ドウタヌキ?


第三回放送まで(前半)


日は完全に落ち、島は闇に包まれていた。空に浮かぶ小望月と都会では見る事のできない煌々と輝く星々のおかげでかろうじて「漆黒」とまではいかなかったが、都会暮らしになれた人間からすればかなり行動が制限される闇だ。
浅葱は森の中で巨大なトーテムポールに背を預け座っていた。地面に地図を置き、周囲に光がなるべく漏れないようにぎりぎりまで近づけて懐中電灯で照らしながら何かを考えている。
「ねぇ《地の文》さん、やっぱり変だと思うんだけど・・・」
普通に話しかけないでもらいたい。
「原作に対する一番のつっこみは、山だらけの目印もないなかで登場人物達はどうやって《禁止エリア》を判断したんだろうってとこだと思うんだけど」
いや、女子中学生が大型自動拳銃ぶっ放してるところじゃないかな?・・・あ、答えちゃった。
「そこも気になるけど、今言いたいのは《禁止エリア》のことだよ」
登場人物が《地の文》に話しかけるのが一番よくない。
「そう、じゃあこれは独り言。線が引かれているわけでもなんでもないんだから《禁止エリア》の判断は難しい、判断材料は目印になる建物などに限られるんだよね。それで地図を見ておかしいなことに気づいたんだ・・・」
地図にはエリアを区切る線が碁盤の目のように入っている、それを指でなぞりながら浅葱は少し笑った。
「どう考えても変だよ。この地図だと一つのエリア内に必ず一つは《目印》になるものがある、此処なんて山の中にこんな不自然極まりないトーテムポールが立ってる。トーテムポールっていうのは本来、歴史を刻む紋章だとか墓標だよ、トーテムは部族の起源とか守り神のことだからその偶像とも言える・・・今はそれはどうでもいいんだった、ごめん。確かに学校の工作で作ったり、自然公園に意味なくあったりするけれど、こんな遊歩道もない山の中にトーテムポールっていくらなんでも変だよね」
長い髪をかき上げて、浅葱はニヒリスティックな笑みを浮かべる。文句のつけようがないほどかっこよかったが生憎それを見ているのは月とトーテムポールぐらいなものだった。
「ほかにもトイレだったり祠だったり、山の中でもちゃんと《目印》が、あつらえたようにエリアに最低一つはある。そんな馬鹿な偶然はない。ならばそれは偶然じゃない」
地図を畳んで懐中電灯をしまうと、光源は月と星だけになる。
山の中、サイケデリックなトーテムポールの前で自称ヴァンパイアなお兄さんが座っている構図はとても絵になっていた。
「ヒデさんは無人島にこの舞台を作った、ってとこだろうね、いくらなんでも無茶苦茶すぎるしそれこそとんでもない桁のお金がかかってることになるけど、そう考えれば全ての疑問が解消する。電器やガスは止められてるんじゃなく《最初からなかった》んだろうな。集落をざっと見て回った時、プロパンガスが一つもなかったのも変だと思ったんだ」
浅葱は物憂げな表情を浮かべてため息をつく。
「その辺りに突破口はないのかな?相変わらず優勝できる気は一欠片もないけれど、みんなの話も聞くべきだよね」
不運にも浅葱の出発は4番目であり、その次の恒人(ツネヒト)でも30番目とかなり番号が離れていたため合流は保留にしたのだが、年少の恒人だけでも待っているべきだったかもしれない。
「英蔵君だけがゲームオーバーになったのが解せないんだけど、大城(ヒロキ)君はどうしたんだろう・・・名前が並んでるから一緒にいるはずなのに」
英蔵の大ポカによって大城とは一緒に行動していなかったのだが、さすがの浅葱でもそこまでは読めないようだ。「あいうえお順に並んだ事がない」という英蔵の主張も最もではあるが、同じ「ひ」から始まる名前だというのに。
「るいちゃんは強いから大丈夫だけど、やっぱり見つけてあげないと・・・」
そう呟くと浅葱は荷物をまとめて立ち上がった。

