ダーク・アイスクリーム[15/30]


 



人の気も知らず、空の雲は上空の風にあおられ、西から東へと流れて行く。

本日は晴天なり。

二日前の雨が嘘のように晴れ渡った昼下がり。

わずか7日の生を謳歌する蝉の鳴き声が響くが、それより忙しなく騒がしく通りを行き交う人の群れは気にも止めない。

与えられた俺の屋敷から城とは反対方向に、草鞋をはいた足を進める。

路地をふらふらと歩いた先で合流した目抜き通りは人で溢れ返っていた。

その中を炭を乗せた手押しの荷車が車輪を鳴らし進んで行く。

間口の広い大店の暖簾を押す下男や、格子窓になった蕎麦屋で蕎麦がきをすくう人夫、瓦版屋は炭書の藁半紙を片手に数日前の──随分経った気がするがほんの数日前の──内乱について、身振り手振り大袈裟に振る舞って客の購買意欲を煽っている。


「見るも恐ろしい身の丈七尺の大入道!それが侍を千切っては投げ千切っては投げ!『やあやあ、我こそは独眼竜を倒す男なり!その名に恥じぬば、我と戦え!』しかししかし!向かったのは反旗を翻した反乱軍!それに気付かぬものだからさぁ大変!独眼竜がいるはずもない反乱軍は右往左往!入道は伊達軍に業を煮やし、その形相は正に鬼のよう!そして我らが独眼竜が駆け付けた時にはあわや壊滅の地獄絵図!さぁて、続きは買った買った!」


木箱の上で器用に立ち回っていた瓦版屋と目が合った。

まさか俺が当の入道だとは思わないだろうと見ていたが、目の色変えて飛び付こうとして来たので、ばれたらしい。

だが、どっと人が押し寄せ、あるいは離れて行く中、あっという間に人垣に揉みくちゃにされて見えなくなってしまった。

時代や世界が違えど、人が集まる場所の活気と好奇心は絶えはしない。

様々な人相の人間が思い思いの速さでざわめきながら流れて行く。

その中で今の俺はさながら大船のようだ。

掻き分けるまでもなく、頭二つは飛び抜け肩で風を切っている巨体を人波が避けて行く。

また見つかっては堪らないと歩を進めると、若木染の渋色をした着流しが己の起こした風にひらりと揺れた。






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