ダーク・アイスクリーム[13/30]
「気はすんだか小十郎」
何でもない顔で聞き返してくるのが腹立たしかった。
利き手ではなく逆手で握っていた刃では刃筋を通すのも難しく、どれだけ切ったのか忘れたが、人の脂で黒龍の切れ味は無いに等しかった。
折檻のために再び開いた座敷牢は、その血臭に相応しい惨状を孕んでいた。
以前の血痕がどこかなど分からないほどの鮮血。
畳は血を吸い、床下まで滴っているだろう。
そこここに散らばっているのは切り飛ばした肉片。
指であったり、耳であったり、それ以外であるが、一人の人間の構成物より明らかに多い。
本当にどれほどの間、我を忘れて刀を振り続けていたのだろうか。
ふさがっていない左手の傷が痛む。
「化け物が」
なます切りにされても傷が見る間にふさがっていく。
さすがに切り飛ばされた部分が生え変わるのには時間が掛かるらしく、指が幾つか欠けているが、血はすぐに止まる。
「本当に。死なないのな、鬼だから」
へらへらと笑っているつもりなのだろうが、こいつ自身、戸惑いを隠せていない。
床に座り込んだまま、かたわらの刀を抜きもせず握り締めている。
その手が小さく震えているのに気付かなければ、また刀を振るっていただろう。
「どこまでやったら死ぬんだろうな」
言葉だけはいつもの通りの軽さで吐き出される。
あるいは、自分が自分自身を恐れて震えているなど考えもしていないのかもしれない。
複雑な感情は容易に自覚の外を行く。
「何だったら爆弾兵にでも志願してみるか?」
「死んでも生きても悲惨だからやだ」
今度こそへらりと彰道が笑った。
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