アゲインスト・ザ・サウザンド・ソーズ[11/11]
ぼけっと突っ立ったままの男に声を掛けた。
「おい萩原彰道」
何故か嬉しそうに奴は振り返る。
「フルネームで呼ばなくていいよ」
「異国語が…喋れるのか?」
「政宗の言ってる事ぐらいは分かる」
ますますもって正体がわからん男だ。
身の丈七尺に筋骨隆々とした肉付き。
これだけの身体を持つ男は武将にもそうはいない。
一人で軍勢を相手にする抜きんでた技量と胆気に、異国語を使う学の深さもある。
どうも頭が切れるようには思えん間抜け面も、女なら愛嬌があるとでも言うだろう。
政宗様が固執する理由が分からなくもないが、だからと言って勝ちの見えない戦いに政宗様を向かわせ、あまつさえ政宗様自身を好きにさせるなどできるわけがない。
政宗様のために、何と咎められようと早々に消しておく必要がある。
「連絡先を教えろ。条件が決まったら連絡する」
「あ────」
「言えねぇ事情でもあるのか?」
連絡先から身元を割り出すつもりだったんだが、さすがに無理か。
「いや、行く当てないんだよね。家もないし」
行く当てどない浪人はこのご時世珍しくはない肩書きだ。
主家が滅び職にあぶれる武士などいくらでもいる。
忍が成りすます七つの職の一つでもあるが。
「なら、付いて来い。探すのも面倒臭ぇから俺の家に泊めてやる」
「いいの!ラッキー!」
脳天気な奴だ。
へらへら花街にでも遊びに行くみたいに締まりのない顔しやがって。
無精髭と癖のついた長い黒髪は遊び人だと言われれば納得しそうな人相だが。
寝首をかくつもりの俺にのこのこ付いて来るか。
歳は俺とそう変わらんねぇはずだが、頭の緩い餓鬼みてぇな警戒心でよくやってこれたもんだ。
「迷惑ついでに服も欲しいんだけど」
「即刻用意してやる。とっとと、でかいだけの物を隠せ」
城に向けて走り出した政宗様の姿はもう見えない。
この奥州に時代の暗雲と暴風を引き連れた台風の目が現れた事など露知らず、空は晴れ晴れと広がっていた。
→to be next
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