レディ・
ジュブナイル

※海老原ちゃんと友達で、性格の悪い夢主が好きでもないのに花村と付き合う話。
※海老原ちゃんと番長は恋人→友人ルートでコミュってる
※怒る花村が書きたかったので、救いはない。かなり人を選ぶ話です。




女の子はちょっと馬鹿なくらいが可愛いってパパが言うの。
それを女の子が聞いたらどう思うのか想像もしないパパも馬鹿だけど、何だかんだそうでしょと思うあたしもいる。

「それ、〇〇だよー」って丁寧に教えてあげると、多くの男の子は「そんな事知ってるし」って機嫌が悪くなるし。
だけど逆に「それ、〇〇だよ」ってあたしにものを教えてる時の男の子の顔ってなんか気持ち良さそうなんだよね。

プライドだけが一丁前に高くて実がないのはダサいなあって思う。でもね、そのダサい生き物に庇護される方が楽って思ってるあたしも大概だよね。

しょーがないよ。だって勉強嫌いだもん。


* * *


「え〜っ!あい、鳴上くんと付き合ってるってマジ!?」
「マジ。つか、馴れ馴れしく話し掛けないでくれる?」
「だってタイプ全然違うじゃーん!どゆことか聞かせてよー」
「なんでアンタに言わないといけないの?」

あいの視線は綺麗に巻かれた自身の髪にだけ注がれている。会話のラリーは続くけれど、私の事は眼中に無いのは明らかだった。

「友達じゃん?あたし達」
「都合がいい時だけね」
「そんな事、ないってぇ……」

痛い所を突かれた私は誤魔化すように笑った。けれどその笑みはきっと不自然に違いない。
ヘラヘラ笑う私を一瞥する事なくあいはスタスタと放課後の賑やかな声が響く廊下を歩いて行く。その姿は女王様そのもので、誰もがお喋りを一度止めて威圧感のある彼女の為に道を開ける。

どんどん離れて行く華やかな後ろ姿をあたしは静かに見守る事しか出来ない。そんなあたしを先程のやり取りを見ていた数人がクスクス笑う。
イライラを隠すことなく、私はそいつらを睨み付ける。そうすると途端に萎縮するのだから本当に救えない。

このクソ田舎に住んでる連中は本当に地味で陰湿で同調圧力に負ける、自分の意見が無いバカばっかだ。
あたしはあの輪に入る位なら首を吊って死ぬ。


あいとあたしは似てると思ってる。
それをあいに言ったら露骨に嫌な顔をされると思うから言わないし、そもそもそんな恥ずかしい事フツーは口に出さない。

あいは中学生の時に大都会からこっちに越して来たらしい。高校に入学してから初めてあいに会った時はこんなに垢抜けた子がいるなんて、と本当に驚いた。そして、負けたとも思った。

お小遣いはメイク用品や服に全て投資していたし、毎日スキンケアやストレッチも頑張っていた。なのに、どう考えてもあいの方が洗練されていた。
生まれ持った容貌やスタイルがそもそも負けていたのもあるけれど、彼女は自分の魅せ方を本当に良く知っていた。

顔だけならキツネ顔で美人系の天城さんや、好感度が高いたぬき顔の里中さんも負けてないと思うが、彼女達は「女」としての自身の商品価値を自覚していない。

あたしは、あいの振る舞いが好きだ。
自分を安売りしないで、誰とも連まない。単純に性格が悪いのもあるが、あいは結果的に誰もが認める高嶺の花だ。

あたしはまだ、表面的な所でしかあいを知らないと思う。けれど、思考や信仰は全て顔や体付きに出るんだから、それでいいとも思う。
美しいあいが好き。美しくあろうと努力するあいが好き。あいさえ良ければあたしはいつだって友達になったのに。

