四月二十四日A

その昔、完二くんは絵画教室に通っていた。


商店街へのお使いついでに巽屋さんを覗いていたが日に日に完二くんと会わなくなった。 何でか不思議に思い完二くんのお母様に尋ねたら絵画教室で出来た友達と熱心に遊んでいるとの事で納得した。

もっと小さい時は沢山お喋りしたものだけど、小学生になったらやっぱり男の子同士で話した方が楽しいのかな?と勝手に思い込んでいたんだけれど…。

恐らく、その友達はみやびちゃんだろうと最近気付いたのだ。

絵画教室はここら辺だと日高絵画教室くらいだ。 わざわざ遠出する理由もないだろうし、完二くんはまず間違いなくみやびちゃんと接点はある。

他に学校に何人かいる絵画教室に通っている子とみやびちゃんが話しているところを見た事もあるが、特別親密そうかといえばそこまででは無さそうだった。 そもそもそこまで仲が良かったらみやびちゃんは私達に紹介してくれると思う。

決め手は校門で知らない人に話しかけられた時、その人がみやびちゃんに不良の友達がいると言っていた事だ。

しかもその人だけが特別≠ニ言うような口ぶりだった。 絵画を嗜んでいて、ぱっと見が不良となると…かなり絞られるし、中々に2人とも…目立つだろうし、お互いが特別というのも何となくわかる。

やっぱり、そうだろう。
急いで巽屋さんへ急ごうと商店街の道を早歩きで行く。 途中、四六商店の袋を抱えた体格のいい金髪の男性が前を歩いているのを見つけた。

…完二くんだ。ついてるかも!


「完二くん!」

くるりと向き直った顔は久し振りに見たが、間違いなく完二くんだった。

「久しぶりだね。…えっと、少し聞きたいことがあって巽屋さんへ行く途中だったんだ」
「ゆき…じゃなくて、天城先輩。久しぶりです。その、やんなきゃいけない事あって、あんま時間取れないんすけど…」
「それって、…みやびちゃんの事かな?」
「あ!?なんで天城先輩知ってるんすか!?て思ったけどあいつと仲良いから…?て事すよね」

ほぼほぼ確証はあったけれど、完二くんでやっぱりあっていたらしい。…良かった。

「高1から同じクラスで、仲良しだと思う。旅館にみやびちゃんの親御さんから連絡が来て…みやびちゃん、どこ行ってるか分かったりしないかな?」
「俺も親御さんから聞きました。…みやびの奴、バカ真面目なんで教室の手伝いを放ってなんて考えられないし…今迄も聞いた事、無いっす…」

完二くんの声は少し掠れていて、テンションも低い。幼馴染からしてもこの状況は異常らしい。

「沖奈の画材屋やらあいつが気に入ってる場所にも電話しましたけど、来てないらしくて。アイツに熱あげてるストーカー野郎は何人かいるの知ってるんでこれからシメに行こうかと…」
「し、しめるのはダメだけど、名前とか知ってる…?」
「いや、顔は分かるんですけど…なんでこれから張り込み予定っス」

だからなのか、ちらりと覗き見た四六商店の袋の中には食べ物と飲み物が詰め込まれている。

「そっか…今のところ完二くんも収穫なしか…。また何か分かったら連絡くれるかな?…暴力は絶対ダメだよ?」
「了解っス。あ、あと…その、みやびのやつが俺と幼馴染だって言ったんすか?…いや、隠したりとかしてる訳じゃ無いんですけど、大っぴらにしてる訳でもないんで…」
「ううん。でも絵画教室に通ってた人てなると限られるから…」


みやびちゃんと幼馴染だとばれると何か不都合があるのだろうか? 絵画教室に過去通ってたのが意外で恥ずかしいとか…?
老舗の染物屋である巽屋の息子ならば意外でも何でもないけれど、不良の完二くんしか知らない人からすればおかしいのかもしれない。

