四月二十四日@

日曜日の朝はやる事が決まってる。

教室の清掃と、午前クラスの生徒さんを迎え入れる事だ。 このお手伝いをこなす事で教室の端に自分の作業スペースを置かせて貰えてる訳でサボるわけにはいかない。

トーストとハムエッグをしっかり頂いて、黒のつなぎに着替えた。 昨日の夜は雨が降ったからこもった空気を入れ替えて、教室でモップをかけていた…所までは覚えている。


「ここ、何処だろう…」

気が付けば、紫の上質なカーペットに倒れ込んでいた。 上を見上げると豪華なシャンデリア。クリーム色の壁にはぎっりしりと絵画が掛けられ、彫刻や人形、時計などの骨董品も所狭しと並んでいた。
お城のような、美術館のような…。兎に角豪華だけど、統一性が無い異質な空間である。

…夢なのかな?私寝ぼけてる?

「あ、れ?」

並んでいる作品は自分も知っている巨匠の作品ばかりで、本物か贋作かは不明だがそういったコレクションなのかと思いきや自分の父やミヤタ先生の作品に完二くんのこの前作ってくれたドレスなんかも置いてある。


…けれど、私の作品は一つも、無い。


「ここはね、みやびが好きな物が集うオークション会場なの」
「え?」
「本物さん、おはよー」

気怠くて立ち上がるのも億劫な私を見下すのは…私?

顔は今朝も見たが、間違いなく私。声も多分、私。 けれど服装は一度も着た覚えがないバニーガールのコスチュームだった。
夢だからかコンプレックスの…胸は衣装に釣り合うくらいには豊満になっていてるがそれ以外は完全に自分と瓜二つだ。

「ねえ本物さん…時間は沢山あるし、素敵な作品を鑑賞しましょうよ」
「え、いや確かに魅力的だけど、早く起きなきゃ。教室の準備して個展の準備あるし…」
「…個展て本当にそんなに大事なの?」
「えっ?…貴方も私ならどれだけ大事か分かるでしょ?」
「…もう少しするとね本物さんの作品のオークションが始まるけど…それからでも遅くないんじゃない」

成る程、だから私の作品はここに並んでなかったのか。いやでもこれは夢なんだからとりあえずは起きなくちゃマズイ。 モップの後にイーゼルを拭いて…後はお茶の準備がまだだ。

「私の作品なら大丈夫だから。起きなきゃいけないし…」
「夢じゃないよ」
「え?」
「だから、一緒に来て」

ね?とニセ私が凄み、思わず怯む。 私の腕をとんでもない力でぐっと掴み足がおぼつかない私を無理やり立たせた。


「まだ沢山お話ししたい事があるの」



* * *



日高さんがいなくなった。

昨日のマヨナカテレビに、どこかで見たドレスを着た女性が写り込んでいて…まさかとは思ったが、そうだった。

今朝、天城屋に日高さんの家族から日高さんが行ってないか?と連絡が入って発覚した。

日曜日の朝は教室のお手伝いを必ずしているのに途中で放り出して消えたような…不自然な消え方らしい。
もし、日高さんがテレビの中にいるのならこのタイミングだ、恐らく天城と同一犯だろう。

「みやびちゃん…どうしよう、あたし…みやびちゃんに何かあったら」
「今は大丈夫だと信じて私達で助けに行こう」
「うん…」

日高さんにキチンと俺たちが何をしているのか話していたら…こんなことにならなかった。 俺をはじめ特別捜査隊のメンバーはみんな一様に落ち込み動揺を露わにしている。

あの時、テレビの世界について話していたら。
あの時、もっと狙われていると注意できていたら。
あの時からずっと守らなきゃて思ってたのに。
不甲斐ない自分にイライラしてフードコートのイスに勢い良く座る。

「クソ…本当に俺って使えねー…」
「花村…」
「俺が説明不足で距離を作ってしまったのがそもそもの原因だと思っている。…花村、本当に申し訳ない。一緒に日高を助けよう」

こんな時も鳴上は冷静だ。
あまりにも冷静すぎて少し苛立ちを覚える自分が子供すぎて余計イラつく。ダメだ、冷静になれ。

「いや、鳴上の所為だけじゃない。事件から遠ざければ守れてるって勘違いして酔ってた、俺も」
「あたし達も、みやびちゃんを不安にさせてた。だからこんな事になっちゃって…謝りたいよ」
「うん…みやびちゃんを一刻も早く助けよう。皆私を助けてくれたんだから…今回も大丈夫だよ。私も頑張るから!」

気持ちは一つだ。 顔を見合わせ全員がコクリと頷く。


「日高が本当にいないのか町の人に聞いて…今日は夜から雨だからチェックしよう」
「わかった」
「ちなみに誰か俺たちの他に日高と仲がいい人って分かったりするか?」
「…実は、みやびちゃんの言う幼馴染に心当たりがあるんだ」

そういえば…たまに日高さんの口から幼馴染がいると聞いていた。 学校が違うのか、はたまた年齢が違いすぎるのか学校でそれらしき人は見かけた事が無かったので驚いた。

「天城、マジか!?」
「うん…。でも多分だし、いろんな意味で人見知りな人だから私1人で聞きに言ってくる」

天城が眉をハの字にし、言い淀む。 なんつーか…緊急時なのにそれって…結構癖が強いタイプなのか…?その幼馴染さん。

「わかった。じゃあ俺は日高の熱心なファンに聞いてみるよ」
「じゃあ、あたしは絵画教室の人と親御さんに」
「俺も親御さんに聞きたいことがあるからついて行く」
「オッケー、じゃあ17時にまたここで」


日高さん、どうか無事でいてくれ…!





atlus top
index