四月十五日

昨日今日と花村くん千枝ちゃん、それから鳴上くんが不自然に集まっている。 仲が良いから≠ニ言うよりかは何か秘密の共有でもしてる様でどこかコソコソとしている。

雪子ちゃんも旅館の事で立て込んでるらしく今日は遅れて学校に来るようだ。 話し相手がいないし、家に帰ったら即、個展の準備をしているので仕方無しに宿題を進めていく。 …一人は馴れているが、久し振りのこの感覚に少しだけ心がモヤモヤとする。


お昼の時間になっても雪子ちゃんは来ない。

「千枝ちゃん、一緒にお昼食べよ」
「あ、そうだね!」

食べよう食べよう!と千枝ちゃんは明るく言うけれれど一瞬鳴上くんと花村くんを見たのを私は見逃さなかった。

「えーっと、なんか最近あった?」
「えっ、いやあ…と、特に…」

特に何かがあるんだろうなあと、千枝ちゃんの怪しい回答に思う。 けれど何かを思うところあって内緒にしているんだろうとも、思う。
もし私の事を嫌いになってもあの3人はこんなコソコソ仲間外れみたいなことは絶対にしない。

ならば悪い知らせがあって余計な事言って悩ませたくない…とか?あとは逆にサプライズ…?とか。この二択だろう。
ならばこうやってご飯を一緒にしてくれるうちはみんなを信頼して何も言わないほうが良いのかもしれない。 自分をそう納得させる事にして、なははと苦笑いする千枝ちゃんに笑い返した。



「全校集会、かあ」

突然の集会のために学校中の生徒が体育館に集められた。 なんだかイレギュラーが続くなあ…。 今回も急すぎるし恐らく嫌な事で集められるんだろう。そう考えると気が滅入る。

「昨日さ…見た?」
「見てないって、あんなの。けど、あの話ってマジなの?」
「分かんないけど、なんか見たって人結構いるみたいだよ」

他のクラスの女子生徒がヒソヒソと噂話をしている。見たってなんだろう…この口振りだとテレビじゃなくてユーレイとか…?そんなの、流石に馬鹿げてるか。

「雪子、午後から来るって言ってたのに…」
「心配だよね。それになんなんだろうね、集会て」
「ね。てか花村どしたの?」
「ん?いや…別に」

やけに神妙な顔を花村君はしていた。この胸のザワザワと何か関係あるのだろうか。 本当に?と聞きたかったが校長先生が教壇に上がった為断念せざるを得なかった。


コホン、と咳払いをする校長先生の声はかすかに震えていた。ああ嫌な予感がする。

「今日はみなさんに…悲しいお知らせがあります。…3年3組の小西早希さんが…亡くなりました」


うそ。
校長先生の話は今迄に聞いた話の中で、1番衝撃的で。

息が、苦しい。

呼吸の仕方を急に忘れてしまったのかもしれない。それ位には胸で何かでつっかえている。
亡くなった?…なんで?前会った時は病気してる様には見えなかった。意味が、わからない。 もしかして、山野アナみたいに。

酸素が足りてないのか頭がぼーっとする。

何もかもが現実味が湧かないのだ。
身近な人が死んだって事。もしかしたら大きな事件の続きかもしれないという事。私の好きな人の…好きな人が亡くなったという事。

前に立つ花村くんの身体が震えていてる。悲しみでなのか、怒りでなのかは分からない。 私ですらこの感情の処理の仕方が分からないのだからもっと違うものなのかも知れない。

何か声を掛けたかったが、ただ俯いて震える彼の背中をぼんやり見つめる事しか出来なかった。



気付けばHRが終わっていた。
ずっと思考が同じ所でグルグルしていて、誰かに吐き出したい。 けれど、何時もの仲間達…花村くんのが気持ちが迷子に違いない。甘えたいなんて、思っちゃ…ダメだ。

意識を引き戻して隣の席を見るが主はもう既に不在だった。 1人になりたくてもう帰ったのかもしれない。 誰も座って居ない机を一撫でして教室を出た。


「完二くん」
「…みやび」
「その、今日はどうしても一緒に帰りたくて」
「分かった」

1年3組の教室へ駄目元で寄ると馴染みの姿があった。私の取り留めのない話を聞いてくれるのは、完二くんだけだ。 完二くんも今日の事で思うところがあったのだろう。私の顔を見て張りつめていた雰囲気が少しだけ和らいだ気がする。

「あ、弟さん…はいいのかな」
「尚紀なら今日は来てねーつか、来れねえだろ」
「…そっか」

お互いに終始無言で帰りの道を行くが、それだけでも少しずつ冷静になっていくのが分かる。 てっきり巽屋に行くかと思ったが完二くんはジュネスの方、つまりは私の家の方にズンズンと進んで行くので立ち止まる。

「いいの?」
「今日は教室寄る」
「そっか。…あのね、完二くん…」

私が知っている男性の中では完二くんが1番背が高く、目と目が合うのも一苦労だが灰色の瞳はしっかりと私を見詰めていた。

「私ね、もっと小西先輩と話して見たかった」
「恋敵だったじゃねーか、尚紀姉」
「…だからこそかもしれない」

完二くんはよく意味が分からなかったらしい。軽く首を傾げると何も言わず歩き出してしまった。その後ろを小走りで付いて行く。

「みやび、お前は馬鹿だから」
「…うん」
「色々と勝手に悩んでんだろうが、尚紀の姉ちゃんは少なくともお前にそんな顔させたく無いだろうよ」
「…うん」
「たから、俺も思うところ全くねーとは言わねえけど…変に気負わない事にするわ」
「そっか…うん、そうだね」

悔しいけど、こういう時の完二くんて、なんか大人だ。
不意に完二くんのお父さんの事を思い出す。 気持ちの整理の仕方とか、身近な人を思う心とか。 完二くんは本当に、優しいから。


「…完二くん、今日だけだから」

鍛えられた腕を握ると完二くんは何も言わずにそのまま歩き出した。





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