浅葱
【武器】斬馬刀
【所属】D
【状態】青
【行動方針】メンバーと合流、島の謎を解明
【特性】ヴァンパイア


「ミヤ君、寝ちゃったの?」
木にもたれて座っているミヤに逹瑯はそう声をかけた。返事はない。逹瑯が用を足しに行っている間に眠ってしまったようだ。そういえば前日徹夜をしたようなことを言っていたか。
「・・・不用心だよリーダー」
纏めていた髪を解きながら逹瑯は呟く。
「ホント、どっか抜けてるよね〜ミヤ君は・・・」
右手に持っていたショットガン−レミントンM870からも指がはずれている、これだけ喋っても反応がないところをみると熟睡しているのかもしれない。
逹瑯はそっと手を伸ばしてショットガンを持った。
あれから散々今後の行動方針を話し合ったが、両者一歩も譲らず決着がつかなかったのだ。
「分かってる?ミヤ君がいなきゃ、俺はこの《大当たり判定武器》を持って好きに暴れられるんだよ」
逹瑯は少しだけ口角を上げてショットガンをミヤに向ける。
「俺達ってさ、鏡みたいだと思わねぇ?見た目も性格もなにからなにまで正反対で、時々本当に鏡を見てるみたいに思うんだけどさ・・・」
時にそれは心地よく、
時にそれは不快で、
「どうしちゃおうかな、今、俺が優勢なんだけど」
今度は顔全体で笑って逹瑯はポケットを探る。取り出したのは百円玉、着替えた時に、財布から転がり落ちたものをそのままポケットに入れていたのだ。
《バトロワごっこ》に《コイン》
暗示的すぎる、いやできすぎている。
「じゃ、原作に倣って決めるとしますか、東京コイントスダイブ♪ダイブはしねぇけど」
原作の《マーダー》であるキャラクターはコイントスでゲームに乗るか否かを決めた。それに倣おうというらしい。
「表だと乗ったんだっけ?裏だと乗ったんだっけ?いや、それはどうでもいいや」
それはどうでもいい、此処にあるのは百円玉であり、コイントス用のコインではないということが問題だ。百円玉では裏と表で模様が違う。重さが違う。
「だから表が出る確率のほうが高いんだよね・・・じゃあ裏が出たら・・・撃っちゃうよ?」
右手でショットガンをミヤに向けたまま、逹瑯は左手で百円玉を弾き上げた。器用な男だ。
落下してきた百円玉を受け取って、確認する、裏か表か。
逹瑯はつまらなそうに鼻をならして百円玉を投げ捨てた。
「な・ん・て・ね。俺、百円玉のどっちが表でどっちが裏かなんて知らねぇし」
先程、ミヤはおもしろいコトを言ったなと、逹瑯は思う「これが本当のバトルロワイアルだったら何が何でも探し出さなきゃいけない」と、サトチの話が出た時にそう言った。
これが本当のバトルロワイアルなら、メンバーを信じると言うのだ。
たとえ「バンド対抗戦」でなくてもこの男は信じるのだろうと思うと逹瑯の中でなんとも言い難い感情が湧いてくる。
「・・・その時、俺を信じてくれるってこと?」
何から何まで正反対。
鏡写し。
「ねぇ・・・俺、すっごい不安なのに、どうしてミヤ君はそんなに冷静なのさ・・・」
眠るミヤの顔をのぞき込むようにしゃがんで逹瑯はそう訴える。
起きている時には、面と向かっては絶対に聞けないことを、せいぜい茶化すように言って呆れられるぐらいしかできないことを。
「ミヤ君、俺の事・・・信じてくれんの?」
ぽふっと頭に手が置かれた。
ミヤの手だ。
「・・・信じる」
あまりのことに目を見開いて唖然とする逹瑯にミヤは困ったように笑う。
「ミ、ミヤ君!いつから起きてたの!?」
「・・・・・・東京コイントスダイブの辺りから」
かなり早い段階で目を覚ましていたらしい。
「なら言ってくれればいいべ!?」
「いや、なんかオマエ、真剣だったから・・・」
「俺、ショットガン向けてたんだよ?なんで平然としてられるんだよ!?」
「だってオマエ、最初から撃つ気なかっただろうが」
確かになかったが。そうもあっさり言われると、逹瑯としては微妙な気分だ。
「で、でも俺、ユッケを!」
「ふざけてたんだろ?いつものことじゃねぇか・・・それにあの時と今じゃ全く状況が違う」
「なんか俺、今すっごい馬鹿みたいじゃねぇ!?」
ミヤは逹瑯の頭に置いた手を撫でるように動かして言った。
「ちょっと落ち着けよ、な」
逹瑯が一瞬、ミヤの手を振り払おうとする素振りを見せたのでミヤは手を引っ込める。長い付き合いだが頭を撫でたのは初めてのことだったので自覚してみれば恥ずかしかった。
「つーか俺、目開けてたんだが・・・」
「ミヤ君は目細せぇから分かんねぇんだよ、暗かったし」
とりあえずこの居心地の悪い空気を一旦打破しようと二人で軽口を叩いて息をつく。
「・・・ユッケのことホントごめん」
さすがに頭は下げなかったがデカイ身体を縮めて言う逹瑯、雨どころか槍が降りそうだ。
「あやまるならちゃんとユッケにあやまれよ」
「うん。ミヤ君は、俺に聞かないの?」
「・・・聞いて、欲しいのか?」
自分のことを、信じているのかとはミヤは聞かない。
聞く必要性すら感じていないかのように。
行動すら鏡写し。
「聞いて欲しいわけじゃねぇよ、聞かねぇのかなと思っただけ」
《はずみで交わった》鏡写しの二人。
「なぁ、逹瑯・・・これがたとえ本物のバトルロワイアルでも、お前が俺とのことで不安に思う必要なんてないべ。俺は自分のことを信じてない奴を信じるほど度量の広い人間じゃないんだから」
鏡写しのくせに、苛立つほど正反対で、それは時に不快感にすらなるのに、どうしようもないほどに憧れている。
「ムカツクよ、ミヤ君・・・全部分かってるみたいな態度でさ」
そう言いながら逹瑯はミヤにショットガンを返す。
「そうか、ムカツクか・・・」
ほんの少しだけミヤは笑う、闇に紛れて表情など読めるわけがないのに、ミヤが微笑んだことを逹瑯は雰囲気だけで感じ取って舌打ちした。
「あ〜!マジでムカツク!」
逹瑯のほうは完全に声が笑っていた。呆れたように息をついてミヤはショットガンを片手に立ち上がる。
「おら、行くぞ」
「ふえ?」
「遊びてぇんだろ?適当な相手探しに行くべ」
「いいの!?」
「まぁ闇討ちなら勝率も上がるだろ・・・イノランさんとだけは鉢合わせないことを願うがな」
「やっぱミヤ君せこいっ!」
「策士といえと言っただろうが、妖怪手長足長」
その珍妙なあだ名は定着らしい。
「ガラかな、明希かな、誰でもいいや、暴れるべ!」
「・・・闇討ちだからな、静かにしろよ」
「あいあいさー、リーダー。ではミヤ君《一緒に地獄へ堕ちてくれますか?》」
そう微笑んで逹瑯が手を差し出すと、ミヤも笑って手を重ねた。
「あぁ、俺が先導してやるさ」

ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】リーダーモード

逹瑯
【武器】バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】俺様サドモード
(基本的に友人相手に遊びとしてバトルを持ちかけるつもりです・ルナシー全員が《ジョーカー》である可能性を疑っています)


幕間−敗者控え室−

廃校には明かりが灯っていた。当然の事だが、此処だけは電気を引いているか自家発電でもしているのだろう。
そして敗者控え室である。
前記した通り、盗聴システムはこの部屋にも繋がっていて参加者の会話はしっかりと現在部屋にいるマオ、ユッケ、ケン・ロイドも聞いていた。
たった今展開された逹瑯とミヤのやりとりも聞こえていた。
「・・・ユッケ君?」
遠慮がちにケン・ロイドがそう声をかける。
「ユッケさん?」
やや焦った様子でマオもそう言う。
しばらく間を置いて床にひっくり返っていたユッケが起きあがった。
「うひゃああああ!心臓に悪かったよ!なにいまの会話っ!心臓が計5回、3秒づつ止まったよっ!合わせて12秒も止まったよ!メンバーながらビックリだっ!」
ユッケ、九九すら間違えるほど動揺しているらしい。
「あ、普段からああいうこと言い合ってるわけじゃないんだ」
だいぶ人見知りが取れてきたケン・ロイドに言われてユッケは引きつった笑みを浮かべる。
「普段からあんな会話されたら、俺の胃に風穴が空くよ!」
確かにその通り。
そんなことを言い合っていると、気の抜けた声と共に扉が開いた。禁止エリアに引っかかるという最も間抜けた《死に方》をした男、サトチの帰還だった。
「お〜!ユケツ!なんかゲームオーバーになっちまったべよ〜」
にこにこと笑いながら部屋に入ってきたサトチは既に普通バージョンの制服に着替えていたが、何故か髪の毛が爆発コント並にぼさぼさになっており、顔も泥まみれだ。
「・・・なに、その有様?」
ユッケが頬を引きつらせながら聞くとサトチは頭を掻いた。
「ん〜地図なくしちまって〜道分からなくてな〜。とりあえず明かりの見えるほうに行こうと思ったら落ちたっぺよ!」
「どこから落ちたの!?」
「山!」
たぶん斜面で転がったのだろう、さすがに崖ではあるまい。
「でも辿り着けてよかったっぺよ!あぁこれヒデさんから、俺の罰ゲームだって!おもしぃべ!」
そう言ってサトチはユッケに紙切れを手渡す。開いてみるとそこには、『ゲーム終了まで全員から恥ずかしいあだ名で呼ばれること』と書かれていた。
「・・・ねぇ、サトチにとって《恥ずかしいあだ名》ってどんなの?」
「お〜〜〜?んんん!《ハミ○ン》とかだっぺ?」
それでは呼ぶのを強制されるほうが罰ゲーム受けている気分だ。逹瑯からゲームオーバーにされたこと、サトチがあまりにもアホな脱落をしたこと、そして先程の逹瑯とミヤの肝を冷やすやりとり、温厚なユッケも臨界を越えた。キノコの顔も三度まで。
「・・・おまえなんか《バカヤス》でいい!ケンさん、マオ君!これのことはバカヤスって呼んでっ!」
ものすごい形相のユッケにそう言われて、ケン・ロイドとマオは少し戸惑ってから言う。
「えっと・・・バカヤス君」
「バ・・・バカヤスさん・・・」
しばらく二人の顔を見つめてからサトチは顔を輝かせた。
「なんかいいなそれ!罰ゲーム楽しい!」
罰ゲームにならなかった。
「ああそうだバカヤス、禁止エリアに引っかかってゲームオーバーってことは《爆死》だよね?」
「そうなのか?へぇ〜〜」
「・・・頭から血糊ぶっかけてやるから覚悟しろ!」
「おおおお?」
血糊の入ったコップを持ったユッケとサトチの追いかけっこが始まった。