あー…と呻きながら落ち着きがない完二くんが諦めたように私に視線をやった。

「その、俺が、みやびにはこんな幼馴染がいたら迷惑かけると思って言うなって言ってるんすけど…本人はあんま気にしてないみてーで。天城先輩、今後も何か無い限り内緒にしといてくれませんか」
「分かった。…みやびちゃん、幼馴染とあみぐるみ作ったりするって言ってたけどそれは」
「みやびの趣味ですからね!?おおお、俺じゃないっす…まあ手を動かすのは嫌いじゃないですけど」

動揺する完二くんが面白くて思わず少し笑ってしまったが、聞きたい事はまだある。 キリッと気持ちを引き締めて完二くんに向き直る。


「あのね、作家としての弱音って多分、完二くんしか言ってないと思うんだ。みやびちゃん何か言ってたりしなかった…?」



* * *



雨音に混じってバチバチとノイズが聞こえてくる。多分、写る。 どんな些細な事も見逃さないように自然と体がテレビに近づく。

テレビの画面がノイズまじりの真っ黒から真っ白に切り替わる。霧に包まれている人影はもしかして…? 霧が徐々に晴れると人影は予想通り、日高さんに姿を変える。

…えーっと…顔や体型は間違いなく日高さん…なんだけれど、彼女がとんでもない格好をしてる為、断定出来ない。

「みやびちゃんの心ぴょんぴょん!ステキオークションの時間でぇーす!」


ぴょんぴょん、と頭についているウサギの耳をいじる自称日高さんは体のラインがハッキリと出るボディースーツを着ていた。それに網タイツに赤いハイヒール。 つまるところ…バニーガールってやつだ。

「なっ!?うお!?」

刺激たっぷりの絵に思わず声が出るが、落ち着け。俺。 バーンとけばけばしいテロップが出て確認する。どうやらオークション番組…らしい。
確かにこの手の番組にはバニーガールは出るけれど…。クラスメイトのバニーガールのがセクシーダイナマイトなお姉様より色んな意味で刺激が強かった。

「今日はなんと期待の新星!みやびちゃん自身も出品されちゃいまーす!うふふ、みやびちゃんの魅力が分かる人に長く長く愛でてもらいたいです!…す・べ・てを、ね」

ニコ!と真っ赤な口紅が塗られた唇を引き上げた日高さんはくるりと一回転すると胸を抱え込むようにして体をくねらせた。
…これは中々に…クるけれど。…ってあーもう、俺という男は!!

「みんな、是非参加しちゃってねぇ〜!それじゃ会場にれっつらごー!」

完全に日高さんに見入っていたが彼女の背後にはビル…いや高級ホテル?のような建物が聳え立っていた。
オークション会場はこちら≠ニご丁寧に書かれた立て看板を突き立てると彼女は看板に描かれている矢印の方向に消えていった。

呼応するようにテレビの画面もジジジ…と音を立てて自然に消えた。


えーっと、落ち着け。兎に角、落ち着け。と、とりあえず鳴上に電話しよう。 早速かけると2コール目で鳴上は電話に出た。

「な、鳴上!日高さんが」
「やっぱりテレビの中みたいだな…」
「早く…。早く助けないと…」
「分かってる。明日にでも行こう」
「オッケー、明日に備えて早く寝ろよ」

鳴上と話して少し冷静になる。 テレビの中に入れられた以外に、もしかしたら熱心なストーカーに連れ去られたという説もあって、気が気じゃなかったがとりあえずはまだテレビの中にいてくれているみたいだ…。


布団に入り瞼を閉じると、泣いて教室を飛び出した日高さんが浮かび上がる。 日高さんは隠し事をしてた俺たちをずっと心配して、信じていてくれたのに。

今日、絵画教室へ行ったのは、手紙を日高さんが読んでくれたのかを親御さんに確認したかったからだ。 手紙は無くなっていたが読んだか分からないという親御さんに日高さんの部屋を見てもらい、開けてない状態で机の奥底に眠っていたと聞いた。

信用してくれてないと、思う。
けれど、捨ててないならまだやり直せるとも、思う。

小西先輩の事とか、なんか…吹っ切れたくて…がむしゃらだったと言うのは言い訳だ。

明日だ。 明日必ず助け出して、謝る。





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