ダーク・アイスクリーム[1/30]


 



明るい。

朝、眩しさで起きたのは、こちら側に来て初めてだと思った。

今まで窓のない座敷牢に入れられていたせいで、体内時計が狂っていた気がしたが、チュンチュンと鳴く雀の声を聞きながら布団から身を起こすと、確かにまだ朝だった。

すぐ横の襖からはまだ薄暗いとさえ言える朝日がふんわりと和らいでさす。

静かで、されど活気のある朝。

待機電力を消費する冷蔵庫の唸りもなければ、遠くでテレビが付いている電波としか言い様のない音もしない。

日常の音として捉えて気にもとめなかったが、無くなってみると静寂が際立つ。

その分ここは人の気配が色濃い。

台所で器のぶつかる音。

ぱちぱちと薪のはぜる音。

草鞋が土を踏む音。

現代家屋の密閉性と防音性を欠いた日本家屋は、容易に音が漏れる。

薄い襖、震える障子、軋む畳、低い天井。

なるほどこれなら忍者が屋根裏に潜んで中を伺えるわけだと納得する。

座敷牢では気付かなかったが、こう何かをしている気配がしては朝寝もできたもんじゃない。

ふかふかに天日で干された布団を睡魔に逆らって畳む。

蕎麦殻の枕────ちょんまげを崩さないために普通は硬い枕で寝るらしいが、伊達軍はちょんまげしてる奴がいないので蕎麦殻が標準らしい────を乗せて押し入れに入れようとした所で、遠くから濡縁を歩く人の気配がした。

老人にしてはずいぶんな早足で部屋の外にたどり着いた男がそっと障子を開けた。


「もう起きてらっしゃいましたか。いえいえ、彰道様はそのような事なさらずともよいのですよ」

「俺がしたいからやってるんでね」


好好爺とした祖父さまは、この屋敷を管理している屋兵と言う。

今回の内戦でお取り潰しになった武家が幾つかあり、空きになった屋敷の管理を小十郎は政宗から任されていた。

俺が小十郎から新たな住家として与えられたのはそのうちの一つ。

当主を殺した男を住まわせるに当たって、家に縁のある者が管理していては障りがあるからと、屋兵は新たに下男として雇われ、俺と一緒にこの屋敷に住む事となったのは昨日。

だと言うのに、もう屋兵は勝手知ったると、家事をこなしている。

小十郎が必要最低限の物がそろった屋敷にしたら、だいぶ小さい物になったと言っていたが、十分すぎる程に広かった。

まず普通の家には蔵はない。

しかも二つ。

平屋の10も部屋がある母家は、部屋以外に納戸や台所などを含めると、小さな小学校ほどの広さがある。

さらに板間の道場と弓道場がある。

現代では考えられない生活空間にたった2人しか住んでいないわけだ。

そんな物件をほいほいくれてやれる政宗は本当に殿様なんだなーと今更ながらに実感する。


「彰道様、お勤めの刻ですぞ」

「先に飯食う」

「朝餉を仕事の前に食べるなぞ不良の走りですぞ」


あれ?伊達軍て不良じゃないの?


「いいんだよ、朝食べないと元気出ないから」

「仕方ありませぬな…」


ぱたんと襖を閉めて、障子の向こうで待つ屋兵を振り返る。


「めしーめしー」

「お早くすましてくだされよ」


現代人は朝ご飯をべなければ始まらない。

なんせ今日から、新しい生活が始まるのだから。






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