アゲインスト・ザ・サウザンド・ソーズ[2/11]


 



軽い踏切りで頭上を越えて、張り出した梢にまで身を運ぶ。
指先の蹴りだけで体が風になったかのように、今にも折れそうな細い枝の上を危なげなく飛び移る事ができるのを他人ごとのように感じた。


「か、開放的!」


だが感覚は確かに現実のもので、裸を惜しげもなくさらしたまま木を飛び移ると野人にまで退化した気分になるが、かなり気持ちいい。

裸族って素晴らしい!

男が事あるごとに外で脱ぎたがるわけがちょっと分かる。

しかしいつまでもフ●チ●をかましているわけにはいかない。
早急に服を見つけないと本当に露出狂になりそうだ、気持ち良くて。


『近い、近いぞ』


左手に持った【邪鬼丸】が嬉しげに震える。

平野に近付くにつれて木の高さは低くなり、身を隠すために葉が密集した日当たりのよい上部へと飛び移るようになったため移動速度はかなり落ちた。

それでも女だった時の全力疾走より段違いに速い。

彰道は息切れ一つしないまま、戦場にほど近い森の先までたどり着いた。


「うわ、殺気立ってる」


そこにいたのは人、人、人、人、人、人、人、人。
揃いも揃って血走った目をした男達が、様々な旗を掲げて陣を敷いていた。

映画でしか見た事のない大規模な布陣は、魚鱗の陣と呼ばれる基本的とも言える攻撃形態を取っている。
種々の兵達が鱗のように混ざり合い一丸となる事で、相手の広がった陣形を食い破る布陣だ。


「これが政宗の言ってた反乱軍か」


しかしこの布陣、移動が速いとは言えず、相手方の統率が取れていた場合、戦線がぶつかる前に物量に任せた囲みの鶴翼の陣や、持久戦に強い回転する車掛りの陣を展開されてしまえば、袋叩きに合う可能性が高い諸刃の采配だ。

戦国の戦いは攻撃布陣の複雑なジャンケン、分かりやすく言うなら流行のカードバトルに近い展開になる。

どうやって相手の裏をかき、布陣を切替えができるように、あるいは崩れないように配置するか。

いかに自分の手駒を削らず、相手を窮地に追い込むか。


「だけど、ねぇ…」


現実の合戦ならそうだろうけど、ここはなんと言ってもBASARAなわけだし。

一騎当千を地でいく生きた非常識がうじゃうじゃいるわけで、足軽は悲鳴を上げながら十把一絡に吹っ飛ばされるのが関の山だろう。

BASARA基準で考えるなら陣営の強さは抱えている武将の数に依存する事になる。

だとすると無敵の伊達軍は政宗がいないだけでとんでもなく弱体化するはずだ。

もし政宗が途中で迷って陣に帰れなかったら…。

そこまで考えて事の重大さに溜め息をついた。


「マジでやばいよね、戦況」

『ならばうぬが切り込めば良かろう?』


やはり戦いは避けられない状況だった。

迷いはなかった。

ただこれから人を殺すのだと思うとじっとりと手の平に汗がにじんだ。

初陣を迎えた武士はどんな気持ちだろうか。
武士ならもっと誇らしげに刀を握れるだろうか。
武士なら切った相手を見て悲しむ事が出来るのだろうか。
武士なら志のために自分の死を誇れるのだろうか。


けれど私は……。


戦場の空に放たれた一本の鏑矢の長鳴る音が、男達の叫びにかき消されたように、彰道の心が上げる小さな悲鳴も戦場の熱に霧散しようとしていた。



 


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