ダーク・アイスクリーム[28/30]
「大丈夫かっ!?」
近過ぎて影に見えたのは、逆光を受けた男の大きな胸。
地面に叩き付けられるすんでの所で、横合いから伸びてきた丸太のような太い腕が俺の身体を片手でかっさらった。
気配を気取られない距離を取ると言う事は、自分も相手の気配を感じにくくなるし、あれだけ風が吹き荒れ、さらには風来坊の体当たりを受けて、意識が散漫になっていたのは認めるが、気付かれるだけならまだしも、助けられるなんて鼻で笑われても仕方ない失態だ。
気配だけに頼り過ぎた。
今走り込んで俺を抱き留めた萩原彰道には、先ほどまでの気配の中核を成していた害意がない。
気配は意識ある者から発せられるが、意識の伴わない咄嗟の反応は気配が薄い。
こっちがその変化に気付くのに一瞬。
その間に距離を詰めた萩原彰道の脚は再評価する必要がありそうだ。
「おい」
返事をしない俺をいぶかしんで男が顔を覗き込む。
動いた直後の荒い吐息が掛かるほど近い距離で顔を見られないわけはない。
こっちも見返すと、男の影に完全に入ったおかげで、影っていた顔がはっきりと見えた。
地面の照り返しに見開いた眼が光り、男にしては通った鼻筋から滴る汗。
頭が乗った筋肉を束ねた首と、首に繋がる精悍を通り越して獣臭そうな身体。
筋張って洗練されているとは思えない腕だが、俺を支えて気遣い撫でる仕草は驚くほど柔らかい。
「どこか…打ってないか?」
心底心配しているのがこちらに伝わってくる不安げな声色と共に、眉が弱々しく下げられる。
小汚ない無法者らしからぬ、どこか気品さえ感じられる間の抜けた穏やかさは、武家ではなく世間知らずな雅な身分にこそ似合いそうだ。
自分が最初から貴族を除外して正体を探っていたのに思い至り、佐助は歯がみした。
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