「ちょ・・・なんの騒ぎですか?」
次に入ってきたのは英蔵だった。もの凄い勢いで走り回るムックリズム隊を見て驚いている。
「あ、英蔵さん・・・まぁ気にしないでこちらへどうぞ」
「マオさん、ケンさん・・・どうも、失礼します」
英蔵は後ろ手に扉を閉め、マオが勧めた椅子に腰掛けて息を吐いた。
「英蔵さんは敏弥さんにやられたんでしたっけ?」
「えぇ、まあほとんど自爆でしたけど。ただ錘でボコられたのを死亡カードにどう書いていいか分からなくて悩みましたよ・・・口で説明するのと違って《死因》を書けって言われたら困ります・・・マオさん達はマシンガンですよね、なんて書いたんですか?」
「俺は《銃創多数》って書きましたね〜。まぁ書かなくても全員分かってるでしょうけど、でも《全身被弾》って書いた方がかっこよかったかな・・・」
「ゼンシンヒダン??俺、《じゅう・いっぱい》って書いちゃった・・・」
首を傾げて困り顔のケン・ロイドにマオは笑って言う。
「伝わるから大丈夫ですよ。英蔵さんは結局どう書いたんですか?」
「ぜ・・・全身複雑骨折」
自分でも微妙だと思っているだろう、英蔵は顔を引きつらせながら言った。
「それはちょっと難題ですね・・・伝わりにくいかも」
「俺はねぇ!」
突然ユッケがそう叫んだので三人はふり返る。
「《胸部めった刺し》って書いたよ〜裂傷って書いたほうがよかったかもね〜!サト・・・バカヤスはなんて書いたの?死亡カード」
サトチは結局、血糊をぶっかけられたらしく真っ赤になった胸の辺りを拭いながら言った。
「《死亡カード》ってなんだべ?」
「バ・カ・ヤ・ス!」
そう言ってユッケはサトチの耳をひっぱった。
「・・・なんか楽しそうっすね」
次に扉を開けて入ってきたのは最終出発組であったルキとれいた。ゲームオーバーになった地点が近かったので一緒に来たらしい。
すっきりとした表情のれいたに対してルキは「どよ〜ん」という擬音が聞こえてきそうなくらい目に見えて落ち込んでいた。
「俺、京さんになんてことを・・・」とぶつぶつ呟いているルキのネクタイを掴んで引きずるようにして室内に入ってきたれいたは厚紙の束を机の上に置いた。
「それ、なに?」
「《死亡プレート》だそうだ、いちいちゲームオーバーの経緯を説明するのめんどくさいだろうってヒデさんから」
マオの質問にそう答えながられいたはその中の一枚を取って見せる。
「まぁこれが例ってことで、こんな感じに書けばいいらしいよ」
A4サイズ(横)の厚紙は上部に一本太い線が引かれており、さらに下部にも一本太い線が引かれている。
れいたが出した紙をみると上部に『イノラン』と書かれており(小さい字で《さん》付けしてあった)一番広い部分に『マシンガンによる全身被弾』とどでかい字が踊っていた。そして下部にだけは小さく『最後の言葉』という説明がある。
「殺害者と死因みたいな感じに捉えればいいのかな?」
「たぶんな。俺もよく分かんねぇ。口では説明してもらえなかったから」
ヒデ。とことん適当な男だ。
「あぁ、また難題が・・・」
英蔵が頭を抱える横でケン・ロイドも首を傾げていた。
「意味分からないんだけど」
「ケンさんはこれと同じことを書けばいいんですよ、俺も同じだな」
「おおおおお?」
騒ぐサトチを「俺が書いてあげるから!」とユッケが宥める。
「でも最後の言葉なんて覚えてないんだけど・・・」
最もなことを言う英蔵にれいたがポケットからメモ用紙を取り出す。
「ちゃんと此処に書いてあるってさ」
それはそれで何か嫌なものがあるが、指示ならば仕方がない、あるいは遠回しな罰ゲームなのかもしれなかった。
他のゲームオーバーになった面子を待ちながら《敗者控え室》組は作業に取りかかった。



