ハルマゲドン・バスターズ[4/11]
よだれを垂れることだけは何とかして耐え切った。
舌の裏側、頬の内側からびゅくびゅくと際限なく噴き出す唾液を、喉を鳴らさないように慎重に飲み込む。
ともすれば荒くなりそうになる呼吸と心拍数をメトロノームの鳴動を連想し、丹田に力を入れて意識的に制御する。
アドレナリンに後押しされたからといって股間の副交換神経だけは活発化させるわけにはいかないのだ。
煩悩よ今この時をしのぐ絶大なる力を我に与えたまえっ!
良く言う素数を数えろの状態で耐え切りたいほど佐助の演技はかわいかった。
こ、こうですか?的にぶりっこしやがって頭なでなでしたあと着物ひんむいて押し倒してやろうかぁっ、落ち着け俺、素数を数えるんだ、荒ぶるなわたしのおいなりさん。
間近でいつも幸村のドジっ子を見ているせいか、佐助のあわてた演技だとか、はにかんだ笑みだとかが上手い可愛いいじりたい。
あれをドジっ子と呼ぶのは、いささかならぬ弊害とか異議があちこちにありそうだが、広義では間違いなくドジっ子だと思うの、頭とかの勘違いっぷりが。
それに比べて佐助のドジっ子演技は、手当ての進行をさまたげる事はなく、好感度パラメーターだけをガンガン上げに掛かっている、狙ったドジっ子だ。
分かっているのにドキンッとしてしまうアレです。
だが残念ながら、俺の萌え所はそこではないのだ。
おぼこっぽい青年と少年の間の下人が上司である侍に偶然助けられ優しくされてはにかむと言うシチュエーションを演出したいようだが、そうは問屋がおろさない。
佐助の思い描いている場面設定は、最初から破綻しているわけだがら、実際自分の目に映っているのはまったく異なる真実なのだ。
そう、結構年齢的に無理があるとは言え偵察程度の任務で仕草から何から若作りに走って、生足とかさり気なくすね毛剃った感じにまでして若々しさを演出するとか、裏ではそれはもうやーらしぃ感じの変装なり演技なりをやらかして色々経験者なんですとか邪推せずにはいられないだろう。
その上、いつもの軽い感じに茶化したスれた性格の鱗片さえうかがわせない純情可憐タイプの演技を選んで、どや?こう言うの好きやろ?好きなんやろ?助平親父は何も知らへん女や少年にわっるいこと教えるんすっきゃろ?と、確実に裏でしたり顔でにやにやしているのが想像できるのだ。
おっまえ本気得意げになってるのが可愛いなぁっ!褌引きずり下ろしてケツ丸出しにしてやろうか!と言う総括に、頭の中だけで身悶えておく。
いろんなボルテージが上がり過ぎてかち割られた頭から血が止めどなく流れでるが、この血抜きがなかったら洒落にならない行動を実行に移していた事は明白だ。
だが忍さえ超えて今は耐え忍ばなければならない。
何も知らない人の良い主が劣情を感じて若い下人を断れない状況に追い込みあれやこれや不健全なお願いをして押し倒すルートがわたしにはいまみえているきがするんだ!
文字通り血を噴く忍耐で燃え盛る下卑た妄想を演技の下に追いやって、萩原彰道は血止めの薬と茶を用意しに席を立った佐助の尻の盛り上がりを凝視していた。
「良い子でしょう」
「ああ」
「自慢の、孫でして」
本当に自慢げに笑う屋兵の顔はそれだけは演技ではないのかもしれない。
その笑顔に大変申し訳ないものを感じながら、最後まで尻を見るのを止めることができぬまま、佐助──佐兵が出ていった障子の向こう、夕日に舞う金属質な銀蜻蛉の群をぼんやりとただ眺めていた。
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