ネイキッド・ハード・ギグ[24/30]


 



ばきっ

小十郎が突き出した左の拳は対面していた彰道の右の頬骨をえぐった。

顔は人体の急所が集約しており、手加減のない一撃は致命傷になり兼ねないが、そんな事は小十郎の頭にはなかった。

彰道は輪郭が歪むほど殴られのけ反ると、勢いのままに背後の土壁まで吹き飛ぶ。

布団の上に座して向き合っていたため距離が近く、威力は十分あった。

ごつっと音を立てて彰道の後頭部が柱にぶつかる。

拳を突き出したままの体勢で小十郎は、血の付いた拳からぎろりっと視線を移した。


「ちたぁ頭が冷えたか」


彰道は鼻をしたたかに打ち据えられ、右の鼻孔から鼻血をぼたぼたと裸体に滴らせていた。

畑仕事で鍛えられた中腰からの重い一撃は、柔術の指南役でさえ舌を巻く小十郎の隠し玉の一つだった。

そこそこの武士でも腹にこの正拳突きを食らえば血反吐を吐く。

刀を持ち込めない場でも政宗を守るために、日夜磨いている技の一つだ。


「俺はこの手の冗談が心底嫌いだ。素面で言われるとぶん殴りたくなる性分なんでな」

「……いや、本気なんだけどね」


むくりと何でもないように起き上がった彰道にぎょっとする。

手を伸ばしてきたので、とっさに裏拳を左頬に食らわす。

さっきとは逆方向に首をねじりながら、また彰道は吹き飛んだ。

痛めてこそいないが、硬い物を殴り付けた感触に鈍痛が走る。

彰道が力に逆らわず大人しく殴られているから被害はないが、力で優る彰道に少しでも踏ん張られたら潰れるのは小十郎の拳だ。


「冗談でないならなおさらだ!」


また起き上がってきた彰道を刀に手を掛け、気味の悪いものを見る目付きで見下ろす。

口内を切ったのか、背を丸めた彰道の、手を当てた口から出血していた。

そのまま口の中に指を突っ込むと、つまみ出した物を手の平で転がし、苦い顔をする。


「歯、折れちゃった」

「ちょっとは男前になっただろう」


皮肉を言われ嫌そうにしているが、何度か歯の抜けた辺りを指を含んで触ると、何事もなかったかのように見上げてきた。


「これくらいじゃ引かないから」


痛みなど感じていないように振る舞っているが、彰道の顔は血塗れだった。

塞き止めてもいないのに早くも鼻血は止まっている。

布団の端に置かれていた刀を蹴り飛ばすと、小十郎がすらりと黒龍を抜き放った。


「引け。引かねぇならここで殺す」

「引くつもりもないし、死ぬつもりもない」


彰道もゆるりと腰を上げた。






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