海にほど近い、林に囲まれた道路をメリーのギタリスト、結生(ゆう)が歩いていた。懐中電灯で地面を照らしながら慎重に足を進めている。
「それにしてもガラのあれはなんだよ・・・あんまりだよなぁ」
やれやれとばかりに結生は肩を落とす。ネロ同様、京に心酔しているガラが《奉仕型マーダー》化することは予想していたものの、結生としてはもう少し上手くやれないものかと思ってしまう。よりにもよって《マーダー》であることを参加者全員にバラされてしまうなんて、ひどい失態である。正体のバレた《マーダー》など、回避するのは容易だろう、騙し討ちは一切できないのだ、ガラがそれなりの運動神経と格闘技経験を持つとはいえ、武器が鉈では分が悪すぎる。
「結局、他のメンバーは見つからないし、疲れたなぁ・・・でもあともうちょっとだ」
インドア派の結生は参加者の多くが山中など選んで突き進むなか、律儀に舗装された道を選んで歩いていた。それが逆に遭遇率を底辺まで下げていたため誰とも会っていない。
木々に囲まれた道が開ける、どうやら目的の場所に着いたようだった。
「あった、灯台だ・・・」
闇の中、ぽっかりと白く浮かび上がる建物が目の前にあった。
当然の如く明かりはついていないがどこからどう見ても灯台だ。
「よかった、これで休める」
日が落ちて、屋根のある場所に入ること自体は普通なのかもしれないが、建物のなかでも目立ちまくっている灯台を選んでしまったのはやはり不用意だろう。
さらに不用意だったのはガラの失態に呆れながらも《それ》に考えが到らなかったことだ。
とはいえ《ごっこ遊び》だ。責められるほどのことではない。
灯台の扉に手を掛けようとしたその時「誰だ?」という声が響いた。
その不遜で妙な威厳のある声から結生は先輩だろうと判断して少し後ろに下がってから言った。
「メリーの結生です。あの、そちらは?」
「名乗る必要性を感じない」
あっさりと切り捨てられてしまった。
「・・・えっと、少し休ませてもらえませんか?あの、戦う気はないんで・・・武器もこんなんですし」
結生はベルトに引っかけていたヌンチャクを取り出してみせる。
「荷物と武器をそこに置いて10歩後ろに下がれ」
剣呑な物言いに結生は一瞬驚いたが言われた通り持っているものを全て置いて後ろに下がる。
そのとたん、扉を破壊しようとしたとしか思えない勢いで灯台の入り口が轟音を立てて開いた、そもそも扉があんな音を立てるということを結生は初めて知った。
開いた扉の向こうに立っていたのはアンジェロのボーカリスト、キリト。
月の光を受けて小型の拳銃が不気味な光を放っている。そしてその銃口はしっかりと結生に向けられていて、レーザーポインターの光は結生の身体の真ん中を照らしていた。
「あ、あの、俺戦う気は・・・」
「何を言っている?メリーはこの《ゲーム》に乗ったんだろうが」
「は?・・・・・・あっ!」
この状況になって結生はようやく思い当たった。本来ならばガラが《マーダー》であることが知れ渡った時点で考慮しておかなければいけなかったこと。
全員が全員、ガラが京に心酔していることや、ガラの性格を熟知しているわけではない、いや、むしろガラが《マーダー》であることはイコール、メリーのメンバーは全員優勝狙いだと思うと考える方が自然なのだ。
近すぎる故に分からない、灯台下暗し。灯台の前だけに。いや《灯台》違いだが。
「つまりオマエは敵ということだろう」
疑問符すらつけずにキリトはそう言い切る。
「ち、違うんです!ガラの目的は京さんを優勝させることなんですよ!」
結生のその言葉を聞いて無表情だったキリトの顔に変化が現れる。
それを考えを改めてくれるつもりだと解釈した結生はさらに続ける。
「ガラは京さんの義弟みたいなものなんで、だから・・・」
言い終わる前に銃声が響いた。
続いてもう一発。唖然とする結生にかまわずキリトはリロードボタンを素早く操作してもう二発撃った(キリトの持っているハイスタンダード・デリンジャーは装弾数が二発である。その辺りはリアルに作られているのだ)長い電子音の後、結生の胸のランプは赤が点灯した。ゲームオーバー。
「なるほど、それならオマエは俺の敵じゃないが、俺の敵の味方の味方はやっぱり俺の敵だ」
許されるならば「しまったぁぁぁぁぁぁ!」と叫びたい気分だった。京とキリト、遺恨とまではいかないがけして友好的な関係ではない。マイルドに言うなら「ライバル関係」だ。
しかし京、色んな所で地雷になっている男である。
結生は天を仰いだ。ガラのことをどうこう言えないレベルのミスによるゲームオーバーになってしまった。
「まぁどちらにせよ、メンバー以外を信じるつもりはなかったが・・・タケオ」
「なんかいろいろつっこみたいがオマエ相手にそれをしていたら俺が疲れるから黙っておくよ」
キリトの後ろから顔をのぞかせたタケオは苦笑気味に言う。
「あの死体、どけといてくれ。此処に立て籠もってることがバレやすくなる、あと私物以外は全部持ってきて」
普通に死体呼ばわりされた結生は何かを訴えるようにタケオを見たが返ってきたのは苦笑いだけだった。
「はい、下がって下がって」と追い立てられながら結生は林の中に捨て置かれた。
「うん、まぁ・・・慣れれば面白いよ?」というおそらくキリトの言動に対するフォローらしきものを言ってからタケオもさっさと灯台へ戻ってしまう。
「・・・つーか俺、これから朝まで此処で過ごすのか!?」
そういうことになってしまうだろう。
「ガラ・・・恨んでやると言いたいところだが、こうなったら何が何でも目的達成しろよ」
届かないエールを送って結生はその場に座り込む。
タケオが語らなかったので結生は知るよしもないがスギゾウを含め他にも何名か灯台を訪れていたが全員タケオに丁重に追い返されていた。結生が来た時、タイミング悪くタケオが仮眠をとっていたためキリトが対応した結果がこれなのだ。
不用意でもあったが運も悪かった。
キリトは誰よりも真剣に《ごっこ遊び》をプレイしているのだ。もはやこれを本物だと思いこむぐらいの勢いでのめり込んでいた。
歩く危険物は伊達ではない。
目的のために手段は選ばないタイプの人間なのだ。
「猛獣の檻だな、この灯台・・・」
本人に聞かれたらはり倒されそうなことを呟いて結生はため息をついた。


