ネイキッド・ハード・ギグ[15/30]


 



豪快に笑った男は年の頃なら政宗様とそう変わりないだろうが、体格は一回りは違う。
これで鍛練をつんでいないと言うのだから、真っ当な武家に生まれていたなら、本多忠勝に迫る生まれながらの武士となっていたのは間違いないだろう。

男の名は前田慶次。

織田寄りの前田家当主の血の繋がらない甥にして、徳川家康や上杉謙信の友であり、豊臣秀吉と複雑な関係を持つ傾奇者だ。


「やっぱり政宗は面白いねぇ!見てて飽きないよ!」


ふうっと機密文章の生乾きな墨を吹いて、また一枚畳に広げる。

慶次の、京を拠点に遊び歩く風太郎と言う評価は、ここ最近で大きく変わっていた。

前田の人間でありながら織田に仕えるでなく、全ての勢力に対して中立的立場を取るのは今も変わらない。

だが、その足と人望で得た人脈と情報を駆使し、ある時は戦を回避するために双方に情報を漏洩し、ある時は交流のない国の間で密書を渡し、ある時は同盟の後押しをし、ある時は負け戦の将を保護する。

他の誰にも真似できない方法で戦を終わらせようと動き出した前田慶次を止められる人間は誰もいなかった。

三面六臂の活躍で裏で歴史を動かす────異国語では【ぶっくめいかぁ】と言うらしい存在にまで慶次がなったのは、ならざるを得なかったのは間違いなく旧友の豊臣秀吉に依る所が大きいのだろう。

対抗できない小勢力を傘下に引き入れ急激に力をつけた豊臣軍の猛威は目に余るものがあり、真っ当に戦ができる勢力はすでに数えるほどしかない。

このまま行けばかなりの確率で豊臣が天下を取る局面まできている。

それをひたすら阻止するために動く慶次を歓迎する動きさえ全国にはある。

この奥州もその一つだった。

今や各国の思惑や現状を一番正確に把握しているのは前田慶次であり、この男からどれだけ情報を引き出せるかに、伊達の天下取りがかかっていると言っても過言ではなかった。

信用できない相手には何も話さないが、信用を得られればこれ以上に心強い味方はいない、と小十郎は考えていた。

泳がし続けなければ新鮮な情報が得られないのと、こちらも相応の情報を与えなければならないのはあったが、見返りは十分過ぎるほどに得ている。

今も慶次が城を訪れているのは、内乱後の視察と奥州甲斐同盟のお膳立てのためだ。

脳天気そうな顔が萩原彰道と重なるが、こういう奴に限って切れ者なのは世の常らしい。

逆に、考えていそうな政宗様は考えなしだしと、小十郎は自分の事を棚にあげて溜め息をつく。


「そうそう!片倉さんちょっと気になる事があるんだけどさ!」


にこにこと慶次が振り返った。






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