ダーク・アイスクリーム[26/30]


 



前田慶次の無謀な切り込みが黒い火柱に見劣りしない巨大な龍巻を生み出し、萩原彰道に押し返されながらもじりじりと闇の氣を散らすのに背がぞっとした。

化け物染みている、と試合う二人を見て思わずにはいられなかった。

暴風が四散させた黒い氣が吹雪の様に荒れ狂い無差別に周囲の命を吸収している中で、風に足を取られないよう耐えるなど任務でもなければ願い下げだ。

二人の性分なのだろうが殺気がないのが唯一の救いとしか言えない。

いや、殺す気がない喧嘩でさえ峻烈なのだから、殺気を漲らせた死合いなど行われたら偵察一つで命が幾ついるかわかったもんじゃない。


「おっかないねえ…」


さすがの猿飛佐助も、今見つかるのだけは御免被りたいよと、土が入らないよう閉じた口の中でぼやいた。

常なり──忍が化ける七職のうち町人を指す──の格好で小路沿いの長屋の壁にべったりへばり付いているが、いい加減にしんどい。

着物の端がばたばたひるがえり褌は丸出し、藁屑が髪に絡み付き、飛んできた桶が脛に当たる。

野次馬に化けている部下のように人足の格好をするか、完全に隠密できれば良かったのだが、今回はそうも行かない。

これ以上粘れば不自然になるため、下忍には先に撤収させたほうがいいと手印を出す。

風が強過ぎて読唇術も使えやしない。

野次馬に混じって姿を消す人影を確認してからやれやれと振り返ったところで────胸に糞重い一発がめり込んで吹き飛んだ。

盾にした壁ごと吹っ飛ばされ、遠ざかる大穴の空いた長屋を見た。

龍巻が力負けした独楽のように弾かれて横手に突っ込んだ所に運悪く俺がいて、しかも龍巻に後押しされた前田の風来坊の巨体が直撃した、と言った所か。

長屋から足だけ覗いているが、一緒に飛んできた刀が当たらなかっただけ幸運だと考えるべきなんだろう。

宙にいる間に余計な事を考えながら体勢を立て直して着地するなど、他の下忍ならともかく自分には造作もない技だったが、流石に一発で凄腕の忍だとばれてしまっては意味がない。

仕方なく嫌々ながらに体勢を崩したまま地面に打ち付けられる準備をする。

神経を痛めて腰痛持ちになんてなったら任務をに差し支えが出るし、格好悪いし。

痛みに身構えたまま小石が判別できる地面から顔を逸らしたが、青い空を映すはずだった目に映ったのは、何故か大きな影だった。






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