だから、鳴上くんと急に付き合い始めてあたしはビビったし、嫉妬した。
一年以上、あたしはあいの事を口説いていたのに、彼はそれを横から掻っ攫っていく。
彼はどこまでも話題の中心人物で、きっとこういう男と付き合うのが正解なのだろうとは思うけれど、なんだか鼻に付く。

ああ嫌だ。あいも、鳴上くんに影響されて良い子ちゃんになっちゃうのかもしれない。
ずっとずっと、カッコいい女でいて欲しいのに。


* * *


キュッ、キュッ、と体育館のワックスが運動靴で磨かれる音が耳に届く。

体育館からほど近い自販機は穴場だ。購買とは全く違う品揃えなのを、きっと大多数の生徒は知らない。
そんな中、ビタミンとコラーゲンという単語が激しく主張するサプリメントドリンクをあたしはいつも買う。

さっぱりとしたケミカルな桃味を喉に流し込みながら特徴的な靴音聞く度に、一度も話した事のない彼の気配をどことなく感じる。

あいは真面目にマネージャーをやっているのだろうか。いや、間違いなくやってないだろう。いくら彼氏が部活に励んでいても、あいに奉仕活動は似合わない。

ひとしきり掃除洗濯をするあいを想像しては一人苦笑いをする。まったく相手にされていないのにあたしはあいの事ばかり考えている。

まだまだ暑い日差しを背に受けながら昇降口に向かって歩いていると、赤いカーディガンと黄緑の羽織りが目を引く女子二人が視界に入った。
モノクロの制服の群れの中、そこだけ着彩されたように飛び切り目立っている。

あの二人の方が、鳴上くんと先に仲良くなったみたいなのにあいに取られて悔しくないんだろうか、とあたしは思う。
都会育ちのイケメンで、文武両道、更には悪い噂ばかりのあいを気に掛ける程の性格の良さ。惚れない方が間違っているであろう完璧具合。

あたしみたいに完璧過ぎるとなんかムカつくというか、ロボかよ、みたいに思う人間もいるだろうけど、それを差し引いても彼は優良物件だ。

なんか、みんな、良いヤツ過ぎてウケんね。 そう心の中で一人ごちた後、今度は声に出して笑った。あたし、今、最高にイライラしてるっぽい。

飲み干したパックジュースを握り潰して、ゴミ箱に投げるように捨てると、あたしは大きな声で「花村くん!」と呼んだ。

目立つ女生徒二人の側にいた男子が、きょとんとした表情を浮かべてこちらへ振り返った。

「……ええっと、俺であってる?」
「あってるよ」
「何の用すか、日高さん」

ゆっくりと花村くんの方に歩み寄ると、彼等は明らかに不可解というか、少しばかり緊張している様子を見せた。
あたしは彼等と特別親しくないし、更に言えば一度も「パパ」と遊んだ事もないのに勝手にそういうキャラ付けをされているからだろうと邪推する。あたしは、みんなの中で悪い子だ。

「あいと鳴上くんは上手くやれてるのかな?」

あたしの言葉に彼等はやっと合点がいったという顔になる。特に普段から素直な里中さんなんかは露骨だ。

「おー……そゆことか。ビックリしたぜ。まあなんか、振り回されてるっぽいけど、意外と上手くやってる感じはするな」
「あは、急にあたしなんかに話しかけられてビックリしたよね?でもあいって全然友達いないし、となると鳴上くん側の友達に聞いた方が早いかなーって」
「あ、いや、日高さん達ってレベル高いじゃん?だからちょっと俺には高嶺の花っていうか……」

しどろもどろな花村くんは可哀想な位だが、そんな彼がやけに可愛くて見える。あたしって、やっぱSなんかな。

「それって、あたしが可愛いって意味でオーケー?ありがとねん」
「ッス、可愛いっすよ、日高さん。マジで」

やっとあたしとの会話のリズムが分かってきたらしい花村くんは調子づいて来たのか、コクコクと大袈裟に頷いた。

「えーホントぉ?じゃあ、天城さんと里中さんよりも?」

ピシリとあたし以外の人間が固まった。勿論天然ちゃんではなく、あたしは純度百パーセントの悪意で聞いた。
背中に女性陣の鋭い視線を受けながらも、花村くんは気の利く言葉を必死に探しているらしく、忙しなく視線を泳がせている。

