟むべく最後の順番を選んでいる。 (……緑髪の人、さっきから記録がぱっとしないみたいだけど……。大丈夫なのかな) 伊壱を始め、彼以外のクラスメイト達が個性を巧みに使って好成績を出している中、唯一彼だけが個性を使っていない。 非戦闘の個性の持ち主だとしても、あの実技試験を超えたというのならば身体能力は相当のはずなのに、と伊壱が不思議がっていると、彼を知っているのだろう。飯田達の声が耳に入ってくる。 「緑谷くんはこのままだとマズイぞ……?」 「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」 「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」 「は!?」 (……? なら、なぜ個性を使わないんだろう……?) 飯田の反応を見る限り、よほど凄いことをしたのだろう。会話から察するに彼も何かしらの個性を持っているようだ。 彼の顔色を見るに本人もこのままだと最下位、つまりは除籍となってしまうことに焦りがあるはず。 緑髪の少年――緑谷の一投目が、イレイザーヘッドというヒーロー名を持つ、歴としたプロヒーローによって止められたのを見るに、彼が個性を確かに持っていることは直ぐに知ることができた。 「また行動不能になって誰かに救けてもらうつもりだったか?」 「そっ、そんなつもりじゃ……」 (また行動不能……? リスクが大きい個性なのか?) 何かしらの指導を受けてから緑谷が第二投目を投球した時――伊壱は、何故相澤が緑谷に個性を使ってまで一投目を止めたのか、知ることとなる。 一瞬、緑谷のボールを握る指のうち人差し指だけに光が走ったかのように見えると――先ほど個性を消されたものとはまる別人のような、桁を超えた記録を出したのである。 「最初に投げた人――爆豪君の出した記録と同じくらい飛んだかな?」 「……!!」 目測で計った伊壱の言葉を聞いて爆豪は自分の目にしたものを信じることができなかった。 何故なら彼の記憶では、緑谷が無個性であることは間違いようのない事実として確立されていたし、緑谷自身もその現実から、いつだって無個性ではないと抗ったこともなかったのだから。 見事な記録を出した緑谷に安堵した伊壱だったが、緑谷のボールを投げた手を見て息を呑む。 「緑谷君、その指大丈夫!?」 「え、あ、う、うん……」 「いや、絶対大丈夫じゃないって、直ぐに手当てしないと……っ」 居ても立っても居られずに緑谷に駆け寄ろうとした伊壱と、爆豪にとってはとんでもない現実に、緑谷に向かって駆け出すのは一緒だった。 「どーいうことだ、こら ワケを言えデクてめぇ!!」 「うわぁぁ!!」 「ちょっ、爆豪君!?」 片手を自身の個性で爆発させながら猛進する爆豪。このままでは緑谷が危ないと、個性を発動しようとするが――幸いなことに爆豪は相澤に強制的に止められることとなる。 首に幾重にも巻かれていた、炭素繊維と特殊合金の鋼線を混ぜて作られた捕縛武器を巧みに操り、同時に個性を消す個性を発動させた相澤によって二重の意味で見事爆豪の動きを止めた相澤。流石としか言いようがない、無駄のない動きだった。 「ったく、何度も個性を使わすなよ……。俺はドライアイなんだ」 (見ていないと個性が効かないのか) 「緑谷、問題ないな?」 「は、はい!」 「外賀、応急処置できるか」 「必要な道具があれば」 伊壱が迷わず即答すると、相澤は予め用意してあったのだろう、救急箱を伊壱へと手渡した。 どこにあったのかわからないが、救急箱の中身を見ると流石というべきか充実している。最低限の応急処置は可能そうだ。 「緑谷、外賀に応急処置してもらってから参加だ。他は次の種目を行う」 告げて種目計測に入った面々。爆豪も渋々その中へと入っていくのを見届けて、緑谷は安堵の息を零す。 「直ぐに終わらせるから、人差し指いいかな?」 「あ、ありがとう」 人差し指を伸ばすだけでも痛みが走るのだろう。表情は引き攣り、右手は痛みに耐えきれず震えていた。 変色している人差し指を見て、確実に骨が折れていることを伊壱は悟る。 本来ならばすぐにでもリカバリーガールに診せるべきだ。けれど。 「緑谷君はこのあとの種目も受けたいよね」 「え、それは勿論……」 「わかった。少し痛むけど我慢して」 どんな事情があるのか知らないが、彼はまだ個性を扱いきれていないのは明らかだった。そんな状態でこのあとも怪我を負うことを承知で個性を使ううつもりだったら止めようと思ったが、相澤のあの言葉もある。 