ネイキッド・ハード・ギグ[14/30]


 



片倉小十郎は、窓際の執務机に座っていた。

午後の陽気が障子越しにさして、暑過ぎず、さりとて薄暗いわけで無く、背後の襖を開けるとそよりそよりと風の通るこの場所は小十郎のお気に入りの場所だった。

だが今は深々と眉間に皺を寄せて溜め息を付いてしまう。

左側には今日中に目を通すべき書類が巻き物だったり藁半紙綴りだったりの形で積まれ、右側には今日中に政宗の署名が必要な書類が巻き物だったり藁半紙綴りだったりの形で積まれている。

小十郎は右側の半紙を一枚引き抜くと慎重に筆を走らせ署名し、にじまぬよう墨を付けた花印を押して、横に座っている男に手渡した。

男は乾かすため畳に書類を広げ、文鎮で重しをするとまた元の位置についた。

記された名は伊達政宗公。

伊達男の名に違わぬ優美で伸びのある字は小十郎が手解きした物であり、真似る事はそれほど難しくはなかった。

城内ではよく見られる光景だったが、見慣れている者ならば首をかしげたであろう光景でもあった。

次々に仕事をこなしていく小十郎と向かい合わせの机に座していたのは、本来筆を握るべき伊達政宗公その人だった。

突っ伏したままぴくりとも動かない政宗の執務机の上には書類など一枚もなく、からからに乾いた硯が所在なさげにちんまりと乗っているだけだった。

本人を目の前にして小十郎が小言の一つも言わず、あまつさえ代理で仕事をする異常事態。


「政宗様、辛いならば布団でお休みください」

「………」


青白い手が返事変わりにひらひらとひらめいて小十郎はまた溜め息をつく。


「体調が悪い時に無理されるのは感心できかねますね。まともに仕事もできないのに起きられてると邪魔ですから寝てきてください」


その言葉によろよろと立ち上がった政宗の顔は血の気がなく、疲れ果てたと言う言葉が相応しかった。


「寝てくる」

「是非そうしてください」


千鳥足と言うには蟹股気味でぺたぺたと壁に手をつきながら濡縁を歩く政宗の足音が聞こえなくなった頃、小十郎の隣の男が爆笑した。


「ははははは!独眼竜も形無しだねぇ!」

「まったくだ。情けないやら馬鹿馬鹿しいやら、困ったもんだ」






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