第二回放送まで(後半)
イノランはミニウージーを下げたまま林の中を歩いていた。先程のハイテンションとは一転「寄らば斬る」という空気をまとっている。
あの時、ルキが向いていた方向へ行けば、ルキと戦った人間がいたはずだ。そしてそれはディルアングレイの京であることは確実だろう。現場の状況から見てもう一人、京と一緒にいた人間がいるたようだが、それは同メンバーの薫かメリーのガラだとイノランは予測している。割合は8:2といったところか。
これは単純に出発順の問題からくる予想で(京は後続の人間を待っているタイプではない)イノランは《無差別マーダー》であるため、京と一緒にいるのが誰であろうが関係ないが、重要なのはルキと交戦した二人は少なくとも銃を二丁所持しており、それプラスなにか得体の知れない武器を持っているということだ。
どうにもあの金属音が引っかかる。
銃声の直後に響いた甲高い金属音。
そしてイノランにはほんの少しだけディルメンバーを避けたい理由があった。これに関しては些細なことな上に微妙な問題が絡むので墓場まで持っていく予定である。口にすればとんでもない爆弾となることは必至だろう。唯一、タクヤにだけは話したが、彼も口が堅いので(だから話したのだが)漏れる可能性はない。
「それにまぁ、ルキ君追いかけたら疲れたしね。どうでもいいけど京君って"殴ってくださいオーラ"出てるよな」
どさくさに紛れて危険なことをさらりと言う。無表情なのがまた怖い。
あの時、見つけたのだ。ルキが見ていたのとは反対方向の細い道の端に足跡を。
地図で確認するとこの先にあるのは営林所らしい、誰かが隠れている可能性は充分にある。
「あ〜あ、暇だなぁ。こんなに面倒な仕事ならケンにもつき合ってもらえばよかった。試し撃ちの必要性があったこともあったんだけど」
後ろのベルトに引っかけてある、ケン・ロイドの支給武器であったエリミネーターを撫でてイノランはそう呟いた。
「ケン、杉ちゃん、マオにゃん、れいた君、ごめんね・・・」
小芝居を始めだした。テツを忘れているのは天然であって悪気はない。が、特にその後の台詞が浮かばなかったのか、恥ずかしくなったのかそれっきり黙った。小芝居というものはテンションが下がっている時にやるものじゃない。
「だりぃんだよ、ちくしょう・・・」
今度は別の方向にキャラが崩壊しだした。そろそろやばいです井上様。
「こんなに運動するはめになるなら、タクヤの誘い断らずにサッカーやっとくべきだったかな、でもやるより見てる方が性に合ってるしなぁ」
いいかげん独り言もぐだぐだになりかけたところで営林所が見えた。一気に切り替えて集中力を上げ、木に隠れながら近寄ると、建物の前で誰か倒れているのが見えた。《ごっこ遊び》で本当に倒れるわけはないので律儀に死体のマネをしているのだろうが。
「そこで倒れてるのは誰?」
「Dの英蔵です、死亡判定喰らってます」
そう丁重に言いながら上半身を起こした英蔵は、自分に声をかけたのがイノランだと分かると飛び上がるように直立した。
イノランはそんな反応に気にした様子は見せず、辺りの様子を窺いながら英蔵の前まで来た。
「《死因》は?」
「・・・《鈍器》で《めった打ち》です」
「ふぅん・・・」
イノランは表情を変えないまま首を傾げた。英蔵は緊張したように顎を下げる。
「これは聞いてもいいのかな・・・《その傷の大きさ》は?」
「そうですね、これくらいです」
英蔵は手がビーチボールよりやや大きいぐらいの円を描く。
「球体の武器だったんだ・・・うわっ!どうしよう!」
「どうしたんですか!?」
突然、困った顔をしたイノランに英蔵は何か粗相でもしたかと慌てる。
「想像したら超グロいよそれ!英蔵君、大丈夫?」
−貴方が大丈夫ですか!?
ツッコミたいのをぐっとこらえ英蔵は「大丈夫ですよ」と笑ってみせた。
「というか・・・マオさんを撃ったのはイノランさんなんですよね?」
イノランはしばらく考えるような顔をしたが、既にゲームオーバーになっている英蔵相手なら構わないだろうと結論づけたらしく「そうだよ」と答えた。
「で、さっきから聞こえてたマシンガンも全部イノランさんなんですよね?」
「うん」
「マシンガンで撃たれた痕もかなりグロいと思うんですけど」
英蔵の言葉にしばらく目をぱちぱちさせて首を傾げてからイノランは納得したように頷いた。
「そっか、そうだよねぇ。俺、グロいのとか怖いのとかダメなんだよ。ホラー映画の主題歌になっちゃった時は見たけどさぁ、あれグロかったなぁ」
「それはその・・・《ごっこ遊び》なんで想像しなければいいかと・・・」
「あぁそうか、それもそうだね」
「というか想像しないでくださいよ」
真っ当に生きて畳の上で大往生したいので、グロい死に方は遠慮したい。
「ごめんごめん」
イノランはもうこの話題に興味を失ったらしく、英蔵の周囲の地面を興味深そうに観察し始めた。
無数の足跡が乱雑に散らばっていて、かなり激しい戦闘があったことが予測できたが、靴は全員、私物ではなく衣装として出されたスニーカーを着用しているので足跡を手がかりにするのは難しいだろう。いや、たとえ私物の靴でもそんな高度な判別をする技など持っていないが。
「こういうのなんて言うんだっけ?イカゲゾ?」
突然そうふられた英蔵はしばらく考え込んでしまった。
「・・・たぶん、《ゲソコン》です」
英蔵は神懸かり的なひらめきで正解を返した、この無茶ぶりに答えられるなんてイノランの友人にもそうそういないだろう。
「そう、それ!」
エルメスのお約束のような流れになった。
ボケだったのか天然だったのか計りかねたのでそれ以上のツッコミは避けて英蔵は黙る。
足跡の観察に飽きたのか、イノランは英蔵の横に落ちていた日本刀を手に取った。黒柳が去ったあと、敏弥に持っていくよう進言したのだが「これ以上なにが持てるっていうの!?」と怒られてしまったのだ。
錘より日本刀のほうが断然カッコイイのにと訴えたかったが、そこまで親しい間柄でもないので止めておいた。
「・・・置いていったんだ、使い勝手よさそうなのにね」
「そうでしょう!よかったら使って下さいよ」
「荷物になるからイヤ」
「鞘もありますよ、組み立ててないですけど・・・」
「でも荷物になるじゃん、と、君を倒した相手も思ったんだろうね」
うっかり頷きかけた英蔵はすんでのところで首を傾げる動作に切り替えた。先程からなんというか、不安な気持ちになるような会話だ。誘導尋問かと思えばそうでもないらしい、既にゲームオーバーになっている英蔵はルール違反をしてもダメージはないはずだが(ヒデのことだから罰ゲームぐらい用意してあるかもしれないけれど)イノランは《警告》を喰らう可能性がある。
ならばこれは只の世間話なのだろうか、それにしてはひどく落ち着かない気分になってくる。
−ナニカが変わってしまうような。
これがタクヤの評するイノランの《危険乱数》なのだが英蔵はそれを知らない。
意図も理論もなくベクトルを変化させてしまう。
相手を、場を混乱させる。
「英蔵君はてっきり浅葱君達を探してると思ったんだけどなぁ、それはしてなかったみたいだね」
適当に喋っているふうでいて核心を突いてくる。
表情が全く読めない。
「なんでメンバーを探してなかったと思うんですか?」
「ん〜?だって他に目的があったらバトル申し込まれても断るかなと思ってさ、相手が鈍器だったら逃げればすむことじゃん」
「・・・・・・」
あれは英蔵から申し込んだのだが。
敏弥は一応先輩なのであとで謝っておいたほうがいいだろうなと考えながら英蔵は死体役らしく黙秘した。
「あの、イノランさん」
「なに?」
イノランは英蔵に背を向けて、営林所を見たまま答える。
「もしこれが、もしですよ、本物の《バトルロワイアル》だったらどうします?」
左肩が少し下がった。苦笑したのだろう。
「普通に慌てて、普通に怖がって、普通にじたばたして、普通に絶望して・・・死ぬんじゃないかな」
そう言ってイノランは少し視線を上げる。
「誰が信じられるとかそういうのは・・・」
「ある意味で誰でも信じられるし誰も信じられなくない?」
「友達とか、メンバーでも、ですか?」
「う〜ん、なんていうかなぁ《仲良し》だから分かってる部分ってあるじゃん、こいつはパニックに陥りやすいとかさ、裏切る裏切らないとか信用できるできないでつき合う人間選ぶわけでもないし、《人間》が《裏切る》のって当たり前だしね」
「当たり前、ですか」
「うん、そもそも《裏切り》って受ける側だけの問題だしね。いざって時、そいつがどんな行動をとるかなんて友達だろうがメンバーだろうが分からないよ。だからって誰も信じないってわけじゃないし、でもその時になってみないと自分がどうするかなんて想像つかないなぁ。英蔵君ならどうするの?」
「俺ですか?」
「他にいないじゃん、つーか君は《英蔵君》だよね」
ふり返ることはしないままイノランはくすりと笑った。
「できることを探すかな・・・何かは分からないけど、何かを伝えたいとか・・・何かを残したいような・・・」
「俺より良い答えだなぁ。昔っからそうなんだよ、みんな俺より良いこと言う」
「そんなことはないと思いますよ」
「はは、ありがとね。じゃあ俺はアイテム探しといくか」
そう言ってイノランは営林所の中へ入っていった。
英蔵は深く息を吐いてその場に座り込む。
ひどく緊張した。
「思いの外、深い話になっちまったな・・・」
誰にも聞き取れないような小さな声でそう呟いて営林所を見た。
「神のみぞ知る・・・違うな人事を尽くして天命を待つ、でもなくて、《運を天に任せる》かな?」
的確な諺が出てこないとどうしてこうもやきもきするんだろうか。
営林所の中から聞こえる微かな物音、木製の建物なので人が入れば多少の音はするのが当たり前だが、英蔵は注意深く音を聞いていた。
さきほどからわざと不自然にならない程度に大きな声でイノランと話していた、イノランが小さく通りの悪いタイプの声をしていたので多少調整は難しかったが、気づかれなかったはずだ。
時間にして10分ぐらい、イノランが営林所から出てきた。ほっとしたのを顔に出さないように注意しながら英蔵は声をかける、
「なにかありましたか?」
「凧糸があったよ、まぁ何かにつかえるんじゃない。じゃあ俺は行くね」
ウージーを持った左手を軽く振ってイノランは営林所の向こうへ消えていった。
合図をするわけにはいかないのでタイミングは向こうの判断に任せ英蔵は無言で待った。
実は英蔵がさきほどやった行為は《ルール違反》だが《警告》は入らなかった、バレなかったらしい。
さらに10分後、営林所から一人の人物が顔を覗かせた。
イノランが来る前に偶然此処に来た人物。営林所の中にいた彼が隠れるか逃げるかする時間を稼ぐために英蔵はイノランとの会話を引き延ばしていたのだ。
女子ブレザーを着用して、綺麗にメイクをしたその人物はDのギタリスト涙沙(ルイザ)だった。
「めっちゃ怖かった!あんなに怖いかくれんぼは生まれて初めてや!」
英蔵の前に来ると開口一番そう言った
「るいちゃん、何処に隠れてたの?」
「天井裏!服汚れるし、髪乱れるし最悪や」
「女子高生じゃないんだから・・・」
「そやかて!」
むうっとふくれる涙沙を英蔵は宥めるように言う。
「あんまり大声出すとまずいって、るぅちゃん」
「そんな黒いバレエ衣装に変身して踊り出しそうな呼び方やめろや」
「いや、今のは噛んだだけ」
