拍手ログ(久秀編)[5/5]
【氷売りと侍3】
だが、すする手を止めてふと氷売りは思い出す。
『好きな人が食べたいって言うんでね』
ならば姫君だと思っていたのは岩のような侍なのだろうか。
威厳など今見ればなさそうだが、力だけは間近で垣間見たあの怪力。
他の侍を千切っては投げ千切っては投げ、怪力乱神とはこの事よと暴れ回る侍をそのまま横を倍にして、縦を頭一つ高くして、髪を鬼のように縮れさせ、目をぎろりとさせ、耳まで裂けた口から真っ赤な舌と鋭い牙を覗かせて、ぐおぐお火を吐き、真っ赤な肌に枝のような毛を生やして矢を弾き返し、地面を揺るがしながら進む侍の主。
ああっ!なんて恐ろしいんだ!
そんな主に嫌われているなんて!
がだがた器を持つ手が震え出すのを止められない。
しかもさっきこの侍はなんと言った。
好きなのだ!この侍は主が好きなのだ!
命知らずもいいところだが、優しげな侍はきっと命懸けで主を信じているに違いない。
ああっ恐ろしい!
だが、侍は幸せそうなのだ。
できるなら氷を持ち帰った後もそれが続けばいいと氷売りは願わずにはいられなかった。
「好かれると、よござんすね」
「ああ!」
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