そんなことをすれば相澤は容赦なく除籍処分することも想定されるのだから、これ以上怪我をすることは避けるだろう、と伊壱は判断した。 ならば今自分ができることはなるべく残りの種目に影響を及ぼさない応急処置をすること。 計ってもいないのに適切な長さで切られた包帯や添え木材。素人目から見ても慣れていると言わざるを得ない素早い応急処置に緑谷は驚いた。 「え、えと……」 「外賀伊壱っていうんだ。よろしくね、緑谷君」 「そ、そういえばどうして僕の名前……」 「飯田君が君の名字を言っているのを聞いたんだ。あ、名字呼びダメだったかな?」 「そ、そんなことないよ!」 「ありがとう、俺は名字でも名前でもどっちでもいいから気軽に呼んで」 過去の経験からどもってしまう緑谷を気にせず、朗らかに笑いかけた伊壱に緑谷は幾分か落ち着いたのか今も流れるような動きで包帯を巻く外賀の手先を見つめる。 「えと、その、げ、外賀くん、なんか手馴れてるね……」 「ヒーローにも医者にもなるのが俺の夢だから、練習したんだ。はい、完了。あとは……。あ、そうだ。ちょっと待ってて」 救急箱の中から目当てのものを取り出し、緑谷の返事を待たずに駆け出すと相澤に何かの確認を取っている様子だった。 いったい何の確認をしているのか緑谷にはわからなかったが、無事確認が取れたらしい伊壱は、次に赤と白で丁度半分に分けられた髪色が特徴的な男子生徒に話しかけている。 用事を終えたのか赤と白の髪色をした少年にお礼をした伊壱は戻ってきた。その手にあるのはターミロールと業界では呼ばれる、スーパーにロール状で置かれていることの多い透明の小さなポリ袋に氷水が入っているものだった。 「えっ、げ、外賀くんそれ……」 「簡易的だけど、氷嚢には十分だと思う。君の順番になったら俺が預かるから」 「あ、ありがとう! こんなにしてくれて……」 「お礼なんていいよ。あ、でも氷嚢を作ってくれた轟君にはお礼言った方がいいかも。彼、まだ種目があるのに協力してくれたからさ」 流石ヒーロー科、みんな優しいよね。と笑った伊壱に緑谷の口から出てきた言葉は、彼の本心だった。 「外賀くんも優しいよ。本当にありがとう……!」 「どういたしまして。終わったらちゃんとリカバリーガールに診てもらってね」 その後、なるべく緑谷の傍を離れることをせず、有言実行という言葉通り緑谷の順番になると氷嚢を預かった伊壱は、ソフトボール投げだけが好成績で、他に関しては良い成績ではないことを知っていた。 緑谷自身もそのことをよくよく知っているのだろう。先ほどから俯いていて、顔色も悪く見える。 しかし、なんと言葉を掛ければいいのか伊壱にはわからなかった。 心配している伊壱。不安な緑谷。結果が判明する時が刻々と迫る中――二人のそれは杞憂へと一変することになる。 「ちなみに除籍はウソな」 あっさり。さらり。唐突に告げられた相澤によるまさかの告白に一同、何も言えずにいた。 「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」 詫びられることなど一切なく、寧ろしてやったり、とでも言わんばかりにニヤリと笑われて漸くみんな声を発することができた。 「はーーーー!!?」 「あんなのウソに決まってるじゃない……。ちょっと考えればわかりますわ……」 「うわぁ……。俺、あっさり信じちゃった……」 緑谷を始め、相澤の言葉を心から信じていた者たちにとっては信じられない出来事。無理もない。 伊壱も相澤の除籍処分の件が本気だと思っていたからこそ、個性を使って記録を出したのだ。気のせいか、個性のデメリットが色濃くなったような気がする。きっと気疲れのほうが強いだろうけれど。 何せ、実技試験のほかいろいろなことでも驚かせてくれた雄英だ、入学式当日に除籍処分も十分にあり得てしまうと、そう思い込んでしまったのである。 あんぐり、と口を開けたままのクラスメイト達が多いのを一切気にせずに、合理的に生徒たちに教室にカリキュラムがあること等々を伝えた相澤は、今回唯一怪我を負った緑谷にリカバリーガールのいる保健室利用所を手渡して利用するように伝えて去っていく。 生徒たちは何を考えているのかさっぱり読めない相澤の背をただ見送るのだった。 生徒たちから何を考えているのかわからない教師、という評価をつけられた相澤が、オールマイトに自身の考えを伝え、今後のことについて考えていると、スマホが鳴動していることに気付く。 いったい誰が掛けてきたのか表示されていた人物の名前を見て嫌そうな表情をした相澤は、嫌々ながらも電話に応じた。 「何の用です、センパイ」 『久しぶりだね、相澤。アンタのことだから、そろそろ除籍勧告を終わらせたんじゃないかと思ってね』 「……。