星辰の檻の調べ(元親)[1/7]
海を渡る艫──船の尻である“とも”──に腰掛け、その奇妙な男は星を詠んでいた。
「なんだ、星が詠めんのか?」
「多少」
「なら後で信親から習いな。すぐに分かるようになるぜ」
背後から呼び掛けたのは、錨をそのまま槍にした武具を担ぐ四国が雄、長曾我部元親。
「……自分で言うくらいだからよっぽど妖しいと思うが、なんで俺なんか乗せた?」
右手で作った筒と左手で作った指尺を六分儀代わりに、天球の星の運行を見て見たが、北極星以下まともな──向こうの常識でだが──配置にある星座はひとつとしてなかった。
何より、6等星どころか普段は肉眼に映らない小粒の流れ星さえ見えそうな澄んだ夜空に、規格外の大きさで浮かんでいる満月。
カリカチュアのように美しい方にばかり過大解釈された世界には、息苦しさがない。
引き潮に乗せて岩礁を避けながら随分と沖に出た海賊船は、海に映った月の中を進んでいた。
「悪い奴じゃねぇことくらい、目ぇ見りゃわかる」
「へぇ〜」
男が喉を鳴らす独特の笑い声を出す度に、身に着けた鎧が擦れる音がした。
真新しい金色の甲冑は、漆を縫った上から部分的に漆喰のような顔料が塗られ、唐の太極図を思わせる独特の作りだ。
陣羽織も良く似た配色で、尻の上に横一文字に吊られた刀だけが、朱の鞘に収まっている。
こんな奇抜な揃を使っているのは、大和に居を構えていた松永の手の者だけ。
悪名轟く松永久秀の配下など、今までなら頼まれたって乗せなかっただろう。
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