四月二十五日@

隣の席の里中は授業中、普段と変わらない様にと努めてはいるみたいだが急に泣き出しそうになったりと少し不安定だ。隠し事をしていたという負い目がそうさせるのかもしれない。

里中の前に座る天城は集中してノートをとっている様だった。天城が休みの時は日高にノートを見せてもらったみたいだから恩を返したいのだろう。

後ろの席に座る花村の様子は流石にじっくりとは伺えないが、昨日のイライラや焦燥感は消え去った様で落ち着いた様子だ。
プリントを回す時、顔を盗み見たが昨日より顔色も良くなっている。 正直、日高の事では花村は冷静になれないのではないかと思っていたので驚いた。…花村の影の声も知っているから、尚更だ。相当意思をしっかりと固めて来たのだろう。


俺が転校して来てからは事件や個展で別行動気味になっていたがその前は日高を含めた4人で色々とやって来たのだろう。
みんながみんな感情的になったら終わりだと思い努めて冷静にしてきたが、実の所俺も日高に対して申し訳ない気持ちでどんよりと沈んでいる。

日高の立場からすると、大切な友人達が危険な殺人事件に首を突っ込むようになったのは俺の所為に見えるだろう。嫌われていても仕方ない。
隠さず、天城に話を聞く時に(信じてもらえないかもしれないが)彼女にも同席して貰えば良かった。 あの日、日高にとんでもなく残酷なことをしてしまった。

俺も彼女に謝らないといけない。 来たる放課後に向けて気持ちを切り替えを落ち着かせる。

…助けられるのは俺たちだけだ。



* * *



「クマ!女の子が来なかったか!?えーっと美人で、髪の長さはこんくらい。いなくなった時と同じなら黒いつなぎを着てるはずなんだ」
「花村、すっ飛ばし過ぎだって。クマくん、日高みやびちゃんっていう私達の友達が昨日から行方不明なの…」

放課後になると同時に俺たち4人はジュネスまで一斉に向かった。 人がいない隙を見計らって家電売り場のテレビからテレビの中へ入り込む。
テレビの世界の住人であるクマは入ってすぐのスタジオに控えていたので聞きたい事を一気に聞こうとすると里中に止められた。焦るな、冷静になれ俺。

「オンナノコ…?ンー確かに誰か知らないにおいがするクマ…」
「えっと、この左に写ってる子だよ。天才人形作家として有名なの」

天城が里中と日高さんと一緒に写ってるプリクラをクマに渡す。プリクラに写る3人は満面の笑みを浮かべている。
場違いだがそのプリ欲しいなぁ、なんて思う。天城と日高さんとか激レアじゃん…。てか俺をハブんなよ!と思ったが、日高さんにした仕打ちで胃がキュッとする。

「最近私たちはずっとこっちに来てたでしょ、何も言わなかったから…泣かせちゃったんだ。友達として最低だよね。だから必ず助け出して…謝りたいの」
「わかったクマ!そういう事なら必ず探し出すクマよ!えっと…このクールビューティーがミヤビチャンクマね?」
「うん。テレビではオークションに出るって言ってた。それらしき会場を探そう」
「も、もうちょっとヒント欲しいクマ。ミヤビチャンて子はどんな子なのか教えて欲しいクマよ」

クマからの質問に全員がうーんと唸りだす。身近な人だからこそ案外難しい…ってやつだ。

「うーんあたしからすると…みやびちゃんはかなり真面目というか律儀。売れっ子作家なのに偉ぶらないというか、控えめ?ノリが悪いとかは全くないけど…」
「うーん…みやびちゃんは人の目を気にし過ぎる所があるなあて思う。ファンの人と話す時のみやびちゃん、漫画の世界でしか見た事ないお嬢様キャラに完璧に切り替えてるし」
「完璧てワードで思い出した。そう、日高さん結構な完璧主義なんだよ。自分にだけ異常に厳しいっつーか」
「…意外だったのが日高が幼馴染?のことを馬鹿にされた時激昂してそいつを叩きそうだったんだ。落ち着いてる奴だけど、友達関連になると凄く感情的になるんじゃないかと思った」

日高さんが人を叩く?それは意外だったけれど天城と里中がうなずく。

「えっと、みやびちゃんの幼馴染さん情報だと、幼馴染さん以外の友達はやっぱり私達くらいみたいなの。文化祭くらいからみやびちゃんの雰囲気変わったって言ってたからその…なんていうか私達の事かなり大切に思ってくれてるみたいで…やだ、涙が」
「雪子、落ち着いて…」
「うん…あとね、さっきもつい言っちゃったけど、みやびちゃん実は天才って言われるの嫌いって言われたんだ…。」
「う、みやびちゃんを紹介する時、結構言っちゃってたかも…」
「えっと、ミヤビチャンは友達思いで自信があんまりない子クマね?」
「簡単にまとめればそんな感じか…?」

