ハルマゲドン・バスターズ[1/11]
火走り、瞬時に弾き返される切っ先が庭土を抉ってぶちまける。
這う様に身をかがめて強烈な足払いを掛けるがすんでで脛当てを弾いて揺らすだけだった。
そのまま旋回して低身で着地、横滑りの勢いを乗せて手だけを伸ばして下草ごと再度足首を切り捨てにかかる。
一点を中央に、狂った長針と短針の断頭台のような手加減なしの抜刀が地面を吸い上げながら舞い狂う。
草鞋さえはいていないしなやかな足首が開脚を支え、鎧に覆われねじ曲げられた背筋が、束縛を斬撃の一撃に変え解放と共に刃の波濤を叩き込む。
翻る陣羽織がさながら地面に回る巨大な風車のような、萩原彰道の剣舞に小十郎はためらいなく踏み込んだ。
足元を掬う剣撃を寸出のところで跨ぐ様に避けた上から、取って返そうとする手首を全力で踏みにじって縫い付け。
止められた長針を追って半回転しようとする脚の蹴りが辿り着く前に両手に抱えていた物を天高々と掲げあげてから力の限り振り下ろす。
「うらあぁぁぁぁっ!」
使い込んで食欲をそそる酸っぱい匂いのする由緒正しき伊達家の漬物石は、振り上げられたままに慣性を殺すことなく萩原彰道の何とか逃げようと傾げられた首の先に付いた頭を強襲した。
首の肉の中で頭を支え切れなくなった背骨が横にずれて間の軟骨が伸び切って引き千切れる。
人並みに薄い頭蓋がひしゃげ、中にたっぷり詰まっている黄色の髄液と灰色の肉と存外にささやかな量の鮮血が、桃色の内幕ごと頭の穴と言う穴からどっぷりと噴き出すと、鋭かったはずの足運びがあらぬ方へ向かい、ぐんにゃりとしたきり動かなくなった。
漬物石の下で押し潰した餡ころ餅のような形になった頭が、力の抜け切った身体が、本当に死んでいるかなど小十郎は毛ほどにも気に止めることはなかった。
死に体の萩原の頭上に漬物石を預けたまま、乱れた袂を直そうと襟を引いてはみるが、引き千切られた帯では止めようがなく、汗だくになった額にさらに青筋が立つだけで終わった。
帯を千切り狼藉を働こうとした阿呆は見事にお野菜星人の逆襲により、目の前で二度目となる生死の境を彷徨っている。
実際は三度目となるのだが、片倉小十郎の知るところではなかった。
世話しなく飛ぶ蜻蛉が目に映らぬ田の青さを運び、ぶつけてなお余りある怒りを燻らせていた小十郎の心を強い風と共になだめた。
やっと晴れ間がさした奥州が地に、私利私欲がために引き起こされる血風が静かに巻き起こっている。
その血風が、乱世の確執の隙間風であるなどということもまた、片倉小十郎の知ったことではなかった。
【ハルマゲドン・バスターズ】
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