拍手ログ(久秀編)[4/5]


 



【氷売りと侍2】





「…………主?」

「そ、氷が欲しいって言うんでね」


氷売りの胸を落胆の風が吹いた。

ところてんをすする侍もやはり侍でしかなかったのだと思うと、何か腹立たしいものがふつふつとわく。

侍らしからぬ優しげな侍。

忠節と正義の間で苦しみながら悪の枢軸となった国家権力の腐敗に下剋上し、国を追われ病に倒れた姫君を残し己の正義を求め、町を守らんとする義賊を改心させ部下とし、身分を隠して生涯の友とした男が敵国の大将と知り別れ、姫君の死と共に現われた妹君に命を狙われ、それでも旅をやめることがない侍はどこへ行ったのだ。

出世のために媚びを売るならただの、氷売りの知る侍でしかない。


「…そうでござんすか」

「嫌われてるのは分かってるからな」


自嘲とも取れる笑みは侍が浮かべると様になり、爽やかな余裕の笑みのように氷売りには見えた。


「それでも、そばにいたいと思うのは勝手だろうから、ちょっとは有能さを見せて諦めさせたくてね」


悪戯を思い付いた子供のような表情が精悍な顔にはまるで似合っていなかったが、どろどろしていたはずの氷売りの胸は軽くなった。

この侍といると飽きない。

喉に流したところてんの旨さはひとしおだった。






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