クマにこくりと頷けば目を閉じ鼻をヒクヒクし始めた。 これで見つかるのか疑わしいが、すぐにヒットしたようでパッと目を開いた。

「みつけたクマよ!」



クマの後ろに着いて歩いて行くと程なくして大きなホテルらしき建物に着いた。 テレビで映った通り、立て看板もある。間違い無さそうだ。

「ここにいるはずクマ!」
「えーっと…地下に下っていけばいいのか?」
「闇オークションっぽい…」

恐る恐るホテルの中に入って行く。 クリーム色の壁にはたくさんの絵画、高価そうな紫色の絨毯の上にはよく分からないオブジェが沢山並んでいる。
ホテルじゃなくて美術館かと思うような量だ。芸術にサッパリな俺と里中とクマはふかふかのソファや立派なバーカウンターに感嘆を漏らしたが鳴上と天城はじっくりと見入っているようだ。

「この美術品がどうしたんだ?」
「法則性があるのかな?て思ってるんだけど…全くないし、どうやらみやびちゃんの趣味みたい」

確かに年代や作品形式なんかもバラバラだ。 俺でも知ってるような印象派の油絵がある隣には現代美術なのかガラス玉がたくさん付いている動物の剥製やらが置いてある。 その隣のトルソーにはネイビーのスカートと頭飾り(多分今月号の百合となんちゃらってやつで着てたのを見た)。絵画教室で見た日高さんのお父さんの絵もある。 何故かりせちーのフィギュアまで飾ってある…日高さんって意外とアイドルもいける口なの?

「気を付けて進んでいこう」

鳴上に警戒を促され周りを窺いながら進んで行く。確かにこれだけ物があるとシャドウに気付くのが遅れそうだ。

隙間無く芸術品が置かれた廊下を進んで行くと蘭の間≠ニ案内板が出ている扉に着いた。

「だれかいるみたいクマ」
「皆、準備はいいか?」
「OKだぜ」

紫色の重たい扉を開くと、中心のステージを囲うようにテーブルが綺麗に並んでいた。 ステージに飾られている蘭の絵を夢中でみている女性が1人。 ウサギの耳をつけているから彼女は本物では無く…影の日高さんだろう。

「おいっ!本物の日高さんはどこだ!?」
「えっ、あっ、びっくりしたあ!うそォ、陽介くんだあー!千枝ちゃんも!雪子ちゃんもぉ〜!」
「おっ、おう…」

金色に光る瞳と目に毒なバニースーツの日高さんはシャドウのくせにやけにフレンドリーだ。いやいや気を抜くな。

「みやびちゃん、あたし達謝りたくて来たんだよ。本当にごめんね。…だから本物さんにも会いたいっていうか」
「こんな所まで本当に有難うね。アタシもみんなの事大好きだよ!特に…えへへ。…でもね、アタシ…ううん、語るより来てほしいなオークションに」

ニコニコとしたシャドウの日高さんが熱っぽい視線を俺に向ける。 なんていうか、うん。正直言って嬉しいっていうか満更ではないのだけど。
…ここ最近の色々で起こったり考えたことは本物の日高さんに伝えたいのだ。

「そこに本当の日高さんがいるのか?」
「やだなあ…将来のダンナさんでしょ?間違えないで。アタシが本物の日高みやびだよォ?」

くるりと日高さんの視線が俺の方から鳴上へと移る。

「オークションなんだけど、…鳴上くんには来て欲しくないから…残念だけどここでバイバイ」
「ここでバイバイって…うお!」
「皆下がれ!」

影の日高さんが突如として消えその場には蘭の花を頭に咲かせた巨大な赤ん坊が3体現れた。恐らくバンビーノ系のシャドウだろう。

「いつもの陣形で行くぞ、花村頼む」
「オッケー!ジライヤ、ガル!」

まずは先陣切って俺がペルソナを召喚し、魔法を使う。赤ん坊にガルが直撃し、おぎゃあ!と泣きひっくり返った。

「お、弱点みてーだな!」
「一斉攻撃を仕掛けるぞ!」
「わかった!」

ひっくり返った赤ん坊に攻撃するのは絵面的に少々気が引けたが4人の力を合わせて無事倒す事が出来た。鳴上もガルを使えるペルソナに付け替えられるのがやはりデカイ。純粋にすげーよ。

「よし、鳴上くん、オークション会場に急ごう!」
「ああ…」

俺たち3人には好意的だったのに、鳴上にだけ日高さんのシャドウは冷たかった。 これには流石の鳴上も堪えたようで里中への返事は元気がない。

「みやびちゃん、誤解してるだけだよ。助けて、誤解を解こう」
「うん、みやびちゃんなら分かってくれるって!皆で謝らなきゃ!」
「ああ、そうだな。天城、里中ありがとう」

微笑む鳴上に女子2人の頬が少し赤くなる。お前ら俺にはそんな顔全くしねーよな!? けれど、雰囲気はだいぶ良くなったに違いない。

「おし、気合い入れ直していくぞ!」
「ヨースケ、聞いてもいいクマか?」
「お前このタイミングでなんだよ…」
「ヨースケとミヤビチャンの関係ってムフフな関係クマ?」
「っつつだー!!!!気合い入れていくぞ!!!お前ら!!!」

クマを振り切るようにズンズンと階段を降りていくと慌てて皆がついて来る。俺も冷静になって切り替えないと…。

数えきれないくらいの芸術品をスルーし、道中現れるシャドウを倒す。 進んでいくと今度は椿の間と書かれた紅色の扉を発見した。今までのパターンだと、多分何かしらいるよな。

「クマ、いそうか?」
「恐らく…準備はいいクマか?」

全員がコクリと頷くと鳴上が扉を開いた。





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