「……俺には女の子は皆等しく可愛く見えるっつーか、そういうのって順位付けするもんじゃないのかなーなんっつて……なはは」
「じゃあ、ちょっと前にミスコンではしゃいでたのは違う花村くんでいいのかな?」

揚げ足を取ると、彼はもう色々と諦めたらしく頭をポリポリと掻いた。

「見た目は確かに大事だけど、人によって好みは違うし、そもそも、その……付き合うとかってなると見た目よりも性格とか相性のが重要なんじゃん?って思うし……」
「成る程。確かに綺麗系が好きな人と可愛い系が好きな人じゃランキングは大きく変わるだろうしね」
「うーん、まあ微妙に違うけど俺は話してて楽しい子が好きっつーか……」
「でも同じくらい話してて楽しい子が二人いたら見た目が好みの子を選ぶんでしょ?」

意地の悪い質問を重ねる度、花村くんの苦笑いはどんどんと薄れてゆき、遂には苛立ちが見えて来た。眉根を寄せる彼がなんだか無性に愛おしく感じる。なんて素直なんだろう。

「それは極論じゃね?……全く同じ人間なんかいないんだし……」
「わ、怒ってる?なんかごめんねー。でも花村くんの恋愛観って意外としっかりしてるんだね。都会育ちだからもっとなんか軽いのかなって。驚いちゃった」
「そりゃ、どーも」

吐き捨てる様に言う花村くんの腕を里中さんが肘で小突く。どうやらこの場から一刻も早く離れたいらしい。

「花村くんって、二人の内どっちかと付き合ってるの?」

あまりにも自然なボディタッチだったので、気になってしまったのだ。質問した途端、花村くんと里中さんは「はあ!?」と大声を上げた。その声色には驚きと怒りが含まれている。

「ない!ない!ない!そんな訳ないじゃん!」
「うん。普通に私達は友達だよ」
「……ナシナシ言われると同じくナシでも傷付くな……」

まさに三者三様の様子を彼等は見せてくれた。とにかく違うらしい。もし、付き合ってたら今迄の流れがより面白かったのにと思う。

「あー男女の友情を信じるタイプね?りょー。じゃあ、花村くんはフリーなんだ?」
「まあ、フリーだけど……」
「そっか。なら、あたし達も付き合わない?」

何か言いたげな花村くんの言葉を遮る様に交際を持ち掛けると、また再度「はあ!?」と大声が上がった。

「いや、唐突すぎるって!日高さんって花村の事好きだったの?」
「花村くんって普通にカッコイイじゃん。いけない?」
「いけなくは、ないけどさ。……付き合うって、もっとこうさ……」

あたしの問いに里中さんは口をもごつかせた。彼女が言いたい事は分かるけれど、あえて話が通じない風を演じる。

「世間一般的には好きになってから付き合うのがベストだろうけど、思ってたのと違うとかあるあるじゃん?だったら、付き合ってからその人の事を知って好きになってもよくね?って思うけど。実際あたしは花村くんに興味あるし」

理屈で返すと里中さんは悔しそうに閉口した。それが面白くて念を押す様に「ねっ?」と笑い掛けると顔を背けられた。

「確かに、日高さんの言うことも一理あるよね」
「ちょっと、雪子!」
「だから後は花村くんの気持ち次第だと思うな」

どうなの、と天城さんに促された花村くんは眉間にぎゅっと皺を寄せた後、暫く黙り込んだ。その姿をあたし達は静かに見守る。

「分かった、付き合おうぜ。俺たち」

やっと出て来た花村くんの言葉に、あたしの口角は顔が歪むほど吊り上がった。





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