「メンバーの名前かんだらあかんやろ」
けっこういますけどね、メンバー名かんじゃう人。
あと自己紹介で噛む人とかね。
腰に手を当ててモデル立ちする涙沙が手に持っているのはスリッパだった。
美貌の青年が女子ブレザーを着てスリッパ持っている図、その上V系メイク。シュールすぎる。
『なんでやねん』と書かれたスリッパをぶんぶん振り回しながら涙沙は不機嫌そうに言う。
「もう最悪やわ、浅葱君は待っててくれへんし、生足にスカートやからスースーするし、武器はこんなんやし!」
衣装だって生足じゃねぇか。
「ほら浅葱君は出発早かったから・・・」
「浅葱君が4番目で俺は53番目やった!でも名前がそうなんだもん、しゃあないもん!」
「・・・武器に関してはこれを持って行けば?」
英蔵が差し出した日本刀を乱暴にもぎ取って、涙沙は口を尖らせた。
「銃がええのにっ!」
「そんなこと言われても知らねぇし」
彼の怒りの中心は浅葱が待っていてくれなかったことにあるのだが、それと連鎖して全てに腹が立つらしい。
「だいたい英蔵君、なんでゲームオーバーになってんの!?」
「それは・・・」
「どうせ武器が日本刀だったからテンション上がって後先考えずに誰彼構わずバトルしかけたんやろ?」
その通り。
その沈黙を肯定と受け取った涙沙はその場で「ちぇりお!」と叫びながらジャンプして回転。スリッパで英蔵の側頭部をぶん殴った。
「痛っ!痛い、地味に痛い!」
「ええ音したなぁ」
これぞスリッパの正しい使用法である。つっこみスリッパ。
「・・・パンツ見えたよ」
「ちぇりおぉぉっ!」
シパンッ!ともう一発英蔵の頭にスリッパが炸裂した。
「で、大城(ヒロキ)君はどうしたんや?」
「え?」
ぽかんとした英蔵に頬を引きつらせながら涙沙が言う。
「君のすぐ後に出発した、ウチのドラムの大城君」
「・・・え!俺のすぐ後だったの!?」
「ちぇりおっ!!」
今度は頭ではなく顔面を殴られた。
「ちょ、顔はやめろ!しょうがねぇだろ、普段あいおうえ順なんかで並ばないんだから!気づくかよそんなことっ!」
英蔵が再びスリッパ攻撃が来るのを頭を庇って警戒しつつ言いかけた時、涙沙は弾かれたようにその場から走り出した、見事なスタートダッシュを決めて、風のように林の中へ走っていく。
何事かと英蔵が辺りを見回すといつの間に戻ってきたのかイノランが営林所の裏から小走りでやってくるところだった。
涙沙はそれに気がついて逃げたらしい、それは良い判断だ。
「元・関ジャニなめんなぁぁぁぁぁぁ!」と叫びながらでなければ。
−えぇぇぇぇぇ!?なんでそんなこと叫んでんの!?普段言わないじゃん!なんで今このタイミングでそれを言っちゃうんですか!それもうほとんど「Dの涙沙ですっ!」って叫びながら走ってるようなもんじゃん!
英蔵は思わず空知漫画並のテンションの高いツッコミを入れてしまった(心の中で)イノランは無表情で英蔵の横まで来ると一言「涙沙君を隠してたんだね」と呟いて、涙沙が逃げた林に向かって走り出した。
「な・・・なんで、どこでばれたんだ?」
やばいことになったと思ったがすでにゲームオーバーになっている身ではどうすることもできない。
ついでに英蔵が《ルール違反》をしたのも主催者側にバレたはずなので《罰ゲーム》ぐらい覚悟しておいたほうが良いだろう。
−あれ、俺ピンチ!?
「まずいなぁ」と愚痴りながらイノランは涙沙を追いかけて走った。
自分が《マーダー》であると知った人間をそのままにしておくのは危険すぎる、涙沙が他の人間に喋れば不意打ちやだまし討ちが難しくなってしまう。
しかし涙沙の姿は一向に見えてこず、どうやら見失ってしまったようだ。
「・・・ま、いっか」
無駄に諦めがいいのは欠点なのか長所なのか「行き詰まったらとにかく止める」が信条であるイノランは走るのを止めた。
「涙沙君は優先的に狙うとして、まぁあとは手当たり次第、けっぱぐりましょうか」
イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マーダー続行、涙沙を優先的に倒す
【特性】危険乱数
涙沙
【武器】スリッパ、日本刀
【所属】D
【状態】青
【行動方針】イノランから逃げる、メンバーを探す
【特性】?
幕間−管理システム−
さて、本編にJが登場したところで軽い問題が発生した、ライターのJ氏という表記だと混乱を招きそうな気がするのだ。かといって「J」を「ジェイ」にするのもなにか違和感があるのでここからはライターのJ氏をライターのY・J氏と呼ぶ事にしよう。
あんまり変わらないよ!
くどいようだが彼の職業はライターではないのでこの呼称は便宜上だ。
「ん?今、何か天の声がもめてたよ〜な」
ショッキングピンクの髪をぐしゃぐしゃかき回しながらヒデが宙を見上げて呟いた。
「天の声って?」
対するY・J氏は怪訝そうにヒデを見る。
「いや、こっちの話。ところでどうかな、今《ルール違反》が出たけど」
「う〜ん、張本人の英蔵君はもう《ゲームオーバー》になってるし、今更、涙沙君に《警告》出してもね・・・」
「じゃあさ、あそこで英蔵がイノランちゃんを足止めしなかったら、イノランちゃんが涙沙を倒してた確率って何パーセントぐらいだと思う?」
猫目をくりくりさせてヒデが笑う。質問なのか、テストなのか。
Y・J氏は手元の資料をひっくり返して営林所の見取り図を探し出すとしばらく考え込んだ。
「そこまで広い場所じゃないし、この《ごっこ遊び》で使われてる銃器に関しては跳弾を考えなくてもいいから室内でも思う存分撃ちまくれるでしょう?で、涙沙はハズレ武器だった、それから此処って出口が一つしかなくて室内ルートも一本なんだよね、イノランが涙沙を倒してた確立は・・・85パーセントってとこかな・・・」
「そんなに?厳しいなぁ・・・」
「うん。逃げようと思ったら窓から気づかれないように逃げなきゃいけないし、それでも後ろから撃たれたらアウトだからね。というか英蔵が足止めしたにしても隠れきった涙沙が凄いと思う、たぶんこの押入れから天井裏に上がったんだろうけど」
物音も立てずに上がるのはかなり難しいだろう、眉間に皺を寄せながらY・J氏は続ける。
「問題なのは、別に涙沙が英蔵に時間稼ぎを頼んだわけじゃないとこなんだよね、此処で涙沙に《警告》を出すのはちょっと違う気がする」
「イノランちゃんに不利になっちゃったけど、しかたないかねぇ」
「と、いうかどうもしようがないよ」
「まぁとりあえず英蔵は罰ゲーム決定だな」
逃げろ、英蔵、今すぐ泳いで逃げろ。
英蔵にしても深い考えがあったわけではなくついうっかりやってしまっただけだろう。いわゆる出来心というやつだ。
「でもイノランは途中で気づいたんだよね・・・」
首を傾げるY・J氏にヒデは苦笑気味に言う。
「たぶん、営林所から出てきた時、英蔵の表情でも読んで気づいたんだろ。さっきさ、イノランちゃんのこと《調停役》って言ったじゃん?」
「あぁ、言ったけど」
「《調停役》が調停放棄したらどうなると思う?」
「・・・・・・」
「つまりそーゆうことなんだよ。まぁ普段はのほほ〜んとしてるけどね、イノランちゃん」
「のほほんとしてるのは、たぶんヒデ達の前だけだよ、俺の前ではそうでもない」
むしろ投げたボールを捨てられるぐらいの勢いだ。
会話が微妙な方向に流れて行きそうだったのでどちらともなく打ち切り、二人は画面を眺めた。マオのゲームオーバー後、つまりマシンガンを持ったマーダーの存在が参加者全員に知れ渡った後は移動している人間の方が少ない。
「あまりにもみんなが動かないようなら禁止エリア増やそうかな・・・」
「そのほうがいいかもね」
ヒデは回転椅子の上で膝を抱えるとくるくる回った。Y・J氏は気難しそうな表情でノートにメモを取っている。。
「なんか横で眉間にシワ寄せてるおっちゃんがいるとマジになっちゃうよ〜」
「ひどいなぁ、ヒデだって充分おっちゃんじゃない?」
「眉間にシワの部分に重点置いてたんだけど、ホント頭良いわりに天然だよね」
「ヒデには天然って言われたくないなぁ」
「あぁ、俺もリュウイチに"天然ですよね"って言われた時はなんか腹立った」
「・・・その発言が天然だよ」
軽口を叩きながらもY・J氏はスピーカーから流れてくる参加者の会話に耳を傾け高速でメモを取り続ける。
「しかしイノランも真面目というかなんというか・・・」
猫被ってるバージョンを主に見ているY・J氏からすればこの《ごっこ遊び》でのイノランの動きはやはり予想を超えたものだった。
「まぁ、真面目ってのもあるけどねぇ。俺的には薫と京のコンビが面白いなぁ素でマジになってるところがいろんな意味ですごい。あと逹瑯とミヤはなんかドキドキする」
「ドキドキというかヒヤヒヤというか逹瑯が何を考えてるのか全く分からない」
「アナタに読めないものが俺に読めるわけないでしょ〜が」
「俺のは読心術じゃなくて想像だよ?」
「いろんな意味でフライハイだね」
可愛らしくわけの分からないことを言われても返しようがない。
ヒデは手元のボタンを乱雑に操作するとマイクに向かって言った。
「こちら管理室、そちらの状況はどう?」
『こちら観察小屋。特に変化はないよ』
返ってきたのは掠れた男の声、徹底する気がないのか、気づいていないのか管理側だというのに超フランクなやりとりである。
『ただね、俺のすぐ近くにタクヤがいるんだよ、スナイパーライフル持ってる』
「あぁ、そうだよね、近いね!」
画面を見ながらヒデはけらけらと笑う。
『見つかったらどうしようか?』
「ん〜適当に仲間に引き込んでよ、大丈夫、アイツその辺りの順応性は高いから」
『了解、観察を続けます』
「ひーちゃん大好きっ!」
『はいはい・・・』
どうやら相手はヒースだったらしい。
ため息みたいな返事の後、通信は一方的に切られた。
「ねぇ、ヒデ・・・今気づいたんだけど、涙沙って英蔵から《死因》意外の情報聞いてたよ、大城のこととかいろいろ」
「ん〜〜〜〜?」
「これも《ルール違反》じゃない?イノランもルキにカマかけるような発言してたし、少し判定甘いよ」
「あれは本人カマかけてるつもりないだろうけどね〜。そうだね、次の放送でもう一回注意して、それ以降は《警告》入れる方向で」
「了解」
スギゾウとユウナがやり合い、薫と京が潜んでいた集落はすでに禁止エリアになったが島には他にも集落があった。出発地点である廃校から一番遠い集落にある民家のごくごく普通の古い平屋建ての中から「かつん、かつん」と小さな音がしていた。耳をすまさなければ聞こえないほど小さな音だ。周囲に人影はなく、屋根の上でキジトラの猫が一匹、賢者然とした面構えでその音に合わせて耳を動かしている。
民家の中にいたのはディルアングレイのドラマー、心夜だった。絢爛たる元・女形は女子ブレザーを今でも完璧に着こなせている。民家の中の一室で、壁に描いた円(石か何かで削って描いたのだろう)に向けてシルバーナイフを投げつけている。
10本あったナイフを全て円の中に命中させると、納得がいったように頷き、散らばったナイフを黙々と回収して、ディバックの隣に腰を下ろした。
盗聴対策であろうがなんだろうが独り言など絶対に言わないタイプの心夜である。スタートしてから誰にも会っていないため、一度も口を開いていない。地の文でだらだら書き連ねるよりも喋ってもらったほうが読みやすいし、面白くなるのだがしかたない。
