ムーン・ライジング・フロム・マウンテン・ストーリー[1/6]
「テメェら、政宗様を見なかったか?」
伊達軍陣営の中ほど、本陣から少々離れすぎた一角で一人の男が総大将伊達政宗を探していた。
男は名を片倉小十郎と言い、荒くれぞろいの伊達軍兵卒をもってして『鬼』と言わしめる精悍な顔つきの男だった。
「また筆頭ですか?」
声を掛けられた『りぃぜんと』頭の侍は、同情の念を込めて、自分達の随分上に位置する上司を見やった。
何かと感情のままに暴走しがちな筆頭の手綱を握れる唯一の男の気苦労は年がら年中絶えない。
城では椅子に縛り付けても退屈だと脱走し、戦場では勝手に単騎駆けで敵本陣に突っ込んで行くのだから、普通の男では龍の右目は務まらない。
「隠し立てしねぇのが身のためだぜ」
「してないっす!」
小十郎の目をかすめた暗い光に、兵は首がちぎれんばかりにかぶりを振った。
「そうか。見つけたら伝令兵使ってでも本陣に知らせろ」
「うっす!…ところで小十郎様、今回はどうしたんすか、筆頭?」
キレかけな小十郎に兵は恐る恐る問い掛けた。
「俺の作った南蛮野菜鍋が食いたくないとおっしゃられて、目を離したすきに、な」
「あ、あの南蛮野菜っすか!?」
狂気がかった忠義と揺るぎなき過保護こそが小十郎の本質であり、それが空振っている様は周囲からはボケ倒しているようにしか見えないが本人はいたって真面目である。
その証拠に、小十郎は真顔だった。
「いや、さすがにあの野菜は…」
「やはり戦場じゃ熱い鍋は食いにくかったか。そう正直におっしゃって下されば怒りなどはしないと言うのに。政宗様はどうしてああも天の邪鬼なのだか」
やれやれと苦笑いする小十郎に、周囲の兵達まで声に出さず全力でツッコミを入た。
怖いので本音は少しも漏らさない。
「は、はやく見つかるといいっすね」
「ああ。敵陣まで突っ込む前に見つけねぇとな」
伊達軍は戦場にあっても平和だった。
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