十二月十日

「ねぇ、花村はクリスマスなんか予定あんの?」

千枝ちゃんが購買で買ってきたパンを頬張りながら花村くんに聞いた。
クリスマスと言うワードを耳にした途端、花村くんは苦い顔をしてお弁当箱を一旦机に置いた。

「あー……二十四、二十五とバイトだわ。全国の恋人がいるクリスマスを過ごす奴らが憎い、憎すぎる」

わなわなと震え、怒りを大袈裟にアピールする花村くんを女性陣は華麗にスルーして続ける。

「じゃあ二十三日は空いてるんだ」
「クリスマス会、私と千枝とみやびちゃんと花村くんでやらない?」
「それ、すごい楽しそうだね」

クリスマスを花村くんと過ごせたらなぁ、なんて私は図々しくも思っていたが、誘う勇気が湧かないまま十二月を迎えてしまっていた。

そんな中での雪子ちゃんと千枝ちゃんの提案だ。有り難く乗らせて頂こう。
早めのクリスマスプレゼントを有難う、と二人には内心感謝の気持ちでいっぱいだ。

「おっ、いいじゃーん!チキンとケーキ持ち寄ってさ。プレゼント交換も外せないよな!」
「うん楽しみ!あ、でもさ。祝日だけど、クリスマス会出来るような場所のアテあるの?」
「……あ」

盛り上がっていた空気が突如として萎んでゆく。けれど、私には思い当たる場所があった。
恐る恐る手を挙げると皆の視線が集まる。

「……絵画教室、祝日は午前中までだから。よかったらうちでやる?」
「マジ!?日高さんち広いしマジありがてぇー」
「……花村、あんたみやびちゃんちに行った事あんの?」

千枝ちゃんがジトッと花村くんを睨むけれど、色々と誤解だ。

「何考えてんのか分っかんねぇけど、一条長瀬と作品に使う木材切るのお手伝いしただけなんですけどぉ!?」

花村くんは疑われて心外といった様にこの前のお手伝いの事を話す。

「うん、かなり助かっちゃったな。もし皆が嫌じゃなかったら一条くんと長瀬くんも呼んでもいいかな」
「人数多い方が楽しいしね。あたしは賛成」
「みやびちゃんちでやるし、みやびちゃんが呼びたい人を呼ぼう」

千枝ちゃんと雪子ちゃんは賛成みたいだ。
花村くんもあの二人と仲が良いから決まりだな、と思いつつ彼の顔を見ると酸っぱい様な、苦い様な……変な顔をしていた。

「花村くん?」
「あ、いや、俺一人でさこんな美女二人と里中でクリスマスなんて学校中の野郎に刺されるんじゃないかと心配してたからホッとしましたよ、ええ」
「……ちょっと。なんで私だけわざわざ分けた!?」

ハハッと花村くんはいつもの調子で笑う。
本人が言うなら、そういう事にしておくけれど、もしかして喧嘩とかしたのかな。

「誘うの、やめとこうか?」と言いかけたが何かあるのなら私は変に突っ込まない方が良さそうだ。
……軽口を叩く花村くんはいつも通り千枝ちゃんと喧嘩してるし、やっぱり変に気を遣わない事にしよう。


* * *


「というわけで、二十三日、二人は空いてるかな」
「も、勿論!いかせて頂きますとも!」
「食いもん出るなら」

放課後、隣のクラスにお邪魔して一条くんと長瀬くんの二人を誘うことが出来た。

特に一条くんが食い気味にきたので、なんとなく前から千枝ちゃんの事が好きなのかなーと思ってたけど、今回で密かに確信した。
千枝ちゃん、可愛くて誰とでも仲良く話せるからね。わかるよ……!

「ケーキは作っとくので各自お菓子とか食べたいものを少しずつ持ってきてね」
「はいよー」

「よろしくね」と一言声を掛け、帰る支度の為に自分のクラスへ戻ろうとすると長瀬くんに肩を掴まれた。

「どうかした?」
「いや、日高ってなんか好きな食べ物とかあんのか」
「甘いものはなんでも好きかな。あとはカフェオレとかミルクティーとか」
「そうか。ありがとな」

一応お呼ばれだからか、私の好きなものを買って来てくれる感じなのかな。 「楽しみにしてるね」と返せば長瀬くんも「俺も」と返してくれた。

長瀬くんって硬派なイメージだけど実はノリがいいというのをここ最近知ったので、なんだか話しやすい。

今度こそ隣のクラスを出ると教室の窓越しに一条くんにお腹のあたりを肘で小突かれている長瀬くんが見えた。


* * *


「皆に喜んで貰えそうなもの」

クリスマス会まであまり日がないので、一人プレゼント選びに早速沖奈までやってきた。

「ああでもない、こうでもない」と独り言をブツブツ呟きながら条件を満たすものを見つける為にショッピングモールを徘徊するも、あまりピンとこない。

プレゼント交換の予算は決まっているし、女の子だけだったらコスメとか靴下とかアクセサリーとか割と色々な候補が思い浮かぶけれど、今回は男の子もいる。……む、難しい!

食べ物とか、入浴剤とか消えもの系が最悪その人には合わなくてもご家族で楽しんでもらえるからいいかなあ、なんて消極的思考になってしまう。
負のループに陥っているのか、さっきから考えれば考える程、しっくりこない物ばかり目に入る。

……一旦頭の中を切り替えよう。
原点に振り返り、私だったら何が欲しいかを改めて考え直す。
うーん。沖奈でワクワクする買い物といえば私的には画材、だろうか。

「あ!」

ピンと閃いた物は初心者でも扱いやすい。完二くんに中学生の時プレゼントした事もあるが、ずっと愛用してくれている。これしかない気がしてきた!

急いでいつもの画材屋に行けばお目当ての物は売っていた。決められた予算的に十二色入りのプロ仕様の物にしよう。

紺色を基調とする落ち着いたラッピングをレジで頼んだ。ユニセックスな雰囲気でいいと思う。
余程私はニコニコしていたらしく、顔馴染みの店員さんも釣られた様に微笑んだ。

「ふふ、プレゼントですか?」
「はい!……大切な友人たちと初めてのクリスマス会なんです」





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