ダーク・アイスクリーム[17/30]
にたにたあまり質のよろしくない笑いで口の端を歪めている姿は、やはりと言うか、城で見たものより随分と小汚なくなっていた。
寸足らずの着物は肉が盛り上がった皺が付き、獣の四肢と同じく自身が武器に等しいだろう手足は、先から半ばにかけてまで包帯が巻かれている。
嫌な血の臭いを立ち上ぼらせているが、痛々しさを表情から感じ取る事はできなかった。
「随分男前になったなぁ前田慶次」
「あんたこそ、竜の右目にこっぴどくお仕置されたみたいで……よく殺されなかったな」
殴られた時の竜の右目の般若も命乞いする殺気を思い出して超刀の構えを崩さぬまま、ぶるりと身を震わせた。
正に怒髪天を突き青筋を浮かべ、髪をざわめかせる昼日中を陰影濃く照らす雷の火花をまとった姿に本気で殺されると思った。
だが、怒りの矛先は逸れる素振りも見せず、ちょっと障害物を蹴り飛ばした調子で俺を一発殴り、独眼竜を尻百叩きにし、一切怒気を緩める事なく邸に置いてきた真の餌食を求めて幽鬼の如く城を去った。
独眼竜が痛みに呻きながらも城の門を堅く閉ざすように命じたのは、道々の犠牲者の悲鳴に耳を塞ぐために他ならなかった。
人間天災と化した竜の右目に運悪く目に止められ半殺しや再起不能者がでまくったのに、命はないものと独眼竜に諦められていた標的が出歩ける程度の負傷というのは、拍子抜けを通り越して不気味でさえある。
「殺されたもんだとばかり思ってたけど、あんた竜の右目の弱みでも握ってるのかい?」
苦笑いして首を振られた。
首筋にもぐるりと包帯が巻かれているが、あの下にはくっきりと首を締めた指の跡が残ってるんじゃないかと邪推する。
「飛び切り頑丈にできててね、殺されるかと思ったよ」
そのわりにへらへらしていて、何を考えているのか少しも掴めない。
底抜けの馬鹿でないのは、まなざしの奥で揺れる不思議な光で分かる。
上からそんな目で見下ろされると、腹の内を見透かされているような、昔一度感じた嫌な感覚が蘇ってくる気がした。
目の前にいながら遥か彼方の陽炎のように遠く、けれど触れられて、火傷しながら凍り付いていくような、奇怪で嫌悪を掻き立てる双眸。
好奇心を剥き出しにして、他人の内まで皮を剥ぎ腑分けしたがる子供の欲と、全てを貫く大人の叡智だけを混ぜ合わせた色を、俺は思い出した。
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