アゲインスト・ザ・サウザンド・ソーズ[4/11]


 



反乱軍の統率のなさを感じて政宗は鼻を鳴らした。

もう後がないという気概と『伊達憎し』の思いで一枚岩にはなっているが、岩自体があまりに脆い。

そもそも、頭である総大将さえはっきりしない命知らずの猪共にできる事など、せいぜい身を寄せ合って突進する事くらいだ。

どうにか形を成している魚鱗の陣も兵種ごとの足の速さの違いで縦に伸び切っている。

伊達軍本隊と接触しているのは騎馬隊と特に足の速い足軽だろう。


「運も実力の内か」


全裸の妙に強い変態に時間を食って戦始めには間に合わなかったが、森を突っ切ったおかげで、反乱軍本隊の伸び切った土手っ腹に奇襲をかける形になった。

見事に足軽しかいない中央付近は突然の敵、それも総大将の出現に激震した。

慌てて陣形の密度を上げようと法螺貝兵が仲間を呼ぶが、駆け付ける人数と政宗が討ち取る人数が拮抗して、いたずらに手駒を減らし続ける。

統率が取れていれば体制を立て直せるものを、と敵の政宗でさえ思うほど無様な状態だった。


「この独眼竜に盾突くにゃ、ちぃとおつむが足りなかったみたいだな!」


哀れな悲鳴を上げながら足軽が雷に舞い上げられ吹き飛ぶ。

退く事さえできない猪は竜が開いた口の中に次々飛び込み、喉笛を食いちぎろうとするが、竜は咀嚼する事なく悠々と猪を飲み込んでいく。

伊達本隊から逃げて来た足軽の槍をまとめて数本切り落とし、政宗はなかなかに骨な数まで集まった槍衾の中に身を踊らせた。

総大将の首を狙って百本近い槍が一気に突き出される。

そんな中で政宗は禍々しく龍の吐息を吐き出し笑った。


「癖になるなよ!」


一爪が紫電をまとうと、容赦なく振り下ろされ瞬時に切り上げられる。
素早く右の残り三爪を抜いて左前に迫った槍を男ごと切り刻み、左の一爪の鞘走りで五人を切り捨て、一爪を欠いて都合五爪となった政宗の刀が全ての敵を屠らんと振るわれる。

複数の刀を操る政宗の力は生半可なものではない。

だが、その政宗があの全裸男───萩原彰道の前では間違いなく力負けしていた。

もし本気で切り掛かられていたら、その剣は刀を砕き鎧ごと胴を貫いていたのではないか。

ぞっとしない話だが、政宗には妙に現実味を帯びて感じられた。

目の前の足軽達よりはるかに現実味を帯びて────





「ご油断召されるな政宗様!」




背後からの怒声と共に、終わりかけていた演舞の合間を縫って政宗のものとは違う紫電が走り抜ける。


「やっと来やがったか小十郎」

「何がやっとですか!戦前にいなくならないで下さいと何度申し上げたと思っているのです!しかも見つけてみれば技の途中で惚けているなど、首を捕ってくれと言っているようなものです!ぶったるまないで下さい!」


眉間の皺を深くし、小言を引っ提げて現れたのは竜の右目、片倉小十郎だった。


「悪ぃ悪ぃ。ちぃと気になった事があってな」


今の一連の演舞と小十郎の助太刀で、見渡す限りの敵は血の海に沈んでいた。

騎馬隊を蹴散らし、政宗の姿を探しながら全速力で足軽を踏みつぶしながら進軍した伊達本隊が小十郎の後に続いて続々と集結していた。

政宗の姿を見つけて一気に気合いが入ってか、奇声を発してさらに殺る気満々になっている者も多い。


「戦以上に気になる事など──」

「あるぜ。なんせ一度見たら忘れられない上に、この俺の一爪を、力技で、もいでいきやがったからな」

「なっ!?そのような者がいたと!」


確かに政宗が握る血塗れの六爪は右の一爪が欠けている。


「仕留めたなら問題はないですが」

「いや、放置した」

「放置!何をお考えですか!」


政宗に力技を仕掛けて通用するような相手ならば、形勢が有利なうちに叩きつぶさねば、いつ喉元を狙われるかも分からない。

だが、小十郎はそれ以上の言葉を噤んだ。


「……いえ、これからぶつかるなら小十郎も力添えさせていただきます」

「そうしてくれ。真っ正面から殺りあったらどうなるか分からねぇからな」


政宗は軽く言っているが小十郎には驚くべき事だった。

自信過剰気味な所がある政宗がどこか恐れている風な態度を取る相手など、数えるほどしかいない。

口調とは裏腹に苦々しいとしか取れない表情に、まさかとは思うが、政宗の方こそが見逃されたのではないかと思わせる節があった。

小十郎にはそれを尋ねるつもりはなかった。

事実はそう遠くないだろうと確信はしていたが。


「奴の名は萩原彰道。とんでもなくcrazyな男だ」


政宗の脳裏に名乗った時のきょとんとした大男の姿が浮かぶ。

ぼさぼさの髪と無精髭に似合わぬ、捩じり上げた鋼繊を連想させる肉。

巨大な体躯を愚鈍にさせぬ造り自体が一回り大きな骨。

年上にも同い年にも取れる軽い口調と生きた眼。

戦うためだけにあるような男だと一目見て思った。

戦ってみて底知れぬと恐ろしくなった。

今一度戦いたい。

戦って屈伏させてみたいと今は思う。

真田幸村と対峙する時のような熱くなって全てが弾けるような感覚とは別種の熱。

冷え冷えと冴えていく様は恐怖に似ている。

なのにじわじわと心地よく思う。

駆り立てるようなそれとは別の待ち焦がれるようなもの。


「反乱軍の人間じゃねぇみてぇだから、今は会う事もねぇだろうがな」

「……道草で何をやってるんですかあなたは」


苦々しさが消え、いつも以上に楽しそうに笑った政宗に、小十郎はやっと胸を撫で下ろした。

それを感じて政宗も意識を戻した。

今か今かと会話に耳を傾けていた伊達兵は、思いも寄らぬ話にざわざわとざわめき、完全に足を止めて二人を取り囲んでいた。


「さてと……テメェら!待たせたな!」

「「「筆頭ぉぉぉぉぉ!!!!よくご無事で!!!!」」」

「Ah〜?この俺が負けるとでも本気で思ってやがったのか。んな温いやつは伊達にはいらねぇぜ?」

「「「捨てないで下さいぃぃ!」」」

「情けねぇなぁ。まぁ今回は許してやるぜ、OK?」


どっと伊達本隊が沸く。


「残すは本陣だけだ!テメェ温ぃまねすんじゃねぇぞ!」

「「「Yes-sir!」」」

「参りましょう政宗様」

「あぁ、小十郎」


目指すは反乱軍本陣。

ただ一つ。



 


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