アゲインスト・ザ・サウザンド・ソーズ[5/11]
向かってきた極太の鉄柱に紙のように薄い邪鬼丸を叩き付ける。
コ────ンッ……
やはり邪鬼丸の切れ味は説明しがたいものがある。
厚さわずか数ミリの未知の金属で鉄柱をさっくり輪切りにするのは爽快感があるが、敵から見れば恐怖以外の何者でもないだろう。
剣と共に流れた上体に逆らわず身を縦に捻り跳躍。突っ込んできた鉄柱兵にタイミングを合わせて膝蹴りを食らわせる。
力に耐え切れず、首どころか頭そのものが肩の間にめり込んで血が舞う。
さらに重ねて跳躍。後続の鉄柱兵二人の胸を切り裂く。
『様になってきたではないか』
「数をこなせばね、っと」
避け損ねて、飛び散った血と臓物を何度かぶった事か。
おかげで髪もヒゲも肌も服も下々の毛も、生乾きの血でガビガビになっている。
鉄臭い以上に、内臓系はシモ関連である以上、アレな悪臭が付いて回ると初めて知った。
大腸はヤバいよ、大腸は。
直腸も膀胱も小腸もヤバい。
狙うなら胸より上か足にしろと、遅すぎる悪鬼のアドバイスに歯がみしながらも従った。
悪臭を血で洗い流しながらしばらく立ち回ると、コツが分かってきた。
身体能力が高過ぎるので懐に簡単に入れてしまうのがいけなかったのだ。
間合いを詰め過ぎるから返り血を浴びる。
政宗と向き合った時くらいに距離を置いて、円を意識した足運びで相手の後ろへ回り込み、切り捨てる。
邪鬼丸なら当たりさえすれば切れるので、無理に剣道のように構えを取る必要もない。
『やはり筋がよかったな』
「今までんな事言われたためしないよ」
『資質あっての才能よ。極上の身体あればこそ技は妙技となり得る』
それが運動不足な身体だと、ちょっとリズム感がいいだけレベルにまでなるんかい!
改めて今の自分の身体の凄さを思い知った。
「死ねぇぇぇ!」
襲いかかる武者の兜が横にずれ、血があふれる。
胴と泣き別れになった首をボールのように蹴り飛ばし、こちらを狙っていた弓兵に頭突きさせる。
本陣は恐慌状態に陥っていた。
突然現れた伏兵一人に引っ掻き回されて、指令系統は断絶。
ただ一人と、束になってかかってきた武士は揃って首をかかれ、逃げ出した名だけはありそうな武将も片っ端から首を刎ねられた。
「これくらい目茶苦茶にすれば政宗も大丈夫かな?」
『命の刈り取りも上々だ』
案外と忌避感は消えやすい────麻痺しやすいものだ。
それが壮絶で非日常なものならなおさら。
戦場の血に酔っている感覚。
こんなものを何度も繰り返せば簡単に人の心は変質するだろうと、無駄な知識ばかりある頭が別の所でぼんやりと考える。
痛覚とそれに近しい温度感覚をなくすだけで、あっさりと目で見る世界すら色を変える。
赤を熱い、青を冷たいと感じるのも今は記憶が支える経験に過ぎないわけで。
血を見て鳴り響く危険信号も、だんだんと小さく無視できるほどになった。
「やっぱさ、心が痛いのは、やだね」
『そのような情、鬼ならば捨てよ』
右手に持った邪気丸と右手には色の境がない。
「でも誰だって、何かのためだって自分を納得させないと、人を殺した罪悪感は背負えない」
『くくく…!殺す事はできると豪語するか!』
「必要なのは罪悪感を背負う覚悟か、捨てる覚悟だけだと思う」
『ならうぬはどちらの覚悟をする?』
「私、いや、俺がする覚悟は………内緒」
唇に左の人差し指を当てて一人で笑う。
これで、これでいいのだ。
萩原彰道のスタンスは。
自分の決めた萩原彰道として生きる覚悟。
己がそうありたいと思った己としてあるための覚悟。
それがどちらの覚悟に振り分けられるのかは分からないが、ただ覚悟だけは決めた。
この血塗れの身体で鬼として生きていく覚悟だけを。
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