キリト
【武器】ハイスタンダード・デリンジャー
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】主催者反撃ルート
【特性】超人の領域への階段

タケオ
【武器】大爆文様、ヌンチャク
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】キリトに付き合う
【特性】?

【結生 メリー ゲームオーバー】


【残り42人】



「うに・・・」
萌えキャラの如き声を上げて、暗闇の中、イノランは目を覚ました。
「ん?此処は何処だ?・・・まぁいいや」
そんなことを言いながらイノランは煙草に火を点ける。今の台詞がボケでないのなら現状把握ができていないということになるが、それにしては冷静だ。
「あ〜、そうか《バトロワごっこ》だったね、思い出してきた・・・」
懐中電灯を探し出して、光が漏れないよう、真下を向けて地図と名簿を照らす。
ちなみに放送を聞き逃すようなドジはしていないので、ちゃんと禁止エリアなどはメモってある。
「で、俺は《マーダー》か。初期化されちゃってるなぁ。えーっとオプション画面選択、キャラ設定・・・」
人間のくせしてオプション設定ができるらしい。いや、冗談なのかもしれないがツッコミ不在でこうも堂々とやられると本当なんだろうかと思えてくる。
「・・・無意味なことをやってしまった、みんなで楽しくキャンプファイヤー、ただし炎天下の熱帯雨林で、みたいな」
こういうのも寝起きが悪いというのだろうか、イノランは半眼でぶつぶつ呟いている。
「えーと、涙沙君を優先的に、あとタクヤ君を捕まえる・・・」
15分ほどかけて、今までのことを反芻し終えたイノランはディバックからミニウージーを取り出した。
「じゃあいっちょ、闇に乗じて踊りますか!」
ようやくキャラ設定が完了したのかはっきりとそう言って、懐中電灯をディバックに放り込みイノランは迷うことなく歩き出す。夜目がきくらしい。田舎育ちだからか、狩猟民族の血統なのか、西欧人っぽい顔立ちだと称されることが多いので案外後者なのかもしれない。
何はともあれつかの間の休息をとっていた《マーダー》は動きだした。

イノラン
【武器】ミニウージー、エリミネーター、手榴弾、ニューナンブM60
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】マーダー続行、闇に乗じて他の参加者を襲う。涙沙を優先的に倒す、タクヤを捕まえて事情を聞く
【特性】危険乱数


山道を長い人影が歩いていた。背が高いなどというレベルではない、敏弥や逹瑯の背も軽く越しているだろう。付随しているパーツがすべて長かった。ちなみに彼のあだ名はアナコンダである。なにがどうアナコンダなのかはここで言葉を濁した事で察して欲しい。
メリーのベーシスト、テツであった。高身長が災いして山道となると身をかがめなければ木の枝にぶつかってしまうのでひらけた場所に出たかったがテツは人を探していた。方針を相談するためにメンバーを探しているわけではない、勿論それも考えていたが、生優先事項はすでにテツの中で決定していた。
ガラが《マーダー》だと知れ渡ったことによる影響について思い当たった時すぐに考えたことだ。
「ガラを止めよう」と。
普通に説得したって聞くわけはないので立てた計画はこうだ、まず京を倒してガラの目的を崩壊させ、そのうえで説得し、ガラが《マーダー》でなくなったことを何らかの方法で他の参加者に伝える。
「・・・茨の道というか、難易度高いんだがな」
そう呟いてテツは持っていた武器で藪を薙ぎ払った。
テツの武器は、真っ赤な長い棒で《ビリー・カーンの三節棍》という《小当たり判定武器》だった。三節棍自体はどう頑張っても素人が扱える武器ではないが、幸いこれはボタン式であり、通常は只の棒として使えるようになっていた。棒術の心得があるわけではないが、これだけリーチの長い武器なら扱いやすいだろう。それでなくともテツは素手だってリーチは長いのだ。はからずも飛び道具を除いて最もリーチの長い武器が最もリーチの長い男に渡ったわけである。
「でも、京さんはたぶん薫さんと行動してるよな、二対一か・・・」
やれやれとばかりに肩を竦めて、テツは藪を薙ぎ払いながら山道を進んで行った。

