星を掴む馬鹿(久秀)[13/14]


 



果たして死体が残るような死に様をさらせるだろうか。

ありふれた交通事故で女が一人死んだ。

女と同じ記憶を持つ鬼が一人生まれた。

両者を繋ぐのは記憶を頼りにした自己の連続性の認識だけで、血肉もまるで別物。

自分が死人の記憶を上書きされただけの別人の可能性。

魂の不在。

記憶の継承。

今の自分が死んだとしても、次の鬼に記憶が引き継がれるだけではないか。

あるいは、同じように死人がまた鬼になるだけではないか。


「死体くらいは残せる死に方がしたいな」


その事の虚実を明らかにした所で、現状が変わるわけでもない。

沈黙した悪鬼が答えてくれるとも思わない。

送り火でさえ灰を残すのに、最初から無かったかのように消え去って死すら定かでは無いのは、外道に堕ちても寂しい。


「私は屍は残さない主義でね、痛みにのたうって死ぬ前に燃え尽きるのを選ぶ」

「派手に死ねってか?」


きっと想像している以上に、この男の死に様は壮絶だろう。

それが楽しみでもあり、悲しくもある。

もし、もし久秀が天下を生き抜けたなら、一体どんな未来があるのだろうか。

天下になど興味が無いと豪語する男の歩む人生に、何が降りかかるのか。


「私とて命は惜しいがね」

「俺もー」

「卿の命を惜しいと思った事は一度も無い」

「ひでー」


久秀の口角が意地悪く吊り上がる。


「私は使える使えぬより好き嫌いで選ぶ悪癖でね」


ずいぶんと嫌われたものだ。


「…そのわがまま、死ぬまで貫けば?」


そんな意地悪くてねじ曲がってて有り得ないくらいワガママな久秀が好きなわけだから、直されても困る。


「卿に言われずとも」

「俺も好きにさせてもらうよ」


喉を鳴らして笑う酔っ払い──階段には既にいくつも徳利が転がる──の肩を掴んで抱き締めるよう引き倒すと、耳元で囁いた。


おまえは生きろよ。

俺はお前が好きなんだ。


馬鹿馬鹿しいくらい本気で、人生で他に無いくらい真摯な、告白。

ぎゅうと抱き締めた腕の中で久秀が酷く嫌な顔をした。






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