センパイのお弟子さんは見事残留ですよ、今のところはね」 『この私の弟子だからね。当然さ』 女性はきっと上機嫌に笑っていることだろう。 相澤はこの女性を苦手としていた。自身の信念であるヒーロー像からも、同時に教育者としてもかけ離れている彼女は、少々どころではない過激な一面があると知っているからである。 そして、それがまた今の自分を作り上げた一つのピースとなっているのだから、本当にどうしようもないほど苦手な人物だった。普段合理的ではないからと表情を作らず、無表情である相澤の顔に思わず出てしまうくらいには。 「もういいですか。センパイと違って忙しいんですが」 『少しお待ちよ、相澤。アンタに私の弟子――伊壱の個性について、少し話しておきたくてね』 「……。手短にお願いしますよ」 今回のテストで二位という好成績で通過した、外賀伊壱。彼の個性は謎が多い。 特に個性に見合わないデメリットは解せない部分が多く、彼を指導する立場としては現在本人を除いて――もしかしたら本人以上かもしれないが――最も“空間掌握”という個性を把握している人物に話を聞くことは合理的だと判断したのである。 『伊壱の個性のデメリットは二つあることは知ってるね?』 「体力消耗と、水中での無力化」 『その通り。アンタたちのことだから、体力は兎も角、水中でもなんとか活動させようとするんだろうが――諦めな、あれは、どうあがいてもどうしようもない』 「……どういうことです」 水中での無力化。水場では個性の使用ができない個性は多く存在する。 しかし、伊壱の個性“空間掌握”とは関連性のないどこから来たのかもわからないデメリットだ。聞けば母親も同様らしく、遺伝として引き継がれたデメリットとしか判明していない。 もしもこの妙なデメリットを克服することができれば、間違いなく伊壱の将来において大きなアドバンテージになること間違いなしだというのに。 『伊壱を五歳の時からずっと見てきたこの私が、克服させようとしなかったとでも思うのかい?』 「…………」 『試したさ、それこそ色々な手を使ってね。信用できる個性の研究機関や、個性のことがよくわかる個性のヒーローにも頼ったし、《《幼いうちに克服させようと何度も水中に沈めることもした》》』 「なにやってんですか、アンタ。寧ろそのせいじゃないでしょうね」 伊壱の師匠、武藤タツキのとんでもない発言に率直に言ってドン引きした相澤は、珍しいことに心の底から武藤タツキを師に仰ぐ伊壱に同情を禁じ得なかった。 よく生き延びたな、と同期のプレゼントマイクがこの話を聞いていたら、本人に直接労いの言葉をかける様が簡単に想像できる。 『勿論、本人も同意の上だよ。伊壱も水中で無力化にならずに済む方法を模索していたさ。ヒーローならばどんな状況でも救けたいって言ってね。中学二年になるまでずっと探し続けたが、結局、直接触れないようにする以外の解決方法はなかった。本人も納得したうえで諦めるしかなかったんだよ』 「……そうですか」 雄英においても個性のデメリットを減らす方法に研究機関からの情報を頼ることは間々あることだ。 勿論本人の鍛錬次第という可能性も否めないが、武藤タツキが努力不足を許す女性ではないことを相澤はよくよく知っていたからこそ、水中での無力化――簡単に言うとカナヅチというデメリットは克服できないという事実に落ち着くのである。 「よく五歳の子供がアンタについていけましたね。学生時代、アンタに武術の指導を仰いでヒーローになるのを諦めた奴が何人もいたくらいだったのに」 『懐かしい話を持ち出すね。――なら、私がまだ言いたいことが何なのか、わかるだろ相澤』 「外賀伊壱は何者ですか」 外賀伊壱。有名な大病院に勤務する外科医外賀ほづみと、専業主婦外賀つゆりとの子供。 それ以外だと武藤タツキの弟子であることしか特に目立つ経歴はない、極めて優秀な少年だ。少々出来すぎている、と思うくらいには。 『あの子は昔からずっと変わらないんだよ。ヒーローにも、医者にもなる。ただその夢をまっすぐ突き進んでいるだけさ。それ以外はただ一つだけ除けば、平凡な子だよ』 武藤タツキは人の才能を見抜くことに関して天才的なセンスを持っている。武藤タツキと関わったことのあるものならよく知っていることだ。 伊壱が個性をこう使いたい、ああしたい、という要望に合わせながら指導し、しごいてきた。 元来、技を生み出すことはとても難しい。平凡な戦闘センスしかない伊壱ならば猶更困難になる――はずだった。 けれど伊壱は、武藤タツキの予想を上回る早さで技を習得していく。