ディルメンバーの中では三番目のスタートとなった心夜は教室から出口までの間に二つの予測をしていた。
薫が待っているパターンとそうでないパターン。待っている確率のほうが高いとは思ったが、何かのトラブルがあって薫が出口にいない可能性も考えておいたほうが良いと思った。
名前順での出発が始まってからは、移動と私語が禁止されており、目配せやジェスチャーも禁止だったので(さらに運悪く、心夜は教室の前の方にいたので他のメンバーが教室のどの位置にいるかさえ分からなかった)メンバー同士で合流しようと考えれば、出口で待つのが一番てっとり早い。
しかしこんな誰もが考えつくことに対してなんの対抗策もとらない主催者ではないはずだ。
案の定、薫も京もいなかった。
心夜も堕威を待とうかと思ったが、廃校付近をうろついている参加者が予想以上に多かったので、さっさと距離をとるほうを選んだ。
それでもほぼ確信に近く「薫君と京君は一緒にいる」と思っているのだが。
バンドとしての方針は合流できてから決めればいいだけのことだ。
顔に似合わず男前な性格である心夜は単純に「メンバーと会うまで生き残る」という方針を選択してた。かといって積極的に《マーダー》になる気は毛頭無かったが。
なにしろ武器がシルバーナイフである。
説明書には『セバスチャンのシルバーセット』と書かれていた。セットなのになんでナイフしかないんだと思ったが、こういう名称が付いているからには何か元ネタがあるのだろうと納得した。ディルの関西勢の中で唯一の大阪出身だというのにツッコミ気質がないらしい。
この民家に潜んでから今まで、このシルバーナイフを武器として上手く扱えるように淡々と練習していたところは、ある意味で《指令》を受けて《マーダー》になったイノランよりずっと怖いところがあるかもしれない。
ミネラルウォーターを飲み、支給品のパンで遅い昼食(早い夕食でもある)をとりながら心夜は無言で窓の外を見つめていた。
相変わらず人の気配はない。
本でも読みたい気分だったが生憎『基本私物持ち込み禁止』であるため持っていなかった、そうでなかったら携帯ゲーム機で時間潰して終わる奴がわらわら出てくるからだろうと思ってそれに関しては諦めている。《ごっこ遊び》とはいえ《仕事》である。一応、真面目にやらなければ。
しかたがないので支給武器の説明書を改めて開いた。
この武器、正確には『ファントムハイヴ家執事セバスチャン・ミカエリスのシルバーセット』らしい。
おそらくアニメかライトノベルに出てくるキャラクターが武器として使用しているものなのだろう。
しかし、日本では『執事=セバスチャン』で定着しているくらい執事は全員セバスチャンだ。心夜が思い浮かべられたのは元祖である『アルプスの少女ハイジ』のセバスチャンだけだった。敏弥ならもしかしたら知っているかもしれないが、特に聞きたいとは思わない。
ご大層な名前が付いているだけで『小当たり判定』武器であることに変わりはないのだ。
説明書をしまうと今度はルールブックを取り出し、巻末の名簿を開いた。第一回放送で名前を呼ばれたケン・ロイド、マオ、ユッケにはペンでチェックが入れられている。
展望台は此処からはほとんど見えなかったため、声とマシンガンの音のみが聞こえただけだ。ずっと隠れているため情報もないのでなんの予測も立てられない。
心夜は深いため息をついて天井を見上げた。
本当に一言も喋らないままこの回での心夜のターンは終わりである。
心夜
【武器】セバスチャンのシルバーセット(ナイフ10本)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】エリアが狭まるのを待ってメンバーと合流、攻撃してくる者がいれば倒す
【特性】男前
涙沙は走っていた。既にイノランは涙沙を追うのを諦めていたのだが、そんなことを知るよしもない涙沙は全力で走っていた。鞘を回収する暇がなかったので抜き身の日本刀を肩に担いだ状態である。スリッパよりはマシだがこれはこれでシュールだった。
走った。
走った。
走った。
走った。
視界が悪い中を全力疾走したため、通りかかった相手に激突した。涙沙が軽すぎたのか、相手が強すぎたのか、勢いよく後ろに吹っ飛ばされてひっくり返ったので途中で受け身に切り替えて一回転(いわゆる後転)をすると、スカートの裾を引っ張って怒鳴った。
「何処見て歩いとんねん!こ・・・」
ぶつかった相手はGLAYのボーカリスト、テルだった。あれだけ勢いよくぶつかったにもかかわらずダメージはないようで、涙沙を見てぽかんとしている。
「あぁ!テルさん!すいませんっ!」
危うく暴言を吐きかけた涙沙は慌てて頭を下げた。
「・・・大丈夫?怪我してない?」
「はい、大丈夫です」
涙沙の視線がテルから外れ、衝突した時に落とした日本刀へ移った。
あのまったく乗りそうもないイノランが《マーダー》だったのだ、テルはどうなんだろうか?そう思いだすと先輩というカテゴリは一番油断できない相手のような気がしてきた。
そんな涙沙の戸惑った様子に気づいたのかテルは優しい声音で言った。
「武器、拾っていいよ」
「え?」
「《ごっこ遊び》の最中だからね、メンバー以外は疑っちゃうでしょ?」
「そんなことないですよ、テルさんは大丈夫です」
「そう?」
テルはなんだか嬉しそうだ。涙沙は立ち上がって日本刀を拾った。土の上で転がるのはさすがに無理があったらしい、髪がぐしゃぐしゃになってしまっている。元々柔らかい髪質のせいでセットには苦労しているのだ、野外で直すのは無理なのでどうしたものか。
「あの、テルさんは武器なんやったんですか?」
「ハズレだったよ、これ。でも懐かしいかな」
テルが取り出したのはオカリナだった。
「《悪魔くんの召喚セット》だって。ちゃんと魔法陣も付いてた」
「それはまた遊び心満載というか童心に帰れるというかなめんな責任者出てこいって感じですね」
涙沙、最後のはクレームだ。
「だよね、思わず呪文唱えちゃった」
テルは人の良い笑みと優しげな雰囲気をまとっている。年長者の余裕か、性格なのか。
「なんか出てきましたか?」
「出てこないね〜。あとほら、悪魔くんが悪魔従わせる時に吹いてたメロディも思わず演奏してみちゃったよ」
「それはやりますよ、オカリナあったら絶対やります」
冗談めかして言うテルが面白く、涙沙はすっかり警戒を解いて笑った。
「そういえば、浅葱君見ませんでしたか?」
「いや、見てないよ。そういえばさっきしんぢ君とゆうや君が一緒にいるの見かけたけど、遠かったから声はかけなかったんだ」
「シドの二人ですか・・・名前からいって出口合流やないですよね、偶然会ったんやろか?」
「マオ君が呼びかけした時に展望台の近くで会ったとかじゃないかな。そっちはウチのメンバー見なかった?」
「いえ、GLAYのメンバーさんとは誰とも・・・あ!」
そこで涙沙は重要なことを思いだした。そもそも自分が走っていた理由。
「マオさんを撃ったのは、マシンガンを持ってるのはイノランさんなんですよ!」
「なんだって!?」
テルは心底驚いた顔をした。それはそうだろう、GLAYとルナシーメンバーは交流が深い、涙沙以上にイノランのことをよく知っているはずだ。
「なんで《マーダー》なのかは分からんのですけど、マオさんを撃ったのは自分や言うてましたし、俺も追いかけられたんです!」
「そんな・・・まさか・・・」
テルは顎に手を当てて考え込むように目を閉じた。
しばしの沈黙。
「ねぇ涙沙君、君はメンバーと合流したいんだよね?」
「はい、テルさんもですよね?」
「うん。それで提案なんだけど、お互いのどちらかがメンバーと合流できるまで一緒に行動しない?一人より二人でいるほうが攻撃される確率も下がるだろうし」
「それは別にかまいませんけど・・・」
「じゃあ決まりだ。よろしく、涙沙君」
「よろしくお願いします」
涙沙は丁寧に頭を下げた。
「ところで、パンツは普通の履いてるんだね」
「はぁ!?」
「さっき見えたからさ。あ、変な意味じゃなくてね。ウチって女形いないっていうかそもそも《女形》って概念自体がなかったから。だからああいう衣装着てる子って下着どうしてるのかなと思ってて」
「あぁ・・・まぁ衣装によりますよ、ラインが出ないように注意しなきゃいけない衣装もありますし、こーいうスカートならパンツも普通です」
涙沙からすると当たり前な話なのだがテルは妙に感心して聞いている。そして同性にそんなに感心されるとなにか恥ずかしい。
「えっと、さしあたってこれからどうします?とりあえず此処からは離れたほうがええと思いますけど」
「そうか、イノランさんに追いかけられてたんだよね。じゃあとりあえず反対方向に歩こうか」
「・・・そうですね」
アバウト人間ここにも。相手が先輩すぎてつっこめねぇよ、どうしようといった表情の涙沙をどう解釈したのかテルは人の良い笑顔で言った。
「大丈夫、絶対会えるよメンバーと」
元気づけられてしまった。
「ところで涙沙君は武器、それだったの?」
テルが日本刀を指さしてそう聞いてきたので涙沙は慌てて首を横にふった、そういえばこれも説明しておかなければいけない部分だった。
「元々は英蔵君のやったんです。俺の武器はハズレで・・・でも俺が英蔵君見つけた時はもう《ゲームオーバー》になってたんです。それで放置してあったこの武器持ってきたんですよ・・・」
「そうか、君のところからはもう一人《ゲームオーバー》が出ちゃったのか。それで英蔵君は何でやられたの?」
「大型の鈍器みたいです」
「なるほど、両手が塞がるような武器ってことか・・・」
首を傾げる涙沙にテルは優しく微笑んだ。
「英蔵君の武器はその場に放置されていたんでしょ、使い勝手の良い日本刀が」
「あぁ、理解しました。相手は片手にあまるサイズの武器を持ってたってことですね。でも片手にあまる鈍器って、バットとかですか?」
「片手にあまるものイコール両手で使うものとも考えられるから、トンファーとかヌンチャクとか、違うな《大型の鈍器》だからやっぱりバットかな」
錘はあまりメジャーな武器ではないので両者とも思い浮かばなかったらしい。
「とすると、バット持った人にも注意したほうが良いですね」
「うん。じゃあイノランさんとバット持った人を警戒しつつ、メンバー探しだね」
よりにもよって推理で嫌なフラグを立ててしまった。
「ところで、その日本刀は普通の日本刀?」
そう問われて涙沙はもう一つ思いだした、スカートのポケットに手を突っ込み中に入っていた紙を取り出す。診療所に隠れる前、英蔵と合った時に渡された日本刀の説明書だ。
『日本刀(同田貫−どうたぬき−)拝一刀や久慈慎之介の愛刀《中当たり判定武器》』と書かれている。
「誰やねん!」
無機物につっこむ涙沙、さすが関西人。
「拝一刀はたしか子連れ狼の主人公だよ。そのく久慈なんとかって人は知らないけど・・・時代劇の登場人物かな?」
「・・・普通の日本刀って設定なんやろか、あ、なんでしょうか?」
「《中当たり》って書いてあるからそうなんだろうね、《超大当たり判定武器》ってどんなのかなぁ」
「ロケットランチャーとかですか?」
「ははは。それ撃ったほうも死ぬよ」
異色ながらほのぼのパーティ、涙沙&テル行動開始。
テル
【武器】悪魔くんの召喚セット(ハズレ)
【所属】GLAY
【状態】青
【行動方針】涙沙と行動、DとGLAYのメンバーを探す、イノランとバットを持った人物を警戒
【特性】?
