ダーク・アイスクリーム[24/30]
『さぁ殺せ、うぬが命を果たせ下賤が』
声に従い掲げた剣を鞘から抜き放とうとする右腕に歯を立てて止める。
歯が手の甲を喰い千切り、指が口の中に爪を立てて肉をこそげとった。
五指は悪鬼の指示に機敏な毒虫の動きで持ち主である彰道を蹂躙する。
「ぐぉ…ぅ……」
喉の奥を中指に突かれてえずく。
たかが喧嘩と高を括っていたが、殺気さえ感じる剣撃に刺激され目覚めた悪鬼は慶次を獲物と見定めた。
声だけだった支配は徐々にエスカレートして、彰道は右腕だけではなく、右脚も悪鬼に支配され始めていた。
身体から噴出する黒い炎に自分自身が絡めとられ、視界も利かず、身体は言う事を聞かない。
『我が命に背けるとでも思っているのか』
左手には再び邪鬼丸が握り直されている。
渦巻く黒い炎は闇属性のオーラに違いない。
密度の高い濁流に翻弄されるように激しく髪や服がはためき、ゴウゴウと大きな音が目の前で口を開けて叫んでいる慶次の声も聞こえないほど耳になだれ込む。
その慶次の姿も厚い炎ごしにはいつもの黄色が見えず暗いモノクロに映る。
手の中で悪鬼の興奮を現す邪鬼丸の鍔なりが鳴り続ける甲高い音だけが妙に澄んで聞こえた。
急に首筋が寒くなって慶次は身構えた。
炎の向こう、いや炎の中で動く気配があった。
微かだが風鳴りに混じって鍔なりがしている。
「みんな退いてな!派手なのがくるぜ!」
これだけ分かりやすく溜めがあるなら、生半可な技ではないだろう。
戦慣れしていないとはいえ、都の町人ほど平和惚けしていない奥州の野次馬は我先に逃げ出した。
「そうそう!死にたくなけりゃ逃げなよ!」
適度な距離を取って腰溜めに構えた超刀を紅槍に変えて、凌ぎ切る体勢に入る。
見る間にぐねぐねと翼を広げるように形を変えた炎が冷気と人影を吐き出した。
厚い炎の衣を脱いで姿を現した萩原彰道は自分の右手に噛み付いた妙な格好で刀を振り上げていた。
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