星辰の檻の調べ(元親)[6/7]


 



一合打ち合えば頭の程度が知れ、三合打ち合えば腕のほどが知れるとは良く言ったものだ。

すでに一合目で元親は怪力自慢の己が力負けしているのを悟った。

元親の元来の利き手は左であるが、武士としてよろしくないと右に変えられて久しい。

今打ち合ったのは右だが、果たして左に持ち変えた必殺の一撃が通じるかどうか。

豊臣十二万を退けたのは男の策ではなく、陣形を真っ向から切り崩した純然たる力だったのではないかとさえ思えてくる。

刀は口以上に使い手を語るが、鞘から抜かずにこれだけわかれば、抜き身の一撃はどれだけ饒舌だろう。

できればそんな血なまぐさいお喋りは御免こうむりたかった。

碇槍を振って未練なく後退する。

引き時を誤れば海に沈むのは己だけではなく、同じ船に乗る部下全てだと元親には分かっていた。

がむしゃらに戦うだけならばただ力があればいいだけだが、大将には失う事を恐れる臆病さが必要だ。

仲間を切り捨てる事は、本当にそうしなければならないぎりぎりの所までしてはならない。

そこに命がある限り安直に選んではいけないし、選ぶ権利もなく、惨めでも足掻いてそれを避けれるならば、大将としてそれを選ぶ覚悟が元親にはあった。

眼前の萩原彰道がいつ気が変わって刀を振るうかは分からないが、安土城にいる信長が天下取りの矛先を空白になった中ノ国以西から四国に変えないようにするためなら、感じた事もない不気味な男の前にこの身を晒す事もいとわない。

一瞬の攻防で生まれた風が油壺の火を揺らす中、元親は小さく息を詰めていた。



 


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