涙沙
【武器】日本刀、スリッパ
【所属】D
【状態】青
【行動方針】テルと行動、DとGLAYのメンバーを探す、イノランとバットを持った人物を警戒
【特性】?
「か・・・肩こってきたよ」
タクヤはスコープから目を離して首をぐりぐり回した。痛くなるまで気づかなかった集中力はさすがといえよう。
さきほどチラリとイノランの姿が見えたが射程距離ではなかったので観察することしかできなかっが、マーダーを続行しているようだった。
「剣呑剣呑、危険危険、リスキーリスキー、三段階活用」
違います。
「・・・リスキーリスキー毎日リスキー♪」
歌うな、そして踊るな。
「肩こったし、飽きたし、眠いし、ホント恨むよイノラン君・・・いやまぁ悪気はないんやろうけど。あ!あそこにいるのタクヤじゃん、巻き込んじゃえ!程度の感覚でやったんやろなぁ。基本的に邪気のない人だから、いや意識的に無意識でとっぱらってるんだよね。本当に無邪気なのはスギゾウさんみたいな人だから」
そう言いながらタクヤはヘドバンでもする勢いで首を回す、そんなことをしたらよけいに痛めそうな気もするが。
ずっと藪の中で寝転がっていたのでその疲れもあるだろう、灯台から狙撃することも考えたが、すぐに居場所が特定されそうな上、チャールズ・ホイットマンを連想させるのでそれは避けた。タクヤは本来、平和主義者なのだ。《ごっこ遊び》にのる茶目っ気はちゃんと持ち合わせているが。
だいぶ肩がほぐれてきたのかタクヤは再びスコープをのぞき込んだ。
射程距離に人の背中が見えた。
V系メンバーは髪型の変化が激しく、痩せ型の人間が多いため、後ろ姿での判別はとても困難だ。しかし、彼に関しては一発で特定できた。
控え目に言って大きなその背中は元ルナシーのドラマー、真矢だった。
さすがに彼を攻撃するわけにはいかない、いくらJやイノランと仲良しとはいっても年上相手だ。スコープから目を離そうとしたその時、肩にビリッとした痛みが走った。反射的に首を曲げた瞬間、ズガン!という銃声が響き渡る。うっかり引き金をひいてしまったらしい。
慌ててスコープをのぞき込むと、しゃがみこんでいる真矢の頭が見えた。きょろきょろと辺りを見渡している。その場から動く気配はない。
「やばぁぁぁぁっ!当たったん!?当たってまったん!?俺ヤバイやん!」
タクヤはその場でごろごろと転げ回った。
一通り転がってからライフルの前に戻ってきた時にはウェーヴのかかった髪は落ち葉にまみれていた。
「ま、なっちゃたもんはしかたないわな」
諦めのよさは長年の親交でイノランから伝染したものだろうか、タクヤは頷きながらそう言った。
「そろそろご飯でも食べようかな、疲れたし」
ディバックからパンと水を取り出すと丁重に手を合わせた。
「いただきます」
ちなみにこの間ずっと無表情なのでタクヤをよく知らない人物が見たらちょっと不気味だったかもしれない。1年間で地球百周を豪語する彼は「日本人はやばくなるとアルカイック・スマイルで誤魔化す」という定説を凌駕した、なんてことではなく単なるポーカーフェイスだ。ちなみにこれをイノランと友人関係になり最初にぶち壊されたのは、思いだすのも怖いようなとんでもないレベルの下ネタをイノランが口にした時で、その瞬間のタクヤの表情が「あまりにもおもしろい」というイジメのような発想でいまだにイノランは不意を付いてタクヤの前で妙な言動をとることがある。
「・・・思いだしたらムカついてきた。絶対、イノラン倒す」
決意も新たにタクヤはパンにかぶりついた。
タクヤ
【武器】ワルサーWA2000
【所属】ロボッツ
【状態】青(肩こり)
【行動方針】とりあえす食事休憩、射程距離に入った人間を撃つ、イノランに仕返し
【特性】?
ソフィアのボーカリスト松岡充は疲れきっていた。《ごっこ遊び》とはいえ普段と全く異なる緊張感を強いられるこの状況に少なからず恐怖と苛つきを感じていた。かといってそれを表に出すほど子供でもない。黒柳が予想した通り、出口で合流したキーボーディストの都啓一となるべく通常通りの会話を心がけながら、木の根に腰を下ろしていた。
都と合流するには松岡の次に出発のミヤをやりすごさなければならなかったが、松岡は裏をかいて校舎の横に張り付くようにして隠れていたので気づかれなかった。もっともそんな位置から出ていったので都を驚かせてしまう結果になったが。
マオのゲームオーバー後移動を止めて、その時いた場所から動いていない、木々の向こうに展望台が見える。
優勝賞品は欲しい。しかし・・・
松岡は自分の手の中にある支給武器を見つめた。
「どうせいちゅうねん」
松岡は毒づく。手の中にあるのはハンディサイズの・・・大型拳銃の銃身を取り除いたような形をした物体だった。色は赤で、持ち手の上の部分が開くようになっている。もしや凄い武器かと期待したが開いたそこに『ハズレ』という文字が書かれていた。《零神操機(ゼロドライブ)》というものらしい。
子供向けアニメの玩具なのだろう、説明書には名前以外に一言「式神降神!」と書かれていた。
「松ちゃん、もうそれ30回ぐらい言うてるで」
都も元気とは言い難かったが長年の付き合い故に、表面上はいつものテンションを保っていた。
「何度でも言いたなるわこんなん、よりにもよって《ハズレ》やなんて、まったく使えへん」
「虚仮威しぐらいには使えるんやない?」
「まぁ離れてみたら銃に見えなくもないし、少しの間なら誤魔化せるかもな」
松岡はそう頷いた。優勝するにはなんとかして武器を手に入れるか、他のメンバーと合流しなくてはならない。
「あとはまぁ、オマエの支給武器に頼るか」
「頼られても困るで、そもそも武器ちゃうし」
都はジャケットを捲ってランプの裏を指さした。SDカードが挿入されている。
説明書にはこう書かれていた。
《防弾チョッキ》
胴体への《当たり判定》をある程度なら無効化できるらしい。かといって《ハズレ》と防弾チョッキで事態が好転するわけもない。
《支給武器以外での攻撃禁止》ルールは大きな制約なのだ、もちろんそうしなければ危険なのでそこに文句はないが。
「なんとか他のメンバー見つけて、ええ武器持っとること期待するしかないなぁ」
「でもトモ(赤松)なんか絶対ハズレ引いてそうやで?」
「いや、案外あいつクジ運ええねん」
そう言って何かを思いだしたのか松岡は小さく笑った。
「でもやっぱ黒ちゃんかな!冷静やし、強いし、なんとなく当たり武器引いてそうやし」
子供のみたいに膝を抱えてゆらゆら揺れながら松岡が言うのを聞いて都も笑う。
「そうそう、こういうとき黒ちゃんははずさないちゅーか、頼れるよな」
何故か異様に頼りにされている黒柳、さすがである。当たり武器を引いてるのは正解だが。
ふと人の気配を感じて松岡は視線を移した、松岡と都が座っているところから数メートルちょうど成人男性分ぐらいの段差がある。その下に誰かがいる気がした。
いつもの会話を心がけるあまり声を殺すのを忘れていたことに今、気がついた。
松岡は都を制して神操機を構えて立ち上がる。
無論、神操機はハズレ武器なので先程相談したとおり「虚仮威し」だ。
「誰かおるんか?おるやろ、そこにおるの誰や!」
女性的な外見に似合わないドスの効いた声は、荒れていた時代に身につけたものである、声量はやや抑えてはいたが、気の弱い相手なら竦み上がりそうなかなり迫力のある声だった。
「その声は充?」
返ってきたのは歌うような響きのある美しいテノール。その声の主が誰なのかすぐに分かった。
「リュウイチさん!?」
段差を軽く駆け上がって姿を見せたのは元ルナシーのボーカリスト、リュウイチ。松岡の頼れる先輩だ。
「都君もいたんだ、よかった。ようやく人と会えたよ・・・」
そう言ってリュウイチは微笑んだ。松岡からしてみれば信用するしないもない兄貴分である、都も立ち上がって一番座り心地の良い場所をリュウイチに進めた。
「聞いてくださいよ、俺《ハズレ》だったんですよ」と松岡は神操機をリュウイチに見せる。手にとって面白そうに眺めた後「ついてないなぁ、充は」と笑われた。継いで都も自分の武器の説明をするとリュウイチはこれもまた面白そうに聞いていた。
「リュウイチさんの武器はなんやったんですか?」
《防弾チョッキ》SDカードを再びランプの裏に差し込みながら都が聞くとリュウイチは腰のベルトからそれを取り出した。
無骨な大型拳銃。
「デザートイーグルじゃないですか!」
松岡が目を輝かせる。
拳銃最高の50口径、男子の憧れである自動拳銃の登場に興奮気味だ。
「すごいでしょ〜」
リュウイチは得意そうにそれを掲げた。
「ねぇ充、優勝したいんでしょ?」
「え、そりゃあまぁ、できるなら」
「だったら俺が手伝ってあげるよ、俺は優勝する気ないけど、リタイアするのもつまらないからさ。せっかくこんな武器当たったし」
「ほんまですか!?」
思わぬ協力者の登場に松岡と都はハイタッチして喜んだ。運動能力でいえば最強レベルのそして一番の先輩であるリュウイチが手伝ってくれるというのである。
はしゃぐ二人を見つめながらリュウイチは嬉しそうに笑った。
松岡充
【武器】神操機(ハズレ)
【所属】ソフィア
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、他のメンバーと合流
【特性】?
都啓一
【武器】防弾チョッキ
【所属】ソフィア
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、他のメンバーと合流
【特性】?
