ブルー・スピニング・ホイール[2/10]


 



片倉小十郎の七夕は早い。

前の夜の星が沈み切らぬ内に畑に水をやるところから朝が始まる。

一度日が昇れば次の日が昇るまで、畑に入る事ができなくなるからだ。

豊作を祈る習わしだが、異国の作物が多い小十郎の畑は一日水やりをしないだけで絶大な被害を被りかねない。

たっぷりと水を撒いてから茄子と胡瓜を幾つかもいで畑を出る頃には、ゆっくりと顔を覗かせた日に星空が押しやられていた。

自らの邸の片隅と言うには随分広い自慢の菜園を見渡すと、今年の七夕も豊穣を祈るために気合いが入らざるをえないと小十郎は苦笑した。

濡縁に用意してあった水桶に野菜達を浮かべると、草鞋を脱いで座敷に上がり、簡素な着物を脱いで身なりを整えにかかる。

主の見ていない所では自分の行儀には厳しくないので、ぼりぼり胡瓜をかじりながら帯を緩めた。

みずみずしい果肉は噛み締めるほど喉を潤し、甘みさえ感じる。

今年も満足のいく出来に頬が緩む。

だが、ぎしりと音を立ててその顔が歪んだ。

服に隠れていた己の身体を見下ろす度に蘇る苦々しい記憶に、ここ数日小十郎は苛まれ続けていた。

胸の先を盛り上がった胸筋ごと食むようにしゃぶられた赤い痕が、手加減の無さを物語るように今も残っている。

内股の鍛えても柔らかい肉を執拗に舐められ吸われ、舌を絡める口付けに口の中はおろか喉の奥まで甘い匂いのする男の唾液を塗りたくられ、最後には慣らされた後孔で男と交わった。

衆道をことさら嫌悪する感性を小十郎は持たないが、相手が相手である。

主との試合の褒賞として小十郎との一夜を所望した滅亡すれば良い馬鹿は、政宗に勝ってしまった。

勝てば極楽負ければ地獄とはこの事だと、敗者の無情感もそこそこに身体をむさぼられ────。

引き結んだ口が硬い物を噛み締める感覚に、はたと我に帰る。

胡瓜を銜えてたまま惚けていた事に、血が集まるのが頭なのか顔なのかは分かりかねたが、思わず胡瓜をへし折って畳に叩き付けた。

胡瓜に罪は無いが、えも言われぬ羞恥心に直視する事さえままならない自分がさらに恥ずかしかった。

屈辱と恥辱にまみれる小十郎の苦悩は朝からとどまる所を知らなかった。



 


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