チェリーブロッサム・タービュランス[1/7]


 



まるで夏がいつまでも終わらないみたいだと、湿気った空気を意識しなくていいように殊更ゆっくり吸いながら思い、軍議の中心となっている男を見たのは、前田慶次だった。

障子一枚隔てた外では短い命を燃やす恋の蝉時雨が割れんばかりに響く。

朝のいの一番に行われる軍議に参加する事を許されている慶次は、いつもなら政宗の一言も聞き逃すまいと構えている武将達が、困惑と警戒で心中穏やかでないのを感じていた。

一番上座に座る政宗もそれは同じ。

どっしりと構えているがよく見ると目が泳いでいる。

政宗が身にまとう四国の阿波で直々に家紋を染め抜かせ、高価な藍で何度も染めた反物から仕立てた衣は、惚れ惚れする深みのある蒼。

豪商や大名なら手に入らないわけではない、といった程度の価値しかない着物だが、藍の色は着る者を選ぶ。

流行の茶なら誰でも似合うからと寝子も若子もこぞって着ているが、こればかりはそうもいかない。

二度三度と色を重ねた藍は風合いと凄みを増し、他の草木染めでは出ない妖しくさえある色を醸し出す。

三好のおさめる阿波が長曾我部に勝瑞城を落とされて以降も、あらゆる手を使って藍の苗を外に出さないのが頷ける。

政宗ほどの男が着れば、藍の色は立派な武器だ。

ほぅ、と溜め息をつくほどに。

慶次は綺麗なものが昔から好きだった。

恋や桜や空や海、人もまた然り。

きらきら光る真っ直ぐな心意気や輝く眼が好きで好きでしょうがない。

政宗はなかなかに慶次好みの綺麗なものだった。

伊達男だと言うのはもちろん、漲る覇気も整った顔立ちも、きらきら輝いて慶次には見えていた。

男色の気はないので、純粋に花を愛でるような感覚だが、その花がひときわ美しく着飾っていれば、惚れ直しそうになる。

酒を酌み交わす時の砕けた格好もいいが、こういうのもいい。

ただ一人軍議の場でにこにこしている慶次に、当の政宗からの鋭い視線が突き刺さった。

できれば逃げ出したいんだろうが、逃げ出す事だけはできない。

眼前には己の右目片倉小十郎が控え、退路を塞いでいる。

そしてさらに後方に座しているのは────


「政宗様、これに萩原彰道を連れて参りました」


────政宗が今一番会いたくない男筆頭、萩原彰道だった。

とんだ茶番だ。






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