星を掴む馬鹿(久秀)[4/14]


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空は高く、照り付ける日は眩しいが、暑さにも寒さにも感度のない身体には視覚意外で季節を判別する術はなく、いつも忍装束に身を包んでいる小太郎が暑いか寒いかなど埒外だった。


「食べる?」

「……………………」


差し出された串餅に反応せず、風魔小太郎は見えない目線で遠くを見つめていた。

それを俺は真下から見上げている。

どんな角度から覗いても見えない小太郎の目元は、どれだけ服が破けてもパンチラしない少年誌並に鉄壁。

なんとか覗こうと、見張りと言うより風見鶏っぽく東大寺の屋根の上に立ち尽くしている小太郎を見つけて、柱をよじ登り、一切反応してもらえないので、ごろごろと瓦の上に寝転がって見上げていた。

命令されるか久秀に危険が及ばない限り小太郎は常に無反応だった。

仮面の下を覗こうとあらゆる悪戯を仕掛けたが、ことごとくかわされ、たまに報復を受けている。

それでも懲りずに付きまとっていると、無反応と言うより無視に近い態度を取られるようになってちょっと寂しい。


「平和だねー」

「……………………」


相変わらず松永軍の兵士達は静かに殺気立っていて、正直下にいても居心地が悪いだけだ。

特に三好三人衆には目の敵にされているので、現三人衆や三人衆候補がいる道場周囲には近付きたくなかった。


「早く戦争になーれ、か…」


普段の久秀は驚くほど物静かな知識人だった。

年寄り臭い趣味に日がな一日没頭したり、座禅を組んだり、歌を詠んだり。

この時代の読み書きも流行の風流も礼儀作法も分からないので、あまり見ていて楽しい光景でもない。

近くにいれても、やはり狂気染みた気配をバシバシ放ちながらニヤニヤしている久秀といるほうが格段に楽しいと感じてしまう。

ここに来て1ヶ月か2ヶ月か。

たまに吹っ掛けられる喧嘩や刀争奪戦以外に騒ぎもなく、おかげで【邪鬼丸】が文字通り血に餓えはじめていた。

そろそろ戦がないと俺の命も危ういのか────


「…………………!!」

「ぐけっ!!」


突如、小太郎が力一杯腹を踏み付けた。

痛くなくても食べたばかりの串餅が出そうだ。


「小太郎!?」


屋根から飛び降りた小太郎を視線で追うと、すでに道場とは反対側、堂の屋根を駆け抜ける姿があった。

何か、久秀の身に何かあった。

ぞわりと逆立った背の毛。

ためらいなく5階建てはありそうな高さから飛び降り────四肢を踏ん張って四つ這いに着地。

脇目も振らず小太郎の後を地を蹴って追う。


『臭うぞ、血の薫りぞ』


ひどく嬉しそうに囁く悪鬼の声が耳に障った。






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