ハルマゲドン・バスターズ[8/11]


 



床から這い出した忍が丁寧に敷き直した畳の上でかしこまる。

わざわざ草色の忍装束で来たとなると、甲斐から直に、それも何かしら同盟国としても表沙汰にしにくい話をしに来たことが伺えた。

文ではない。

もし文ならば、早々に茶化しながら懐から出す、そう言う忍らしからぬ男だ。

何かしら形の残る可能性さえ厭う時、忍は己そのものを文として言伝するが、今がまさにそれなのかもしれない。


「単刀直入に聞くけど龍の旦那」

「あー」

「萩原彰道、あいつ何者だい?」


睨みつける目付きは、底冷えした石碑を思い起こさせる夏に似合わない冷たいものだった。

押さえ込んだわけではなく、いつでも切り付けれるよう研ぎ澄ました殺意が今はただ鞘に収まっているのだと本能で感じる。

よほどあの男の出現が気に食わないらしい。

嫌そうな顔をするのをじっくり眺めているのは嫌いではないが、悠長に構えていたら同盟に支障のない範囲で嫌がらせをされるのは確実だろう。


「盟国相手に、ずいぶんでっかい秘密を抱え込んでんじゃないの?」

「どこまで調べた」

「わかる範囲で、としか言えないね」


険しい顔で首をふる。

ろくすぽわからなかった、とは意地でも言いたくないらしい。


「街中で暴れた一件でなかなかに危険だって事はわかったけどね」

「真田幸村と武田信玄も似たようなもんだろ」

「ちゃかさないでよ旦那」


被害だけでいうなら、大して変わらないだろう。


「とにかく、なんなのさあれ」

「あれか」

「そう、あれ」

「俺の方が聞きたいもんだぜ」


肩をすくめ返してやると、すこぶる嫌そうな冷たい目が、部屋の暖かさをじんわり奪う。

さもそれが真相だと言うように諦めた顔で首までふってやると、苦虫を噛み潰した顔に格上げになった。


「あれが面白いから置いてやってるだけだ。あいつが何者かなんざ知らねぇ」

「あんたさーもうちょっと危機感持とうよ。国主でしょ」


小十郎にも散々ぱら言われた台詞をもう一度一通り聞くことになったが、いまさら曲げるつもりはなかった。

ただ重く口を閉ざして聞き過ごした。

前田慶次からの情報から浮かんだ新たな憶測など、いくら同盟を組んだとは言え他国に教えてやる義理はない。

だらだらと続く説教は、忘れていた眠気を唐突に思い出すには調度いい具合に緩やかで、夜ゆえに小声で、どうでもいい内容だった。

聞いているふりをしながら、うつらうつらと伊達政宗の意識は拡散していった。






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