ダーク・アイスクリーム[23/30]
さすがに不味い。
慶次の剣撃に押されているわけではないし、このまま続ければスタミナ切れで間違いなく慶次が先に音を上げるだろう。
撃ち合った手は数知れず、この炎天下の最中に暴れる回っている慶次の肌にはビッシリ玉の汗が浮かび、飛沫を上げている。
だが、萩原彰道が圧倒的有利と見える場で、当の萩原彰道だけが己の不利を察していた。
野次馬がいるからでも、傷が悪化したからでもない。
刃も技も飛散物も届かない遠巻きから、多くの野次馬の視線が狭い路地の真ん中で激しい喧嘩を繰り広げる二人に集まっている。
その片方の大男の姿が一回り小さい喧嘩相手の背に綺麗に隠れた事に野次馬たちが気付いた時────異変が起きた。
何が起きたのか、その場にいる者は誰も理解できなかった。
刀を撃ち合っていたはずの慶次と彰道の間に、それこそ何の前触れもなく、突如火柱が出現したのである。
慶次がまとっている桜吹雪にあおられて、火は勢い良く逆さに流れ落ちる滝のように吹き上がっていた。
「な……なんだこれっ!?」
火柱は路地と同じ幅で地面から垂直に燃え上がる。
火柱の大きさにのけ反った慶次は、熱さではなく寒さに身を震わせた。
屋根の高さを遥かに超えて燃え盛る炎は、材木を焼くどころか冷たく地を這い、何よりどす黒い闇色をしている。
炎ではないと、慶次が誰よりも早く気付いた。
それを何度も見た事がある慶次が一目見て炎だと思ってしまうほど、それは巨大だった。
立ち昇るなんて生易しい表現ではない。
萩原萩原の発する闇属性の氣は、姿形を覆い尽くしてなお有り余る不透明で不吉な黒い炎の形をしていた。
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