ハルマゲドン・バスターズ[9/11]
皆が寝静まった後の夜歩きほど楽しいこともない。
まともに外を出歩けるようになって二日目、初めての夜間徘徊は、現代で言えばせいぜい夜十時ごろ。
ほんの一週間前までは、バラエティ番組を見ていたような、まだまだ宵の口と言っていい時間だ。
しかし、しんと静まり返った道を、草履の繊維がざっざっと擦る音、足を前に出すときのきぬ擦れ以外は人の立てる物音を聞かずに進む。
繁華街や花街から離れた立地条件にある屋敷は、白に近く特に治安がいい武家町だ。
高い白壁や竹矢来の並んだ中を覗くことも難しい家が左右にそびえ立ち、夜鷹がたたずめるような薄暗がりさえなく、白々と月明かりを反射している。
月の下の時代劇で見たような光景。
江戸時代ほどには整備されていないはずだが、それでも伊達の支配する領地の中心地だけあって、町並みは美しい。
誰ともすれ違うことなく、会ったとしても後ろめたさか顔を隠したような男ばかりで、咎めも止められもせず歩みが続く。
そもそも行く当てもなく歩き回って、家のまわりを散策する程度の気持ちだったが、しばらくするとすぐに飽きてきた。
とにかく変化に乏しかったのだ。
いっそ辻斬りでもいればと思うほどには単調だ。
この時間でも人が多そうな宿場や酒場にでも行ってみようか、小遣いはあるから何か食べるには不自由しないだろう、と懐を探る。
ちゃりちゃりと銭が入った袋が腰あたりで揺すられた。
昼の間に聞いていたのは、夜も飯を出している飯処のおおざっぱな位置だけだが、なんとかなるだろう。
夕暮れ頃の夕餉だけでは小腹が空いて仕方ないと思うのも、今までの経験から来るものであって、身体が必要としているかはまた別なのかもしれない。
減量の必要もない鍛え上げられた身体は、鍛練をおこなわずとも損なわれないのだから、それこそ寝食を断っても何も変わらないのかもしれない。
人の形をしていても、どこまで人に近いのか知れたものではない。
しかし、精神的にはまだそこまで人を捨てきれてはいない。
身体ではなく精神が休養や摂取を必要としているなら、とるに越したこともないだろう。
止めるのは、欲しくないと思い出してからでも遅くないのだから。
そんなことをつらつら考えながら、昼間血まみれで歩いた道を逆へ逆へと進んでいく。
見上げたところで、星空を掻き消すような町の明かりなど一つも見えはしなかった。
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