ハルマゲドン・バスターズ[11/11]
大きく見開いた目を慌てて閉じて両手で数度擦り、夜の帳の下瞬かせる。
加減が分からずごりごりと擦り過ぎたせいで逆に視界がぼやけてしまうが、それもすぐに治った。
ひやりとしたのか、蒸し暑いのかさえ肌で感じられない体質になったとはいえ、目の前がそこはかとなく暑苦しく感じた。
足を止めて狭いとは言えない通りのど真ん中で──この時代に右側通行という概念はない──同じようにど真ん中、それも道の辻、交差点の中心に立つ男を見た。
正しくは、男の頭上三十センチほど、煌々と明かりが灯ったところを見た。
燃えとる、めっさ燃えとる。
外套で身を覆い、手元で広げた地図を一心不乱にためつすがめつ、右に回したり左に回したり、迷子になった人間がしばしば示す、どっちが北だったか分からないから地図を回してみたら今度は来た道が分からなくなりました、という残念な行動をだいぶん前から続けているが、まだそれは常識の範囲だ。
しかし、背中に背負った長いたいまつの先が燃え盛っているのは、ちょっとおかしい。
布を巻き付けた細い二本の棒が背に吸い付くように背負われている。
膝上から伸び背でゆるく交差した棒は長く頭上に突き出しており、先が燃えていた。
棒の質量から考えて燃料を染み込ませでもしないとこうも燃えんだろうという業火である。
男は気にも止めず、むしろ脇目もふらず地図を睨みつけており、今から火付けをしようとしているようにしか見えない形相。
こちらに気づいてさえいない。
声を掛けずにこのまま立ち去って後日まともな場で出会うのを待った方がいいか、今この場で声を掛けて燃えてますよと言うべきか、選択肢が頭に浮かぶ。
放置したら見回りの人間に確実に見つかって、ほぼ間違いなく放火未遂の現行犯で御用──正しくは管轄が違うが細かいことはいい──である。
もう少し、少しだけでいいから甲斐の人間には国の外の常識を身に付けさせるべきだ。
こういうツッコミが足りない行動をとる事が増えはじめる前に。
だがとってしまった行動をなかったことにはできない。
棒に偽装した槍は燃えているし、回した地図が正しい包囲を示すわけではない。
ほんの数歩足を進め、意を決して口を開く。
「燃えてるぞ」
顔を上げて目を合わせた姿は、先ほどまでの頼りなげな迷子のものではなく、確かに甲斐にその人ありと噂される武人たる真田源二郎幸村だった。
迷子であることには、変わりはなかったわけではあるが。
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