ブルー・スピニング・ホイール[4/10]
悲鳴も上げずに錐揉みしながら濡縁から障子の間を通過して畳に逆さに突き刺さる萩原の立てた音に何事かと隣室で控えていた小姓が顔を出したのが見えた。
襖に手を添え覗き込んだ所で顔から血の気が引いてあわあわと意味もなく口をわななかせている。
これが本当の曲者であったなら十二分に喉を掻き切れる時間が過ぎてから肺の空気を搾り出す悲鳴が────ほとばしる事はなかった。
吐き出すはずだった息を無理矢理口に押し込めた手は軽くしか握っていないように見えたが、完全に息を止めているのは間違いなく、小姓の顔色が赤を過ぎて土気色になっていった。
息をしようとかきむしっている指の力さえ弱くなっても離す気配が無いのに、小十郎は面倒臭そうに萩原の顎を蹴り上げた。
仰向けに転がると同時に息の根を止めていた掌が剥がれ落ち、息を一つ吐いた小姓は息を吸う時の目眩に耐え切れずにそのまま昏倒した。
「てめぇの小姓だろうが」
泡を吹いて床で震える意識の無い少年を萩原はまるで見ていなかった。
ただ五月蠅くなるから口を塞いだだけだとでも言いたげに、にやにやとした笑みを浮かべて小十郎を見上げている。
萩原の目は小十郎が嫌いな、あけすけな欲の脂だけが乗った胸糞悪い目をしていた。
欲をさらけ出すのに何のためらいも無い、疑問にさえ感じない根性の腐った目だ。
この男のこの目を見る度に死んだ松永久秀を思い出して臓物が煮える激情が蘇る。
それだけが萩原彰道の不吉さの源だとは思わないが、一端を担っていはする。
欲に限りがないように、この男の目にもあの男の目にも底がない。
目を合わせた者をかどわかすためだけにあるような異質な目をしている。
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