アゲインスト・ザ・サウザンド・ソーズ[3/11]


 



森にほど近くに張った数ある陣の一つ、その中央に座して、髭面の男ははたはたと家紋の入った扇子で顔を扇いでいた。

雲一つなく注す日光を赤い番傘が遮ってはいるが、鎧の擦れを防ぐ綿入り襦袢に汗が染みわたるほどに暑い。

こんな時、伊達の『とっぷく』は酷く涼しい。
行儀を廃して実用一点張りな『とっぷく』は風通しが良く、暑い日には重宝したものだ。

たが、あの馬鹿集団には付いて行けぬと見限った時から、あの青い『とっぷく』は男にとって憎んでも憎み切れぬ品となった。

『そりこみ』は残り少ない髷を結うための髪を減らしたし、素直だった息子が聞き取れない珍妙な訛りで唾を吐き捨てるようになったし、正妻や妾は話した事もない馬鹿の総大将と腑抜け軍師に入れ上げて夫を顧みぬばかりか、今回の謀反を機に息子共々に家を捨て伊達についてしまった。

伊達は強いがそれだけだ。
伊達が何を与えてくれた。
伊達は細やかな平穏さえ奪っていったではないか。

幾日も酒を酌み交わした反乱軍の武将達も涙ながらに身の上を聞き、あるいは話した。

誰も彼も伊達に平穏を奪われた者達ばかりだった。

ただ心には『伊達憎し』の言葉だけが響く。

誰が最初に弓引いたかなど問題ではない。
放って置いても他の誰かが弓引いたに違いない。

例えこの戦の勝ちの先に得る物がなく、奪われた物が二度と返らぬとわかっていても、戦わねばならぬと男の心が叫んでいた。

それは他の武将達も同じだった。

伊達という時代の奔流に哀れにも飲み込まれた小船である男達は、『伊達憎し』の思いのみで力を振り絞り水面を叩き潰そうともがき苦しんでいた。














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