テツ
【武器】ビリー・カーンの三節棍
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】京を倒しガラを説得する(京が薫と行動していれば薫も倒す)
【特性】侍魂


再び山中である。ここで思いだして欲しい、参加者は全員胸の部分に《状態》を現すランプが点灯しているということを。そう、懐中電灯にも注意を払わなければいけないが、微細ながら光を発しているこの胸のランプも暗闇のなかでは充分に《人がいる》という目印になりえるのだ。これに関しては狙ってやったことではなく、特殊に作られたこの服の欠点だった。但し、欠点ではあるが盲点ではない、日が落ちれば全ての参加者が気づくことだった。暗闇の中で自分の胸がたとえ微細なものであれ光っていれば絶対に気づく。まぁそれを気にするか気にしないかは個人の判断というか性格の問題だろうが。
光の程度は縁日などで売られている光る腕輪を想像して頂ければいい。
「どうでもええけど、あれって冷凍庫に入れると長持ちするんやで・・・って俺は今、誰にしゃべったんや?」
そんなことを呟きながら歩いているのはディルアングレイのギタリスト、堕威。左手で胸のランプを隠している。右手に持っているのは《大当たり判定武器》のコルトガバメント。期待を裏切らないものを引き当てる男である。まるであのPVの再現だ。
「せやったら俺は京君を撃たなあかんのかい。バンド対抗戦でメンバー狙うやつなんかおるわけないやろ」
すいません、逹瑯がやりました。って何度目だ、この言葉。
堕威はコルトガバメントに目をやった、ほとんどオートマテックにあのPVを撮影した時のことが思いだされる。あの時、自動拳銃を京の頭に向けるシーンを撮った後、あまりの可笑しさに京と堕威は二人して笑い転げた。
『ちょお、無理やて、このシュチュエーションで堕威君のマジ顔見てたら笑いこらえられへん!』
『京君かて名演技やん!まだええやろ俺の視界には薫君も入ってんねんぞ!』
『こら、堕威!どういう意味や!』
『てか堕威君、ちょっと笑っとったやろ、サングラスしとるからって気ぃ抜いたな』
『京君が入り込みすぎなんちゃうん?いや〜ホント貴方は名役者!』
『でも堕威君、殺し屋似合うなぁ、かっこええで』
『悪人面って言いたいんかコラ!撃つぞ!』
『堕威君ならええで、撃っても』
そんな台詞を吐いて京は笑った。
「・・・いやいやいやいやいや!あかんやろ!このタイミングでこの回想!マジっぽくなるやん!これ《ごっこ遊び》やし、バンド対抗戦やし、俺、京君撃たへんし!」
堕威、一人でも賑やかである。しかしこれだけ喧しくしていたら胸のランプを隠している意味がなくなるような気もするが・・・とはいえ一人セルフツッコミしてくれるところはありがたい。
「しかし改めて回想してみると、京君ってナチュラルにとんでもない台詞言うたなぁ、あの時は気づかんかったけど」
いや、気づけよ。どんなヤンデレ台詞だよ。まだあの頃はヤンデレどころかツンデレって言葉もなかたんだが。つーかこの人さっきから微妙に《地の文》に答えてないか?
もしや野生のカンなのだろうか。
「ん?なんか今、悪口言われた気ぃするな」
・・・カンのようですので気にせず続けましょう。ディルメンバーの中で堕威は4番目の出発であり全体から見れば26番目だった。薫の出発は8番であるので出口で待つのは少々危険なような気がしていた。そして堕威が廃校の廊下から出口付近にさしかかった時、小さな銃声が聞こえたのだ。外に出る時に細心の注意をはらい様子を窺ったが人影はなく(といっても隠れている人間はいたようだったが)他のメンバーが待っている様子もなかったので足早に廃校から離れた。
「といっても薫君は確実に京君を連れて行ったんやろうけどなぁ、ガラが間に入ってるからそっちと一緒にいる可能性もあったんやけど」
ゆうやの拡声器による《呼びかけ》から察するにガラは一人で行動しているのだろう。これによって薫と京が一緒にいることはほぼ間違いないと堕威はふんだ。
ガラを除けば薫と京の間にいるのはガクトだけでそのガクトも先程の放送で名前が呼ばれていた。
「しかし、薫君と京君の組み合わせってまったく不安がないわけでもないんやけどなぁ。ぶっちゃけ二人とも天然やし、強いっつちゃあ強いんやけど・・・なんとか合流する手段はないもんかな、敏弥も早いトコ回収したらんと危なっかしくてしゃあないし、やもちゃん(心夜)かて・・・いや、やもちゃん超強いけど、なんかさりげなく無敵キャラちゃうかって勢いで強いけど!年長者としての責任があるし、メンバーやしな」
堕威はリーダーである薫に負けないくらいメンバー思いである。薫以外はみんな年下であるせいか弟のように見ている部分もあるので《ごっこ遊び》とはいえ守ってやりたいという欲求は自然なものだった。
面倒見がよく爽やかで男らしい、京にさえ「ちょっと喧しいのを除けば欠点なし」と言わしめる性格の持ち主である、基本的に他の参加者を攻撃するつもりはなかった。
しかし相手が積極的に乗っていた場合は、他のメンバーに危険が及ぶので排除しようと思っていたが。
「まぁ《ごっこ遊び》だからこその方針やけどな、これが《本物》やったら・・・あかん、考えんとこ・・・」
さて、と堕威は周囲を見渡した、危険なので懐中電灯は点けず、月明かりだけを頼りに山道を歩くのは思った以上に神経を使う作業だった。
「一応伊賀地方出身やけど忍者ではないからなぁ、此処で俺が忍者だったら一気にパワーバランス崩れてえらいことになるやろうけど・・・いや、それはどうでもええんや」
メンバーを探すにしても既に夜、ほとんどの参加者が屋根のある場所、あるいは腰を落ち着けられる場所にいる可能性が高い。
ポイントが絞られる分、地味に遭遇率が上がっているのだ。
「此処から一番近いのは診療所やけど、そこってことはないやろ、目立つし。灯台も除外やな、あとは集落か・・・ん?」
木々の向こうにぼんやりとした青い光が見えた、誰か他の参加者がいる。
「そこにおるんは誰や?」
銃を向けながらそう声をかけると移動していた青い光が止まった。こちらの様子を窺っているようだ。
「俺はディルアングレイの堕威や、戦う気はないが銃を持っとる、そっちは誰や?」
「・・・コータです。アンジェロのコータ、武器はサバイバルナイフ」
微妙な相手と遭遇してしまった。アンジェロの前身であるピエロとディルアングレイは同時期にデビューしたこともあって《ライバル関係》であった、会話を交わしたことはあってもけして親しくはない。
「俺も、戦う気はないから・・・たぶん兄貴が・・・」
「ああ、《主催者反撃ルート》か」
コータはキリトの実弟である。おそらくゲーム開始からずっとキリトを探しているのだろう。
「兄貴かタケオ君見ませんでしたか?」
「いや見てへん。そっちは?ウチのメンバー」
「・・・始まってすぐに敏弥が海岸線を何か叫びながら走ってるのは見ましたけど」
「・・・・・・あのバカ。まぁええわ、とりあえずお互い戦う気はなし、このまま普通に別れるってことでええか?」
「それで問題ないかと、ではこれで」
その声とともに青い光は動きだし、木々の向こうに消えた。
「銃向けてるって言うたのに、肝の据わったやっちゃなぁ・・・」
堕威は呆れたように頭を掻くと、再び歩き始めた。

