星の散る夜に(久秀)[2/3]





「ひさひで」


血で濡れて乾いた喉が不鮮明な雑音染みた声を発する。

押し寄せた明かりは大仏殿が燃え盛る何より強い光。


「ひさひで」


木の弾け、燃え上がる音が声をかき消すが、光は捜し人の背を眩ませなかった。

外以上に詰み重なった屍と血の海の中、大仏殿の燃え逝く様をとくと見つめている姿には特徴的な髷が突き出している。


「随分と遅かったな。卿が兎のように寝ている間に方は全てついてしまったよ」


大仰な身振りで振り返った久秀は少し楽しげに笑っていた。

足下に倒れ伏した政宗と小十郎に、自分の刃は確かに届いていたらしい。

臥龍となった双龍が飛び立つ事はもう二度とないだろう。


「けがはないか」

「卿ほど酷くはない。後で水鏡を見てみるといい、面白いものがみられる」


おかしそうに久秀が頭を指差し笑う。


「よかった」

「自分の心配でもしていたまえ」


目に映す像に徐々にタイムラグが生じ始めた。

確かに膝を着いたはずなのに、石畳ではなく久秀が見える。

少し遅れて赤い石畳が映った。


「実に無様だ」


くつくつと笑う声に口角が吊り上がる。

まだ表情を作り出せるだけの筋肉が残っていたのに安堵した。


「もうだめなんでね」


どうやったって助からないのは分かっている。


「随分と気弱な事を言う」


嫌な物を見たと久秀が顔をしかめるのが分かる。

並大抵の事では死なないけれど、死ぬ時は死ぬしかない。

誰だってそうだし、それが理だ。

けれど、不思議と死ぬのを怖いとは思わなかった。


「だいすきだよ」


もう既に一度死んだからなのか、単に悔いがないからなのか。

徐々に静かになって逝く心臓を鼓舞して、顔を上げた。


「酷い顔だ。地獄の鬼でもそこまでおぞましい笑みは浮かべぬだろう」

「しぬのがこわくないからかもな」


ごろごろ血で喉が鳴る。


「死ぬのか?」

「ああ」


ゆっくりゆっくり、息を吐き出すのさえ億劫になる。


「卿でも死ぬのだな」

「ああ」


息を吐き出したところへ、久秀の爪先が腹へめり込んだ。

蹴り飛ばされ、無様に仰向けのまま石畳を滑った。

足はここに来るまでに腐って、起き上がる事はできなかった。


「三好も風魔も独眼竜も右目も卿も死ぬか」

「さみしくなるな」


どこか骨が折れたらしい。


「静かになるのは確かだ」

「ちがいない」


うまく笑えただろうか。


「卿は、幸せかね?」

「……ああ」


音が遠くなる。

もう久秀の姿がオレンジの光に揺れる靄にしか見えない。


「しあわせだよ」

「なら、いい」


最後に聞いた言葉が久秀の声だったのに安堵して、最後の息を吸い、吐いた。








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