それだけの話(久秀→信長)[1/1]


 



暑さに少しべたついたコンペイトウを放り込むと、素朴な甘さが口の中に広がった。

麦芽の酵素で作る麦芽糖水飴の透明さも、甘みを何倍にも引き上げるキシリトールの清廉さも、世界中から集めた天然由来色素の極彩色も何もない赤茶けた砂糖の塊。

薄荷の葉と肉桂の枝を煮詰めた味付けと本来の甘さは味気無く感じるが、眼前の男にさえも、まぁ、男に限らず世の民草には十二分に嗜好品であるようだった。

茶受けに出されるコンペイトウは、小さな壺に入って出てくる。

男は左の手の平に壺を乗せると、右手で壺をゆっくり回し、漆器に広げた懐紙の上に一つずつ星を落としていく。

壺に栓をすると一つだけ摘んで口に運んだ。

上品な動きに合わせて、服に薫き染めた香が薫る。

甘みと癖がある香炉で薫かれているのと同じ、大陸で作られた香木と乳香を練って乾かしたもの。

かりかりと噛み砕く音がして、自分も口の中のものを噛み砕いた。

そうしている間も男がこちらをじっと見ている。

そう、妙な居心地の悪さを感じるのは、常に無く久秀の態度が軟化しているからだ。

嬉しい事なのだが、不気味であると言える。

久秀お気に入りの茶室は、いつも通り与えられた上等な服を適当に着て来る場所では無いように思えた。

苦し紛れに畳に置かれたままだった茶を作法も無く飲む。

点てられてからそれほど時間は経っていないが、陶器ではなく、硝子で作られた茶碗は冷えるのが早く、滑らかで細かかったはずの泡はごわごわとしていた。

恐らく世を探しても他にないだろう硝子の碗だろうが、硝子自体の精錬度が低く鉄を多量に含んで深緑色をしているし、細かい砂が混じっているのがざらついている。


「卿は実につまらなそうだ」


そんな表情に出していただろうかと顔を撫でると、久秀の笑みがさらに深くなる。


「これだけの贅を尽くしてみても、目がね、下らぬと言っているよ」


信長公に出したのと同じもてなしなんだがね、とおかしそうに言われ、やっと久秀が俺ではなく信長を思い出し笑いしていたのだと分かった。


「どれほどのものを見てきたかは知らないが、是非この世の果てとやらを私も見てみたいものだ」

「ろくなもんじゃないさ」


この茶器は信長にでもやったら?とからかう様に言うと、ついに久秀は声を立てて笑い出した。

信長が絡むと実に生き生きした風情で久秀は笑い出す。

人を出汁に使って、いい大人がじゃれ合っているだけ、それだけの話だ。






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