リュウイチ
【武器】デザートイーグル
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ソフィアが優勝する手伝い
【特性】?
幕間−観察小屋−
タクヤのいる地点にほど近い大木の上、この島で一番の高台に、巧妙に隠された小屋があった。
小屋、というよりは檻を葉でくるみ、偽装しているというのが正しいかもしれない。
その中にいるのは先程管理室のヒデと通信していたXのベーシスト、ヒース。いまだ全国のダイエットに励む女子から「ふざけんなっ!」と泣かれそうなスタイルを維持しているこの男は、観察小屋に溢れる機材と格闘していた。望遠レンズ付きのカメラとビデオ。
此処から見える範囲のシーンを撮影しているのだ。ヒデから「ひーちゃん、お願いっ!」と頼まれたらやらないわけにはいかない、というより《ごっこ遊び》に参加させられるよりははるかにマシなので快諾した。そもそもヒースが参加したら他のメンバーが恐縮してしまって《ゲーム》にならないだろうが。
栄養バーを一囓りして、島を見下ろす。可能な限りの撮影といってもほとんどが木の陰に隠れてしまうので上手く撮影できたのは、展望台のマオとイノランのやりとりぐらいなものだ。
そしてすぐ近くにスナイパーライフルを持ったタクヤがいる。
こちらに気づいている様子はないので動きがあれば撮影していた。独り言の多い奴だと最初は思ったが、すぐに盗聴器に向かって喋っているんだと分かったのでむしろ現在の印象は「気の回る奴」に変わっている。
そのタクヤはというとパンを食べながら何かを考えている様子だった。
「こういうのどうやろ"さすがイノラン君、俺にできないことを平然とやってのける、そこに痺れる、憧れるぅ!"・・・しっくりこないな」
−パクリじゃねぇかよ。
と喉元まで出かかった言葉を呑み込み、ヒースは横目でタクヤを見る。どうやらイノランと再開した時に言う台詞を考えているらしい。
大概の奇行に慣れてしまってる自分はどうなんだろうと苦笑してヒースは自分の仕事に徹し続けた。
「やばっ」
思わず声が漏れる。栄養バーの包装紙が床の隙間から下に落ちてしまったのだ。タクヤが気づいた様子はない。
此処に来るまでかなりの急勾配である、他の参加者が来る事はないだろうと片付けてヒースは観察を再開した。
「だからさぁ、ちゃっちゃとゲームオーバーにしちゃってくんない?どうせ《致命傷判定》喰らってるし、この歳で野宿はキツイわけよ、あと何時間も待ってたら日が暮れちまう」
「と、言われましても・・・」
「おっと、そこからは出るなよ。たぶん此処を狙える位置に狙撃手がいるからな」
「《狙撃》と断定しますか?」
「断定するね。確かにあの時、周囲に人の気配はなかった」
座り込んでそう話しているのは真矢。先程タクヤがうっかり撃ってしまったため、胸のランプは《紫》が点灯している。
「で、銃持ってんだろ、さくっとさ、撃ってくれよ」
少し離れた木の後ろではベレッタを持った黒柳が困惑した顔でそれを聞いている。
「俺がいいって言ってんだから、いいだろうが」
「いや、なんというか拍子抜けしてるんですよ・・・もっと血の気の多い方だと思っていたんで」
ある意味で遠慮のない黒柳の言葉に真矢は豪快に笑う。
「あと10年若けりゃねぇ!」
「・・・じゃあ撃ちますよ。《なにか言い残すことは?》」
露骨に形式的な雰囲気で黒柳がそう聞いてきたので、真矢はまた笑った。
「そうだな、俺以外の元ルナシーに気をつけろってとこかな。まぁJは除外できるけどよアイツは100%《主催者反撃ルート》だから」
ポーカーフェイスを保っていた黒柳の表情が少し崩れた。
「その・・・イノランさんとかにも?」
「J以外って言ったろ」
百歩譲ってスギゾウはまだ分かる気がするのだが、あとの二人に関しては温厚かつ寛大である記憶しか黒柳にはない。
困惑した黒柳の雰囲気を察したのか真矢は苦笑して頭を掻いた。
「まぁあんまりオジサン達をなめるなってことよ」
「・・・了解し、理解しました」
少しだけ口角を上げた黒柳は見ようによっては楽しそうだ。
「俺だって暴れる気満々ですから、まだまだ負けませんよ」
「その意気だ、後輩」
真矢は黒柳に向かって自分の武器を投げ渡す。ファイティングナイフである。さほど大きくはないが戦闘用に作られたナイフだ。身体能力の高い黒柳にとってはありがたい武器になる。
「では、《地獄で会いましょう、先輩》」
真面目に三文芝居を行ってから黒柳はベレッタの照準を真矢に会わせ引き金を引いた。
黒柳能生
【武器】ベレッタM92、ファイティングナイフ
【所属】ソフィア
【状態】青
【行動方針】優勝を目指す
【特性】なんちゃってクール
【真矢 所属なし ゲームオーバー】
【残り44人】
凧糸を半径6メートルに張り、トラップを作り終わったイノランはその中心に腰を落ち着けた。凧糸の先端に太めの枝切れを結びつける。
これで人が糸に足を引っかければ分かるはずだがあまり自信はない。ミュージシャンなので残念ながらサバイバル経験はないのだ。なにはともあれ簡易結界製作完了。
「ちょっと早いけど、休憩はいりま〜す」
バイトじゃないんだからその台詞はないだろうが盗聴器に気を使ってちゃんと報告をした。
「・・・眠い、今朝6時起きだよ、寝たのは3時半だっていうのに。つーか3日間寝れないのかなぁ、見張りに誰か確保しようにもみんな《マシンガン》を警戒してるから無理だろうなぁ、やっぱケンを撃つんじゃなかった、かなぁ」
手持ちの武器の手入れをしながらイノランは独り言を続ける。
「・・・ピ、ピポポ」
昔なつかしいネタを唐突に口にした。やはり微妙に壊れている。
しばらく迷ってから、ウージーをディバックの中に隠してニューナンブを左手に、凧糸を引っかけた枝切れを右手に持って体操座りをすると、神経を尖らせたまま、目を閉じた。
眠りに入るほんの一時の間にイノランは思う。
−武器の配布は本当にランダムだったのか?
これに関してはすぐ答えが出た、イノラン自身が直前でタクヤを参加者側に引っ張り込んでいたからだ、あいおうえ順でいくならばタクヤの出発は27番目であり、ディバックは積んである順番にヒデが手渡ししていた。
タクヤが不確定要素である以上、そこに意図が入り込む余地はない。名簿にはタクヤは載っていないのだ。
−《マーダーカード》はあと何枚あるんだ?
これについてはゲームを進めていけばいずれ分かることだ、火力の大きい武器を所持している人間には注意したほうがいいかもしれない。
−いや、ちょっと待て、もう一度思い出せ・・・
タクヤの参加が決まった時、タクヤは別の部屋でブレザーに着替えて戻ってきた、そのすぐ後に名前順で出発が始まった。最初に呼ばれたのはガゼットの葵、2分おいてソフィアの赤松が出発した。イノランが5番目に出発するまで出口付近に立ったタクヤが恨めしそうに(といっても彼の場合ほぼ無表情だが)こちらを見ていたのは覚えている。
−そこだ。
ブレザーの予備があったのは不自然ではない、特殊な素材のようだし何かトラブルが起こる可能性もあるので用意したあったとしても問題はない。
−ならディバックは?最初から55個用意してあったわけか?
それは少し不自然じゃないだろうか。
「う〜ん、はめられたかな・・・タクヤ捕まえてしめたほうがいい、か・・・も・・・眠い」
考えるのを放棄してイノランは眠りに入った。
《マーダー》休息中。
イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】しばらく眠る、マーダー続行、涙沙を優先的に倒す、タクヤを捕まえて事情を聞く
【特性】危険乱数
メリーのネロ、シドの明希、そしてユウナという絶妙かつ珍妙な取り合わせの三人は《マーダー》を探して歩いていた。
狙いはマオを撃った《マシンガンのマーダー》である。この正体はイノランなのだがそんなこと予想がつくわけもなく、とにかく銃声のした方向を目指して歩いているのだがこれが思いの外、難しかった。
「原作で銃声のした方向にピンポイントで向かったり、銃を撃ったから居場所を気づかれるって理由で移動したりしてたけどあれ嘘ですね、分かるわけないですよそんなもん」
つっと顎を下げてアヒル口になった明希が愚痴る。
「そんなシーンがあるの?」
しんがりを歩いていたユウナがそう言ったので明希とネロがふり返った。
「「読んでないんですか?」」
ユニゾンで言われてユウナは苦笑する。
「俺、あんまり残酷なのとかはダメだからさ、話題にはなってたからまったく知らないわけじゃないけど・・・」
何せユウナはバイブルが『聖書』な男である、ある意味当然だ。
「というかいったいどれだけの人が原作に目を通してるんだろうな?」
ネロが首を傾げる、ラインとしては限りなく微妙である。
「スギゾウさんは読んでないはずだよ」
「俺はハイドさんに進められて読んだんで、ハイドさんは確実に知ってるかと」
ユウナと明希がそれぞれの先輩報告をする。
「ヒデさんが"バトルロワイアル知らない奴"の挙手を求めただろ、その時誰が手を上げたか覚えてるか?」
「覚えてませんよ・・・」
「いや、知らない人イコール原作を読んでいない人とは限らないんじゃない?」
「どういうことですか?」
明希が首を傾げる。
「"知らない人"っていう聞き方をしたでしょ、俺は"ルールを知らない人"って解釈したから手を上げなかったよ。スギゾウさんも上げてなかった、俺は隣にいたからそれは間違いないよ」
「言われてみればそうか・・・ん!?」
先頭を歩いていたネロは前方に人影を確認して言葉を切った、ネコパンチバズを構えて少し強い口調で声をかける。
「誰だ!?」
それに対して緊張感のない、のほほんとした声が返ってくる。
「そっちこそ誰がいんの?」
「その声、ハイドさん!?」
明希がネロの後ろから顔を覗かせる。
ハイドは小走りに近づいて、嬉しそうな顔を見せた。
「ん〜?なんや、明希か。それにネロやん。もう一人は誰や?」
ユウナはネロの隣に出てハイドの姿を確認した。ハイドが手に持っているのは黒いマラカス。
ユウナは胸に手を当ててそこにある武器を確認した。《自殺志願》、そしてユウナは知っていた、予想していた、《元ネタ》がある以上、残りの《超大当たり判定武器》が釘バットとマラカスであることを。
ユウナはネロと明希の腕を掴むと「逃げるよ」と囁いた。怪訝そうな顔をする二人の腕を強く引く。
「いいから早くっ!」
普段からは想像もつかない強い語気に押されて明希もネロも走り出した。
遠ざかっていく三人の背中を見ながらハイドは小さく舌打ちする。
「なんや、バレたんか・・・」
「腹芸が下手なんだよ」
木の後ろに隠れていたサクラに笑われてハイドはつまらなそうに口を尖らせた。
しばらく走って、ハイドが追ってくる気配がないのを確認してから三人は足を止めた。
「なんで逃げなきゃいけなかったんですか?」
ハイドと仲の良い明希は不満そうである。
「あのマラカスはたぶん《少女趣味》という《超大当たり判定武器》だよ、それがまず一つ」
ユウナは人差し指を立てて言う。
「そして少し離れた木の後ろに人が隠れていた、それも一つ」
指を二本に増やしてユウナは続ける。
「そしてもう一つ、ハイドさんは《バトルロワイアルが好きである》ということ。Q.E.D.」
「それに対して疑問が二つ。何故《超大当たり判定武器》だと断言できるのか、そして最後の言葉の意味が分かりません」
ネロも対抗して指を二本立てていう。少し怒っているらしい。
ユウナはしかたなく内ポケットのホルスターから《自殺志願》を取り出した。
「これは《超大当たり判定武器》なんだ、そしてこれには《元ネタ》がある。ある小説に出てくる武器なんだ、そこから導き出される予想だったけど、あのマラカスを見て確信できた。これ以外の《超大当たり判定武器》武器は黒いマラカスの《少女趣味》と、釘バットの形状をした《愚神礼賛》だよ」
「《元ネタ》ではその三つはセットなんですか?」
ネロの問いかけには「そう考えてもらっていいよ」と答えたユウナに、続いて明希が疑問を投げかける。
「《バトルロワイアルが好きである》ってことが疑う根拠になるんですか?」
「《ごっこ遊び》はなんでやるの?」
「はい?」
「《それが好きだから》だよね。《バトルロワイアルが好き》ってことは《バトルロワイアルごっこ》においてどうなる?」
ここまで言われれば明希もバカではないので理解できる。今回の《ごっこ遊び》はゲーム脱出を目論む《主人公組》は存在できないので、積極的に楽しもうと思えば選ぶ枠は《マーダー》か《主催者反撃ルート》になる。
「ごめんね、仲良しだったみたいだけど、あれが《少女趣味》だとしたら確認している場合じゃなかったから」
「あれはそんなに危険な武器なのか?」
「たぶん、あれを鳴らすことでなにか特殊な効果が得られるように作られてるんだと思う。下手をすると音だけで《当たり判定》を喰らわせられるかもしれない」
明希もネロも100%納得したわけではないが、事情は飲み込んだ。気を取り直して今後の行動について話し合おうとした時、予想もしない事態、特に明希にとっては驚愕の事態が発生した。
島に再び拡声器を通した声が響き渡ったのだ。
明希
【武器】匕首
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】?
