おそろいの
夏を纏って

※花村とはまだ付き合ってない夏の話


明るい茶髪が陽に透けて金色に光ってる。 酷く暑い日なのに、日傘の下から覗く世界はキラキラしていた。

目の前の光景を私だけのものにしたくて、ここだけを切り取りたくて、自然と体が疼く。

描きたい。
空気感とか、全てを一枚の絵にしたい。 久しく絵の具は人形の着色以外に使ってないけれど、この淡い揺らぎは絵の具を使った表現のがいいと思う。
夏らしいホリゾンブルーと、レモンイエローの煌めき。

横を歩く彼からふんわりとシトラスの香りがして、ああ彼は間違い無くここにいるんだなあ、なんて愛おしさで胸がいっぱいで。


「日高さん、なんか体調悪い?」

花村くんの横顔をじっくり見つめながら意識を飛ばしていたので、急に話しかけられ心臓が止まりそうになった。

「ええっ!?……なんで?」
「ずっと黙ってたし…暑いのしんどいのかなって」
「あ、いや日傘あるし、大丈夫。急に人形じゃなくてね、絵のアイディアが湧いたから……その、久し振りに絵を描くし。画材とか何色で描こうかな〜とか集中しちゃって。」
「へえ、なんの絵を描くんだ?」

まさか貴方を描きたいとは言えなくて一瞬固まるが、勝手に描いた方が気持ち悪いよな……と思い直して勇気を奮う。


「日差しを浴びた花村くんの髪がね、すごいキラキラしてて……夏だなあて思ったんだ。えっと……迷惑じゃなければ描いても…いいかな?」
「え、あ?……俺の似顔絵?ってこと?」
「なんていうか、似顔絵じゃないんだけど、陽射しを受けた花村くんがいる風景がすごい夏だなあって。空気感をモデルにしたい、です」

花村くんがピタリと止まった。
ミーンミーンと鳴く蝉の鳴き声だけが周りに響いて「やっちゃったかも」と思いつつ恐る恐る彼の顔を盗み見ると耳まで真っ赤になっていた。

「あ、なんか嬉しくて。全然描いてダイジョーブっていうか、むしろよろしくお願いします」
「……ありがとう。描けたら一番に見せるね」


心が、サイダーみたいにシュワシュワとはじけていた。 久し振りに絵を描く緊張感は不思議と溶けていて高揚感に包まれる。

親しい人を作品にする事は、初めての試みだ。
自分の視点を人に伝える、というのはその人との関係性が確かなものじゃ無いと壊れてしまう。そんな繊細なものだと思う。


私にどう見られてるのか。 知るの、怖くないんだ。

それどころか好意的な態度を示してくれた花村くんに、愛おしさが際限なく湧く。
照れ臭いのか少しだけはにかむように笑った花村くんが不自然に私から目をそらす。

彼の髪は変わらず金色にピカピカと光っていた。





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