ダーク・アイスクリーム[18/30]


 



「おい、どうした?」


男が酷く恐ろしいものに見えた。

あの男は黒禍と呼んでいた何か、あの姫君が業と呼んでいた何か、あの人が死ぬに至った何か。

それらは、俺が目を逸らし続けて気付かぬ振りを続けてきた何かによく似ている。

大人になった今も認めるのは酷く恐ろしくて、ずっとそれから逃げている。

俺は逃げれるだけの力を持った者だったから、飲み込まれずに済んでいたのだと分かっている。

だから、俺を飲み込みそうな目で笑う男が酷く恐ろしかった。

悪夢の中から抜け出して俺を追いかけてきたんだ。


「ちょっと!聞こえないのか!」


虚ろに息をひそめていると、影がぐらぐらと身を揺すった。

大きな影だ。

きらきらとした目玉が二つだけ、いや、つやつやした歯が並んだ赤い口も開いている。

かちかち歯を鳴らしてぐらぐらと身を揺らしている。

大きな、恐ろしい影が目の前にいる。

伸びた影が五指を広げているのが見えて、己の腕を振り払った。


「────っ」

「な…」


がん、と鈍い衝撃が心まで返ってきた。


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