ネロ
【武器】ネコパンチバズ
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】《マーダー》を倒す。
【特性】?
(現時点ではこのパーティのリーダーである)
ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ネロ達につき合って《マーダー》を倒す
【特性】??
(スギゾウを攻撃したことは告げていない)
ハイド
【武器】少女趣味−ボルトキープ−(超大当たり判定武器)
【所属】ラルクアンシエル
【状態】青
【行動方針】《少女趣味》を使って会う人を襲撃
【特性】天然悪魔
サクラ
【武器】青龍刀
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ハイドのサポート
【特性】理論展開
遡ること数分前、シドの二人が展望台の階段を上っていた。ギターのしんぢとドラムのゆうや。既にマオはゲームオーバーとなり、明希はネロ達と行動しているので「シドの二人」といったらもう彼等しかいないのだが、登場人物が多いので名前はしっかり記そう。
奇跡的に合流した二人はある計画を立てた、そしてそれは明希がやろうとしていることと同じであった。
「マオの敵討ち」である。
恐るべきは《バンド内共感覚》だ。
そしてこの二人はもっと能動的に、効率的にそれを行うつもりなのだ。
階段を駆け足で登り切ったゆうやが四阿の中に駆け込み、少し遅れてしんぢも到着した。
ゆうやは四阿の真ん中に置かれていた《死亡カード》を手に取る。
『マオ 銃創多数』と書かれたそれを確認すると丁重に元の位置に戻した。四阿の隅にはディバックが置かれたままになっている、ディバックはその場に置いていくルールだ(私物は持って帰ってよい)そしてゆうやは重要なものを手に取った、拡声器である。
「ゆうや、やっぱりその役は俺がやるよ」
「いいの!喋るのは俺で!それに銃を当てたのはしんぢ君なんだし」
シドの末っ子は無意味にテンションが高かった。拡声器をぶんぶん振り回すゆうやに「仕方ない」と肩をおとしてしんぢは四阿の囲いの向こうへ身を隠す。
「俺に当てないでね〜!マジでっ!」
「分かってる、俺は絶対に外さない」
「か〜っ、くいいっ!」
「今のは噛んだのか、タメたのかどっちなんだ?いや、そもそも日本語なのか只の遠吠えか?」
「遠吠え!」
人間として一番ダメなものを選択してゆうやはけらけらと笑った。
「ゆうや、これは・・・」
「マオ君の敵討ちだもんね、絶対成功させよう」
「分かってるならいい」
「じゃあ始めるよ」
ゆうやは拡声器のスイッチを入れると口元に持ってきた。
『みなさ〜ん!シドのゆうやです!聞いてください!』
ゆうやの無駄にデカイ声が島中に響き渡る。
『残念ながらうちのマオ君はゲームオーバーになってしまいました!でも俺達にはまだできることがあるはずです!みなさん、俺達はロッカーです!ロッッケンローラーですっ!どうですか!ここはみんなで一緒に《主催者反撃ルート》を狙おうじゃありませんか!?』
二人が立てた計画はごく単純なものだった、『《マーダー》をおびき出す』こと。それだけだ。
ゆうやがさも一人であるかのように適当な《呼びかけ》を行い、《マーダー》が来たところを隠れているしんぢが狙い撃つという明かしてしまえば本当に単純な計画である。
『どうですか!?俺は此処にいます《主催者反撃ルート》を狙いたい人達!どうか此処に集まってください!』
不自然さはなかった。ゆうやの性格を考慮しても彼がこういった行動に出る事に違和感を持つ人間はいないはずだ。身を隠しているしんぢはゆうやの後方を中心に目を光らせながら銃を構えていた。
しんぢが持っているのはコルト・ウッズマン。自動拳銃の中では威力は低いが、ゆうやの武器が《新体操のリボン》という《ハズレ》であったため仕方がない、いや、銃器が当たっただけでも幸運だったと考えるべきか。
ゆうやの演説は続く。
その声は参加者全員に届いている。
10分もすると二人に焦りは生じてきた、ゆうやはちょいちょい言葉を切っては四阿から下を見下ろしている。しんぢはもうすぐ現れるはずの《マーダー》を探してウッズマンに力を込めたままゆうやの後方を凝視していた。
この時点で二人は知るよしもないことだが、二人がおびき出したい《マシンガンのマーダー》であるイノランはこのゆうやの《呼びかけ》に目を覚ましたものの、展望台から遠いし動くのがめんどくさいという《マーダー》にあるまじき理由でその場から動かなかったのだ。《危険乱数》広域地帯。
15分たった。計画を練り直すべきかと思案し始めたしんぢの目の前がふと暗くなった。ちょうど人が後ろに立ったように目の前に影が落ちている。
その時しんぢが取れる行動は二択しかなかったのだが、しんぢはゆうやの安全を優先した行動を選んだ、襲撃者を倒せることに賭けるよりもゆうやが無事に逃げられる方を。
大声でゆうやの名前を呼び、ウッズマンを彼に向かって投げてからふり返った。相手が誰であるか確認する前に肩に衝撃が走る。不自然な体勢になりながらも襲撃者の顔を確認すると、鉈を持ったガラがそこにいた。
「ガラさん!なんで!?」
と叫んでからその質問があまりに間抜けすぎることにすぐ気がついた。まだランプが点滅中なのでしんぢは半分しゃがんだ状態で動くことなくガラを見る。
「ガラさん、なんでっすか!?」
仕切りの向こうでゆうやも叫ぶ。ウッズマンは無事受け取ったらしく、そのすぐ後に銃声が聞こえた。ガラは素早く身をかがめてそれをかわす。
「なんでだと思う?」
そう言いながらガラはもう一発、しんぢの胸の辺りを鉈で叩いてから身をかがめたまま上手く木を盾にして駆け下りていった。
「なんでって・・・京さん優勝させるためですよね・・・」
いくら柔らかい素材とはいえ格闘技経験者の的確な攻撃は痛い。ちょっと涙目になりながらしんぢはガラの背中を見送った。
「しんぢ君!大丈夫!?」
顔を覗かせたゆうやにしんぢは手を合わせて謝った。
「すまん、俺も《ゲームオーバー》だ」
ガラのとどめの一撃によって胸のランプは《赤》になっていた。
「もうここは危ない、早く逃げろ。気をつけるんだぞ・・・」
ゆうやは少し寂しそうな顔をしながらもしっかり頷いた。
しかしゆうやも仕返しをしたかったのか、末っ子属性故の怖いもの知らずか、意外にも冷静に判断ができたのか、その全ての理由なのか、去り際に拡声器を掴んで追加の放送をした。
『みなさん!メリーのガラさんは《マーダー》です!しんぢ君がやられました!気をつけてください、鉈を持っています!』
マオが行ったものと違い、今回の《呼びかけ》は各方面に大きな影響を与えることとなる。
「・・・ゆうや、やるなぁ」
ゆうやが去った後、しんぢは苦笑気味に呟いて、その場に寝転がった。
ゆうや
【武器】コルト・ウッズマン、新体操のリボン
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】この場から立ち去る
【特性】タミフル
ガラ
【武器】鉈
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】京を優勝させるためディルメンバー以外の参加者を倒す
【特性】?
