ぼくのともだち[1/2]
「ん……ふあぁぁ…」
目を開けても何一つ映すものなどない。
いや映るものを照らす光がないんだ、この穴蔵には。
腹の底が朝だと告げるが、それは朝飯を食いっぱぐれないために身体に叩き込んだ処世術、時を示すものは我が身以外に存在などしない。
三成の手により穴蔵に放り込まれる以前は手枷はあれど温かい布団で寝起きできたと言うのに、今は硬い土の上に茣蓙をひいて、暖かみの欠片もない目覚めを毎日味わっている。
編んだ筵の中で横抱きにした硬い鉄球が体温でぬるくなっていて、人肌にさえ感じる相棒に移った自分の熱だけが小生を慰めるように暖かい。
素晴らしく惨めな目覚めだ。
「………お前さんはあたたかいなぁ相棒…」
「お褒めにあずかり恐悦至極に存じますぅぅぅっ!」
「ぎゃぁぁぁ!喋ったぁぁぁぁ!」
足で抱き締めた馴染みある鉄球が喋った。
目には見えないが触った硬さ形は間違えようがなく鉄球であり、しかし聞こえた声の出所も間違えようがなく鉄球だった。
「ついに小生の頭がおかしくなったか!それは嫌じゃぁっ!」
戦国一と自負する頭脳がよもやこのような形で失われるなど誰が予想しただろうか。
それは天下への多大な損失を意味する。
「元から言うほど良くないと存じておりますがっ!」
「口答えしただと!小生は幻聴にまで罵られんといかんのか!」
「官兵衛様ですから!」
「なんでじゃぁぁぁぁ!」
「朝っぱらからうるせえなぁぁぁぁ!官兵衛さん!いい加減独り言くらい静かに言ってくれ!」
独房に響く隣室からの怒声が耳をつんざいた。
ここは独房であるが、穴蔵そのものが閉じ込めるための牢であるため内部の仕切りは簡素で、基本隣りとの遮蔽物など衝立くらいしかない。
叫べば筒抜けとなるのを忘れていた。
「すっすまん」
「あんた独り言がいつもでかいんだよ!ようがないなら叫ぶんじゃねぇよ!」
「本当にすまん!」
「……無事ならいいんだよ」
ばたんと閉まったのは恐らく衝立に勝手に付けた小窓だ。
小生が厠の穴にはまって半日ほど身動きが取れなかった事件以来、有事の際に様子を見れるようにと隣人があけたものだ。
明かりがないため今は互いの様子を見る事はできないが、またいらぬ心配をかけてしまったらしい。
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