星を掴む馬鹿(久秀)[6/14]
こちらの様子を伺っていたか否か、障子を貫いて迫る刃は真っ直ぐに久秀を目指していた。
切り返そうとした久秀より瞬き速く、左手より切りかかったのは三人衆鎧の男。
僅かな迷いもなく、久秀は男の斬撃を受け止めた。
「ようやく登場かね」
「っ!?」
背後から突き刺さらんとした刃は障子に飛び散った赤に阻まれた。
「風魔っ!!」
「仕事のできる男は好きだよ」
障子に、謀反者の首が血飛沫を上げながら胴と泣き別れになる影絵が映る。
宙を舞う首は一つや二つではなく、じゃみでも投げるように一つ落ちれば二つ、二つ落ちればまた一つ、刃に投げ上げられる。
「頭の数だけは揃えたようだが、後いくつ飛ぶか見物だね」
ぎりぎりと歯を軋らせる男の顔は仮面越しでも分かるほど上気し歪んでいた。
対する己の顔も随分と歪んでいる事だろう。
だいぶんと部屋の周りが騒がしくなった。
逃げ惑う声。
怒声。
断末魔の叫び。
「愛しい程に、命は容易く散るな、実に虚しい」
「外道がぁっ!!」
力任せの、後先考えない強打が剣と槍をきしらせる。
全力で立ち向かってようやく一撃を等しくする程度。
器が違い過ぎるゆえに数に頼る──知恵は残っていても、計算はできないらしい。
男が引き裂いた襖から、またぞろ兵がなだれ込んでいるが、男以上の使い手がいる様子はない。
だが、これ以上侵入を許せば、背にして守っている文卓が反って書が損なわれるだろう。
狭い場所で、それも何かを守って戦うのに久秀は慣れていなかった。
さすがに苛つきが大きくなり、いっそ燃やし尽くすかと左の指を擦り合わせる仕草を取る。
そして轟音。
けれどそれに久秀は目を見開いた。
土壁を吹き飛ばして大穴を開けた衝撃は、火の粉の一つさえまとっていない純粋な破壊。
破壊鎚となったのは生々しい血塗れの兵士の体。
未だ足首を掴まれ逆さ吊りのまま、あらぬ方に新しい節々を曲げる雑兵。
土埃が吹き込む馬鹿にでかい穴から、それでも頭を下げて、破壊鎚を振るった男の身体が抜け出した。
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