【しんぢ シド ゲームオーバー】
【残り43人】
「よっしゃあ!いつでもこいっ!むしろ行こうミヤ君!」
とテンションの上がりまくりの逹瑯の横でミヤは呆れていた。
「おまえがガラさんに勝てるわけねぇだろうが、喧嘩もしたことねぇくせに」
デカイわりに逹瑯は弱い、たぶんミヤと本気で殴り合いをしたら一撃でのされるだろう、相手がガラでも同様だ。
「だって俺らショットガン持ってんじゃん?」
「俺は知らん、一人でやれ」
「う゛ぉい!?」
「逹瑯、話の途中だ、座れ」
「い・や・だ・も・ん!ガラと戦うもん!」
「可愛くねぇんだよ、手足の長いパグ!」
「いやだったらいや!なんだよミヤ君、自分が六頭身だからって俺のスタイルの良さに嫉妬してんの?」
「・・・おまえは《いやだもん》かっ!いいから座れよ」
《こんなこいるかな》世代に食い込んでる人にしか分からない喩えだ。六頭身と言われた事はスルーする方向らしい。
「え〜。だって、せっかくの《ごっこ遊び》なのに」
長い足をブラブラさせながら逹瑯は不満げだ、ミヤの額に青筋が浮かぶ。
「座れよ」
また文句を言おうと逹瑯はミヤを見て、黒い煙が立ち上りそうなぐらいの怒気を放っているのに気がつき素早く座った。
「はい、座りました。これでよろしいでしょうか?リーダー」
逹瑯、野外で正座。
「・・・じゃあ話の続きだけど、まったくのりそうにもない、のる性格でもないイノランさんが《マーダー》だという推測にはオマエも納得してくれてるんだよな?」
「うん。納得してる。《マシンガン》と《赤土》ね」
「でもイノランさんだ、おまえみたいに悪ノリする人じゃない」
「俺もそう思う」
・・・まぁイノラン猫被るの上手いので、特別親しくない限り印象としてはそうだろう。
「それでだ、主催者であるヒデさんと一番親しいのは元ルナシーのメンバーさんだろ?」
「あ、ミヤ君の言いたいこと分かったべ!」
「分かってくれたか」
へにゃり、とミヤが笑う。目つきは悪いが笑うとでたらめに可愛い男だ。
もう大丈夫と判断して正座した脚を崩しながら逹瑯は言う。
「つまりあれでしょ?ルナシーのメンバーさんは事前にこの《ごっこ遊び》の開催を知ってたんじゃないかってことだべ!?」
「そういうこと。だとするならルナシーのメンバーさんが全員《マーダー》である可能性を考えてみてもいい気がする」
「つまり、《ごっこ遊び》を円滑に進める役・・・専門用語で言うところの《ジョーカー》だね」
「専門用語で?相変わらずオマエはわけのわからんことに詳しいな」
「じゃあそこは警戒してくとしてだよ、俺らはどーすんのさ、リーダー?ヤス(サトチ)の意見も聞いてからにする」
メンバーをゲームオーバーにしておいていけしゃあしゃあとよく言えたものだが、逹瑯のこういった表面上のシンプルさは長所でもあるのでミヤもいちいち蒸し返すつもりはない。
「チーム水戸としてはヤスもいてくれたほうがありがたいしね〜」
「・・・やっぱ蒸し返していいか?チーム石岡崩壊させたのオマエだからな!」
へらへら笑う逹瑯を軽く睨んでからミヤは少し言い淀む。
「それなんだが・・・その、非常に言いにくいんだが・・・ヤスが生き残ってると思うか?」
その言葉に逹瑯は「ふへ」と妙な声を出して半笑いのまま固まった。
「第一回放送からもう何発も銃声がしてる、ヤスが残ってると思うか?」
「ん、ん、ん〜〜〜。う、運動神経は良いよ!?」
「・・・あいつがさ《ごっこ遊び》で人を疑ったり警戒したり、いや、それ以前に慎重な行動ができると思うか?」
「あは、あははははははは」
ミヤの容赦のない物言いに逹瑯は乾いた笑い声を上げる。
「合流は保留にしよう。これが本物のバトルロワイアルだったなら何が何でも探し出さなきゃいけないが、幸いにもこれは《ごっこ遊び》だ」
本物だったら逹瑯がやったことがアウトですけどね、まぁ本物だったらやらなかっただろうが。
「じゃあどうするの?」
「逹瑯、おまえはどうしたいんだ?」
これはつまり、判断を委ねると言ってくれているのかと逹瑯は目を輝かせた。
「優勝したい!」
「ならそうすんべ」
不敵に笑うミヤの前で逹瑯ははしゃぐ。
「じゃ、さっそくガラ倒しに行こうよ!」
「・・・おまえは馬鹿か?」
「う゛ぉい!?」
「極力戦闘を避ける、特に《マーダー》は避ける、ややこしくなるから他人との接触も避ける、《マーダー》はいるんだ、人数が減るまで待てばいい。動くのはそれからだ」
「うわぁ、ミヤ君せこいっ!」
「策士と言え、妖怪手長足長」
新しい暴言を吐かれた。しかし冗談を言うということは機嫌が悪くない証拠だ、逹瑯も遠慮する必要がない。
「でもミヤ君、俺は暴れたいんですっ!」
「・・・よし、ならゆっくり話し合おうか、我が儘ボーカリスト殿」
「絶対言い負かしてやんよ、天然リーダー様」
逹瑯とミヤ、ある意味で日常。
ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、逹瑯を説得
【特性】リーダーモード
逹瑯
【武器】バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、ミヤを言い負かす
【特性】俺様サドモード
ゆうやの《呼びかけ》直後、彼等もまた影響を受けていた。
「まこ!なんでや!」
ガラの《ゴットファザー》なくせに本名あだ名呼びな京が声を上げる。
「なんでまこが・・・《マーダー》なんか・・・」
その隣で薫が何とも形容しがたい顔をしていた、いかに《ボケ殺し》の薫であっても、この京のリアクションにはずばっとツッコミを入れたいところだが、如何せん京に甘い薫はストレートにそれを言うことができない。
「俺、まこと戦わなあかんの?」
京の漆黒の瞳で見つめられて薫はますます言葉に詰まった。最近露出が少ないので忘れられているかもしれないが、京もけっこうな天然である。
的確にツッコミを入れてくれる堕威がこの場にいないことで、薫は初めてメンバー全員を集めなかったことを後悔した。
「いくら《ごっこ遊び》でもまこは倒せへんし・・・」
「京君、ガラが京君に攻撃してくるわけないやろ」
「・・・でも」
「京君の弟分やん、京君が信じてやらんでどないすんの」
「・・・そ、やな」
京はめいいっぱい眉間にシワを寄せながらも頷いた。その表情を見て薫はふと思う。
あり得ない話、もしもでも想像したくない最悪の事態、これが本当のバトルロワイアルだったら京はどうするのだろう。『人は裏切る』と公言している京はどうするのか。
自分を、信じてくれるのか?
−馬鹿馬鹿しい。
と自らの思考を唾棄して薫は京を見た。たとえ信じてもらえなくても自分にとって京が大切な仲間であることに変わりはない、ならばそのなかで最善を尽くすだけの話だ。
「京君、大丈夫や、俺がついとる」
任せておけとばかりに胸を叩いて薫は微笑んでみせたが、京はひどく不安そうな顔で見上げてきた。
「どうしたん?」
「・・・分からへん」
これが只の《ごっこ遊び》であることは確実なのだが、どうもゲーム開始から独特の重い雰囲気がある、緊張感よりは上、恐怖よりは下の微妙な空気。
その辺り、敏感な京は薫よりも何かを感じているのかもしれない。
「なぁ、これ只の遊びやで?京君の好きな《ゲーム》や」
「・・・体使うゲームは好きやないもん」
拗ねたように言う姿が妙に庇護欲をそそり、頭を撫でくり回したい衝動に駆られたがそこは堪えた。
「ほら、堕威達探しに行こう、《マシンガンの人》も近くにおらんみたいやし」
「・・・・・・ん」
まだ少し落ち込んだ顔をしているものの京は素直に頷いた。
薫
【武器】S&W M500、ワルサーPPK
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】京を守る、メンバーを探す、ルナシーメンバーを警戒(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開
京
【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(不安げ)
【行動方針】薫に任せる、《ゲーム》の《攻略法》を探す、ルナシーメンバーを警戒(?)
【特性】????
他にもこの事件の影響力は高かった、具体的に《誰》が《マーダー》であると放送されてしまったことが一番の要因だろう、それは追々書いていくとしてこのことに一番影響を受けたのはシドとメリー、双方のメンバーだ。そしてよりにもよって此処は行動を共にしていた。
呆然とする明希の横でネロは頭を抱えていた、「もしかして」ぐらいには予測してはいたが、まさかこんな形で知るとは思っていなかった。完全に動きの止まった二人の横でこの件については部外者同然のユウナは空気を読んで黙っていた。
「明希、すまん!」
ようやく決心がついたネロに謝罪されて明希も正気に戻る。
「いや、ネロさんがあやまることでは・・・」
「違う、可能性としてガラが《マーダー》になることは予想していたのになんの対抗策も打たなかった。それにやっぱりガラはメンバーだ」
「可能性としてそうだったってだけで、いくら《ごっこ遊び》とはいえメンバーを疑えないですよ」
「京さんも参加してる時点で可能性は限りなく高かった、いやもちろん《メリーでの優勝》を考えているのかもしれないが、他のメンバーの意見を一切聞かずにそれができるほどじゃない・・・やっぱり京さんのための《マーダー》になったと考えるのが妥当なんだ」
ネロは地味に動揺しているらしく、言っていることが意味不明一歩手前だった。
それを聞いたユウナが二人が思った以上に冷静さを欠いていることを考慮して一応の提案する。
「あのさ、お二人さん。特に明希君、迎えに行ったほうがいいんじゃない?あの《呼びかけ》してた彼、ゆうや君だっけ?」
此処から展望台は目と鼻の先である。明希が「あ!」と声を上げて走り出す。
「おい、明希!」
「俺達も行こう」
ガラが斜面を駆け下りて行ったため、木の揺れなどから逃げた方向は分かっているのでゆうやはその反対に行った考えるのが妥当だ。
全力疾走する明希の背中を追って、周囲に注意しながら二人も走り出した。
運良く展望台から逃げてきたゆうやを明希は見つけることができた。
「ゆうや!」と喜びの声を上げて駆け寄ってくる明希にゆうやは一瞬驚いたがすぐに顔を輝かせて走り出す。しっかりと手を取り合って再開を喜ぶシドのメンバー二人の元に明希を追いかけてきたネロとユウナが顔を見せた。
「ネロさん!?」
ネロの姿を見たゆうやの顔が一瞬強ばる。
「あ、違う、大丈夫だよ!俺はずっとネロさんと行動してたんだ」
「じゃあやっぱりガラさんは、京さんを優勝させるためにってこと?」
「・・・たぶんな」
ネロは苦虫を千匹ぐらいまとめて噛みつぶしたような顔で答える。
「ん〜・・・じゃあしかたないですねっ!」
「え?」
「だって《そう行動する》って決めて《そうした》んだったらしかたないじゃないですか。しんぢ君のことは残念だったけど、《ごっこ遊び》だもんねっ!」
そう言って笑うゆうやに明希もつられて微笑む。
「そう・・・そうだね・・・」
「あ・・・そうだな、なぁゆうや、おまえも一緒に来るだろ?俺達はマオを撃ったマーダーを倒すために一緒に行動してるんだ、こっちのユウナさんも」
先程のゆうやの発言を気に入ったらしいユウナは笑顔で会釈をした。ゆうやも慌てて頭を下げる。
「つまり《マーダーキラー》パーティってことなんだけど」
「一緒に行きます!明希君もほっとけないし、元々しんぢ君とそのつもりで行動してたんだし!」
「ちょっと!俺、ゆうやに心配されるほど頼りなくないからね」
口を尖らせる明希に嬉しそうな笑顔をゆうやは向ける。再開できたのがよほど嬉しいらしい。
「ねぇ・・・ガラ君はどうするの?彼も《マーダー》なんだよね?」
ほんわかになりかけた空気をユウナが軽々と壊した、全員に沈黙が降りる。
「ど・・・どうしましょう?」
明希が困惑した顔でネロを見ると、ネロもまた心底困ったという顔を明希に向ける。
考え込む二人にゆうやがさらりと言う。
「いや、ムリでしょ?だってネロさんとガラさんはメンバーなんだし、このルールでメンバー攻撃する人なんかいないですよ」
すいません、逹瑯がやりました。
「んっと、でも俺達は《マーダー》を倒すのが目的で、ガラさんも《マーダー》で、いや、これはマオ君の敵討ちだから狙うのは《マシンガンのマーダー》だからガラさんじゃないんだよね、ガラさんの武器は鉈だから、ん〜でもしんぢ君はガラさんにやられちゃったんだから、マオ君の敵討ちをするなら当然しんぢ君の敵討ちもしないと不公平で・・・う〜分かんなくなっちゃった!」
一気に喋ってからゆうやも事態の複雑さに気づいて黙った。
「ユウナさん、どうしたらいいと思います?」
結局ネロはこの中で最年長であり中立の立場にあるユウナに助けを求めた。
「そうだね、保留にしようか」
「はい?」
「だって、この時点でガラ君と遭遇する確率って低いじゃない。ほとんどあてにならないとはいえマシンガンには《銃声》って手がかりはあるけど、ガラ君は鉈だから探しようもないし。彼の目的が・・・なんだっけ?」
「たぶん京さん、ディルアングレイさんを優勝させたいんだと思います」
「つまりガラ君はゲームを楽しむよりは着実に確実に参加者を減らしたいわけでしょ。なら銃火器を二つも持ってる上に4人で行動してる俺達を見たら避けると思うよ。それにネロ君がそうであるようにたとえ目的があったってメンバーと戦うのに抵抗があるのはガラ君も同じだろうしね。え〜っとじんぢ君?彼の敵討ちを兼ねられないのは確かに不公平になっちゃうけど、どっちにしたってガラ君を見つける手段がないわけだからね」
三人はポカンとした顔でユウナを見た。こんな論理的な回答をもらえるとは思っていなかったのだ。
「えっと、じゃあ引き続き《マシンガンのマーダー》探しってことでいいかな?」
ネロがそうまとめて、四人に増えた《マーダーキラーパーティ》は再び行動を開始した。
明希
【武器】匕首
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】?
