星辰の檻の調べ(元親)[5/7]
「それもあるな」
「それだけじゃないのか?」
心外なほど酷く驚かれた。
「俺は魔王の使いっ走りじゃねぇ」
「いや、他にお前が俺に会う理由が浮かばなくてな」
心底不思議そうにぱちくりと目を開く。
歳や見た目と、仕草に隔たりがある男だ。
織田の餓鬼、確か蘭丸と言った根性の曲がったあれより、はるかに幼い仕草だ。
少々性格は悪そうだが、豊臣軍の数も知恵も揃った策を打破った策士には見えない。
話通りの風貌、噂通りの戦果、聞いた通りの印象、それを裏切る本人。
俺程度の頭では、萩原彰道と言う男がまるで何人もいて、その内の一人と会ってるだけじゃないかと思ってしまう。
人には色々な面があるとは言うが、俺が会った萩原彰道は俺が思ったより、ずっとましな男だ。
じっとこちらを見る萩原彰道を、こちらも見つめ返す。
油壺の灯が揺れる度、海を覗いたような瞳が揺れて、くらくらする。
「俺の部下になれ」
今度こそ、驚きで萩原彰道が固まった。
「あの竹中半兵衛に泡食わせた頭ってやつが、俺んとこにも欲しいのよ」
腹芸は得意ではないし、得意だったらそもそも軍師を探したりしない。
「中国の毛利の野郎にずいぶん煮え湯飲まされたからな」
へっと鼻の下を擦ると何故かじと目で見られた。
「軍資金が欲しいだけだろ」
今度は俺が驚きで固まる番だ。
「いくら織田と同盟結んでも、からくりで浪費して台所事情は火の車。豊臣が消え徳川が戻った今、織田にいつ切り捨てられてもおかしくない状態で、軍資金不足じゃ笑えねぇ……てとこだろ」
ぶわっと肌寒い夜なのに汗が噴き出した。
「まぁ、信長もそれを分かってて、お前を良い様に使ってるんだろうし、現状維持でいいだろ別に」
「いいわけあるか!」
思わず錨槍を振り下ろすが、片手で受け止められた。
いつ腰から外したのか、手には鞘が握られていて、抜いた瞬間が見えず、ぞっとした。
鉄でできた錨槍を片手で受け止める剛腕も、薄ら寒いものがある。
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