複合個性で前例のない難しい個性を容易く扱えてしまったのだ。 成し遂げることができたたった一つの非凡な才能。正に天賦の才能や、鬼才と呼ぶに相応しいものなのだろう。 『伊壱はね、体力に関しては既に大人どころかプロヒーロー顔負けまであるんだよ』 「は……? だが、実技試験では」 『伊壱の個性“空間掌握”のデメリットは、それだけデカいんだ。なんなら機会があるなら伊壱に言ってみればいい。個性抜きでグラウンドを全力で走れってね。あの子のことだから、《《朝から始めたとして夜まで平気な顔して走ってるだろうよ》》』 「……!」 それがどれほど異常なことなのか、相澤は理解した。 ありえないことだ。そのようなことが可能な個性の持ち主でもない限り、絶対に成しえないことである。しかも、あの武藤タツキが直接指導していたとはいえ、少年がそんなことをやってしまうなどと。 オールマイトの全盛期であれば可能なことなのかもしれない。つまりは、そういう相手が比較対象となってくるほどのことなのだ。 「……体力上昇とか減少軽減の個性だった、というわけでもなく?」 『結構混乱してるね、相澤。よくわかるよ。私も初めて知ったときは世話になった研究機関に再度検査させにいったくらいだったからね』 けれど結局は伊壱の異常なまでの体力はただの生まれついての才能というもので終わった。 同時に何故、外賀つゆりがその個性を扱いきれなかったのかも結果的に判明することとなる。 「“空間掌握”は《《体力を異常に消費させることが正しいデメリット》》ということですか」 『ああ。私はそのことと、カナヅチになることは関連があるとは思っているが……結局、よくわからないままだよ』 「……。とりあえず、外賀には個性を使う上で体力減少がどの程度抑えていけるのか指導します」 『望み薄かもしれないけれどね……。よろしく頼むよ。あと、伊壱の指導をこうして頼むんだ。雄英の頼みを一度くらいは聞いてやってもいいと、校長にも伝えておいてくれ』 返事を待たず切れた通話に相澤は今度こそ大きなため息を零した。 例年にない出来事が立て続けにこうも起こるとは。しかも、あの武藤タツキが自ら協力すると言ってくるとは。間違いない、今年は絶対何かが起こる、と相澤は確信した。 滅多に不確定な確信をしない相澤が、確信した“何かが起こる年”であることは、間違いのようない事実として起こることとなる。 「久々に気疲れした……」 波乱そのものといえた登校初日を乗り越えて、伊壱は帰宅していた。 合理的虚偽だったとはいえ、本気で取り組んだ個性使用の種目別テストの結果は、初めての二位だった。 「正直悔しいよなぁ。でも、流石に万力とかには敵わないや」 伊壱を抑えて一位になった女子、八百万百。創造という個性の持ち主の女子生徒が、持久走においてまさかバイクを創造するとは思わず驚愕した。 自分の個性も強いが、彼女の個性は使い時を選んでしまう自分のものと比べると、使い勝手がとてもいいように思える。きっと彼女にも、何かしらのデメリットがあるとは思うけれど。 「ん? バイクならガソリンも作れるのかな……? 液体が可能なら経口補水液とか、輸血用の血液とかも創造が可能かもしれないのか……?」 ふとした疑問を抱いた伊壱は明日辺り機会があれば聞いてみようと決意する。 師からは今日は鍛錬禁止と言われていたので体を休めるとともに医師になる勉強に励んだあと、転生する直前のことを思い出していた。 白い神様は確かに言っていた。 《《漫画などから得た能力のデメリットは必然として引用された世界を基準とする》》と。 伊壱がオペオペの実を使用する度、実際彼が得ている在り得ないほどのスタミナを意図も容易く奪うその大きすぎるデメリットの原因は、悪魔の実シリーズのカナヅチがあるのと同じ理由だ。 単純に《《ONE PIECEの世界の方が、こちらの世界よりも身体能力が高いがゆえに起こっている現象》》だった。 「神様もそう言っていたし、間違いないだろうけど……。でも、なんで俺、個性なしの時はあんなに体力あるんだろ? 昔師匠に連れて行ってもらった研究所でも、結局分からず仕舞いだったし……」 いくら首を捻っても答えは見つからない。唯一個性が原因ではないことはわかるのだが、それにしたって、本人が自覚するくらい異常なまでの体力が伊壱にはあった。 「お陰で助かってはいるけど」 「伊壱、ご飯よー!」 一階から呼びかける母親の呼びかけに応じた伊壱はそれ以上考えることを止めた。 わからないのも無理はない。 何故ならそれは、伊壱が転生した後にこの世界の神様に無理言って頼んだ、最後の“お詫びの品”であり“神様の気紛れ”だったのだから。