ハルマゲドン・バスターズ[10/11]


 



「ああ、では佐助に言伝頼む」


傍らに控えていた影が壁を蹴り、その向こうへと消えたのは一瞬の事であった。

佐助に比べればまだ未熟な若い草の者の姿を、幸村の目は隠した目鼻立ちまでしかと捉えていた。

年の事を言うのは酷かもしれぬ、熟練者とて佐助の腕には敵わぬのだから、まだ伸び盛りの草ならばなおさら届きはせぬだろう。

表立っては音こそ立ててはおらぬようだが、佐助の静けさに慣れた身からすれば、羽織の下で擦れる押し殺した鋼の音は隠し切れているうちには入らなかった。

己でさえ思うのだから、佐助からすれば未熟極まりないひよっこ忍者──まだ人であるゆえ忍とは呼ばず── であろう。

知見もまた実力の内なれば、経験浅い若輩者が舐められるのは致し方ない。

それはまた己が身も同じ事であった。

いかに槍と騎馬の実力を認められようと、その他の、特にお館様が得意とされる機略に富んだ数々の策や諸国の武将と渡り合う交渉に関しては、お館様の爪の垢を日夜吸った所で遠く及ばぬ。

この度の甲斐奥州同盟に関しても、知ったのは春も半ば、聞けば佐助は秋には動き出していたと言うのに、某にはお声一つ掛かりはしなかった。

お館様に拳と共にいただいたお言葉は、大地を揺るがす雷鳴のごとき雄々しさだった。

そして御身足の一撃と共にいただいた命は、まさに某が欲していた大役であり、お館様からの試練に他ならなかった。

この真田源ニ郎幸村、見事命を完遂し、新たなる力をお館様の前にご覧にいれましょうぞ。

今、背に負った十字槍は巻き布がされ、身につけた物からは六文銭が排されている。

供とした草の者もお館様と佐助への中継ぎに回したため、今放った者が最後だ。

だがもう供も必要あるまい、これだけの町中までくれば夜討ちもないであろうし、よしんばあった所で窮するに値する数は出まい。

煌々と射す月明かりの下、幸村は懐から一枚出した、目下の敵に違いない地図を広げた。

そこに記されていたのは、元来不出とされる城下町の見取り図と赤く印がされた片倉邸、まさに奥州の中核をなすであろう施設の数々であった。






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