ゆうや
【武器】コルト・ウッズマン、新体操のリボン
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】タミフル
ネロ
【武器】ネコパンチバズ
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】《マーダー》を倒す。
【特性】全身全霊
(現時点ではこのパーティのリーダーである)
ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ネロ達につき合って《マーダー》を倒す。
【特性】??
(スギゾウを攻撃したことは告げていない)
J、西川の《主催者反撃ルート》コンビは診療所にたどり着いた。既に日は傾きかけている、急いだ方がいい。二人は診療所の前で立ち止まって耳をすませた。なにも聞こえない。
「誰もいねぇみたいだな」
「そやな、一応中見てみよか、アイテムあるかもしれへんし」
「そうだな」
Jは診療所の引き戸を開けて足を踏み入れた、西川もそれに続く。
入って驚いた、スギゾウとラルクアンシエルのテツがいて、胡散臭そうにこちらを見ていたからだ。
「な、なにやってんだ、オマエ!?」
「よく見ろよ、《死亡判定》喰らってんだよ、オレら」
「誰にやられたんだ!?」
「ルール聞いてなかったのか。それは言えん」
スギゾウ、Jの前だと態度がデカイ。Jは困惑したように黙り込んでしまい、スギゾウは嫌そうに、テツは怪訝そうにその姿を見る。
「J君、これを聞かな!《死因》はなんやの?」
その空気に耐えかねて西川が軽い調子でそう言うと、テツが少し考えるような仕草をしてから答える。
「穴だらけ、ってとこやな。銃で撃たれた痕がたくさん」
「俺も同じだ。ただし、《腹》に《刺し傷》あり」
Jと西川は顔を見合わせた。
「え〜っと、銃で撃たれる前にお腹を刺されてたってことか?」
Jの質問にスギゾウはニヤリと笑う。
「正確には《腹に応急処置を施した深い刺し傷》があるってとこだな」
「思わせぶりやなぁ」
西川、苦笑い。スギゾウは体を伸ばしてテツに何かを囁く、J達に聞こえないように三言二言交わしてから頷き合った。
「たぶん、これも言って良いと思うけど。この辺りの床をよく見ると血痕がある、それは診療所の入り口付近の広場から続いていて、ここまで引きずって来たような血痕が二つあるはずだ」
《ごっこ遊び》で血は出ない。
しかしスギゾウとテツが撃たれたのは此処ではなく診療所の前だ。ルールには記載されていなかったが《血痕》というヒントを渡しても問題はないはずだと読んでスギソウはそうJ達に伝えた。
実際《血痕》が残っていたならイノランの『待ち伏せ作戦』の犠牲者はテツ一人に終わっただろうが。そんな不確定要素、ルールの穴、そういったものがネックになってくるとスギゾウは考えていたので遠回しに「元・メンバー」にそれを教えたかったのだ。水と油と言われようがちゃんと敬意と愛情を持っている。
「撃たれた場所から引きずられてきたってことか?」
Jは隣の西川にふる。
「《死体》を隠したんやろ、隠す必要があった・・・穴だらけってくらいやから武器はマシンガンやろ、つまり《マーダー》・・・あ!待ち伏せしとったんか!」
これには勿論、スギゾウもテツも答えない。ただニヤリと笑うだけだ。
「頭良いんだな、その誰だか知らないけどマシンガンの奴」
「少なくともオマエよりはな」
そのマシンガンの奴、つまりイノランと対面した時、Jがどんなリアクションをするのか想像するだけでスギゾウは声を上げて笑いそうになる。
どうも根底で好戦的な部分があるのがスギゾウだ。そしてユウナと離反(というほど大げさなものでもないが)するきっかけになった「悪気のなさ」これを組み合わせると、生き残っていてくれたほうが今後の《ごっこ遊び》に面白い影響を与えたかもしれない。
「J君、危ないかもしれへんで?」
「なにがだよ」
スギゾウに毒を吐かれてJは少し機嫌が悪いらしく西川の言葉にそっけなく答えた。それでもスギゾウに言い返さないのは何か思うところがあるのか、どうなのか。
「考えてみいな!参加者の中でも一番のベテランである二人を容赦なく倒してんねんで《マシンガンの奴》は!」
「は?ベテランだとなんか問題あんの?」
顔をしかめるJに、西川は露骨に大きなため息をついた。
「あんなぁ、確かにヒデさんは《先輩後輩関係なし》っていったけど、普通は躊躇するやろ、この二人見たら!オレらがたいした警戒もせずに動き回ってんのも《後輩がいきなり攻撃してくるわけない》っていう前提の元やろ?」
「そうだったのか?」
本気で何も考えていなかったらしい。三人から呆れたような目で見られていることに気づいてJは頭を掻いて思考を巡らせてみた。
「・・・・・・つまり・・・マシンガン持ってる奴はかなり危ないってことか?」
テツが大きく咽せる、たぶん笑いそうになったのを誤魔化したのだろう。
「J、おまえちょっと本気出せ。これが本物のバトルロワイアルだと思って神経研ぎ澄ましてみろ、逆にこれが《ごっこ遊び》だからこそあり得る可能性を考えろ。おまえは頭回るんだからな」
長年、いや現在進行形で最高のライバルであるスギゾウからの言葉を受けてJは改めて考え出した。
「先輩でも躊躇なく攻撃できるに足る理由があれば・・・」
悪い言い方をすれば権勢欲、良く言えば向上心、それが強い者。
優勝賞品が欲しい者。
あるいは?
「・・・分かった」
「え!?《マーダー》が誰か分かったん!?」
「《主催者反撃ルート》を狙うには慎重に頭使って警戒して動かなきゃいけないってことが分かった」
「は?」
「仲間集めは中止だ、寝首を掻かれる可能性だってある」
《主催者反撃ルート》が成功してしまった場合、優勝賞品はナシとなる、優勝したい者からすれば《主催者反撃ルート》を狙っている人間は真っ先に潰したい相手なのだ。
誰が優勝賞品を欲しがっているかなど分からない。
ならば参加者全員を警戒した方が良い。
Jを慕ってくれいている後輩のベーシスト達にしてみても「Jの気質に憧れている」と言い直せばそのベクトルが《主催者反撃ルート》に向くか《優勝》に向くかは五分五分だろう。
しかし、Jは見落としてしまった。情に厚い仲間思いのJにとってはしかたのないことだったが。
スギゾウに遠慮しない相手とルナシーのメンバーがイコールで結ばれていることに気づかなかった。
「でもやっぱり武器は必要だ、だから・・・」
宣言してしまった「元ルナシーのメンバーを集める」と。
西川は何か言いたげな顔をしたが、Jの前で「元ルナシーメンバーを警戒すべき」とも言えなかったので同意してしまった。
診療所を立ち去る直前、Jは思いだしたようにふり返って言う。
「あぁそうだ、スギ」
「なんだよ?」
「これが本物のバトルロワイアルだったら、俺は今すげぇショックを受けてる、絶対に主催者と《マーダー》倒す!って叫んでるぜ」
一瞬、なんのことかと呆けたスギゾウだったが《死亡判定》を喰らっている自分の身の上を思いだして、顔を真っ赤にした。
「な、な、な、な、なに言ってんだよ!」
ここでずっと黙っていたテツがついつい関西人気質で言ってしまう。
「Jさん、ここは小芝居しないと!」
「そうやなJ君、ここは一つ、カッコイイ台詞を頼みますわ!」
それにのるやっぱり関西人な西川。
「スギ、仇は絶対に討ってやるからな!」
ちゃんとポーズまで決めて言うJはとてものせられやすい男だった。「J君カッコイイ」とか西川に言われながら二人が立ち去ったあと、スギゾウは堪えきれずに爆笑していた。
「か、仇討つって!俺はイノランにやられたんですけど!オマエの親友が《マーダー》なんですけど!てめぇが仲間にしようとしてるのがその仇なんだよ!アイツのしまらなさはもはや天然記念物!」
「まぁ確かに残念ですけど・・・・」
爆笑するスギゾウの横でテツがポツリと言った。
「メンバーがやられてその仇討ちの相手が同じくメンバーでそれも親友やなんて、これが小説だったらすごい悲劇展開っていうか、主人公クラスのエピソードですよね?」
「ホントだ!ちぇっ!俺ももっとシリアスにイノランと対峙したかったなぁ・・・」
そんなことを言い合っていると島に点在するスピーカーから大音量で『Rusty Nail』のイントロが響き渡った、現在6時、第二回放送である。
J
【武器】ひのきのぼう
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】《主催者反撃ルート》を狙うためルナシーのメンバーを探す
【特性】ベーシストホイホイ
西川貴教
【武器】猫背刑具
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】《主催者反撃ルート》を狙う。方針はJに任せる
【特性】?
『みなさん、元気に《ごっこ遊び》してますか?主催者のヒデちゃんだよ〜!では此処まででゲームオーバーになった人を発表しま〜す。ガクト君、ムックのサトチ君、シドのしんぢ君、真矢君、これ元ルナシーの方の真矢だよ!間違えないように!続いてスギゾウ君!ラルクアンシエルのテツ君!ラルクアンシエルの方だよ!名前被りダブルパンチ!あははははは!あとDの英蔵君、ガゼットのルキ君!同じくガゼットのれいた君!以上です!ねぇ、これってペースどうなのかな。・・・・・・・・・・・普通だってさ!で、一つ言いたいことがあるんだが、ムックのサトチ君は禁止エリアに引っかかりました!みんなちゃんと放送は聞こうね!禁止エリアもメモろうね!そのための筆記用具だからな!あんまアホな脱落した奴には罰ゲームが用意してあるので覚悟しとけ!それから《死亡判定》喰らった人は他の参加者に必要以上の情報を与えないように!言わない、聞かない、誘導尋問しない!死体役は死体役に徹しろ!それも《ごっこ遊び》の醍醐味じゃぁぁぁぁ!では禁止エリアの発表で〜す!聞き逃さないよ〜に!』
禁止エリアの発表後『ツッコミは攻撃に含まれません!』というあまり意味のない情報を最後に第二回放送は終わった。
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