ブルー・スピニング・ホイール[6/10]
これだけの羞恥を感じたのは人生最後の寝小便を姉に見つかって以来だ。
不可抗力だが自分がしでかした事には違いがない点でも似ている。
余計な事まで思い出してますます自分の殻にこもりたくなった小十郎は彰道のみぞおちを踏みにじった。
「恥ずかしがるほどの事でもないだろう?」
事も無げに踏み付けられながら言う男を見下ろした。
当たり前だが、押し倒した方の男に羞恥があるわけもない。
一物がみすぼらしいとか技術がど素人以下ならば分かるが、少なくともこの男は、そうではなかった。
むしろかなり男として負けを認めたくなる程度には上手かった。
少しでも不手際があればあざ笑ってやろうと反逆を企てていたのも不発に終わった。
存在もしない苦虫を口一杯に詰め込まれたような不快感に顔が歪む。
その顔にさえ嬉しげに微笑む萩原は加虐趣味があるか、やはり頭の螺子が何本が弾け飛んでいるのだろう。
「良い顔するな」
ふくらはぎを触る男の手は蛇の体温を連想させる温さで感触を確かめながら上へ這っていく。
鼻血で汚れた顔が、あの男とはそれだけは違う、みっともない余裕のない表情を浮かべる度に少しだけ苛つきが落ち着いていった。
俺だけが振り回されているのは心底気に食わない。
どうせならこの男の人ならざる人生とやらをひっかき回して、傷跡を刻み付けてやりたい。
それこそ鬼を手玉に取って手駒にして従え、ぼろ屑のようにして捨ててやりたい。
余裕がなくなっても本当に追い詰められた状況から程遠い萩原彰道を、依存と絶望の淵に追いやってすがりつく手を突き放したらいったいどんな顔をするのか。
おぞけが立つ怒りとは違う情が背骨を順流して指先まで、胸を踏み付ける足先まで達した。
この男を蹂躙する事が俺の望みであるなら、七夕の星辰の頂にかざすには余りに下卑ていて、心の内に住まわせるには俺の矜持が許しはしない。
かと言ってぶつけて丸まま吐き出す類いの激情としては角が立つ。
ただ今の萩原彰道を俺が欲しているのではない事だけは自身にも理解が付いた。
弱みなどないように見える肉欲に溺れた男の見えぬ部分が俺を暗い所へ誘っているように感じた。
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