堕威
【武器】コルトガバメント
【所属】ディルアングレイ
【状態】青
【行動方針】メンバーと合流、メンバーに危険が及びそうな参加者は倒す
【特性】?

コータ
【武器】サバイバルナイフ
【所属】アンジェロ
【状態】青
【行動方針】メンバーと合流
【特性】?


アンジェロのベーシスト、コータは懐中電灯でその建物を照らしてみた、間違いない、診療所だ。日が落ちてからの合流を諦めたコータはアイテムと情報収集に目的を切り替えていた。
実兄であるキリトが《主催者反撃ルート》を狙っていることは確実だったのでその手助けになればいいと思ったのだ。
沸点の低さ以外はキリトとの共通点はなく、顔立ちもそこまで似ていない。あの天上天下唯我独尊なキリトに比べればはるかに常識人であるコータだが、その性格が逆にキリトに対する絶対的な憧れと信頼の元になっていた、メンバーだから、兄弟だからという理由を越えて単純にキリトの手助けがしたかったのだ。
人の気配がないのを確認してからコータは診療所へと足を踏み入れる、さすがに室内には月明かりが届かないので懐中電灯はつけたままだ。
受付らしき場所を抜け、奥に入ると待合室があった。慎重に照らしてみると《死亡カード》が二体置かれているのを発見した。
『スギゾウ・全身被弾』
『テツ(ラルクアンシエル)・全身被弾』
「マシンガンの被害者か・・・」
それにしてもスギゾウとテツというのは妙な組み合わせだ、一緒に行動していたとは思えない。たまたま同じ場所で、同じの被害にあったというのか、それも妙な話だ。
そして参加者の中でも最も先輩格である二人が揃って倒されているという事実に、何とも言えない《嫌な感じ》がする。
「何者なんだ《マシンガンのマーダー》は・・・」
その時、診療所の入り口の扉が開く音がした、誰かが入ってきたらしい。コータは少し迷ったが、奥の診察室に身をひそめた。


診療所へ入ってきたのはラルクアンシエルのドラマー、ユキヒロだった。キャリア等からいけば参加者の中では一番古株であり先輩格である。それ故にあまり攻撃されることを気に掛けていなかった。武器であるブーメランもディバックに入れたままになっている。
「誰もいないよね?」
懐中電灯を照らしながら待合室へ足を踏み入れたユキヒロは《死亡カード》を見つけた。
「てっちゃん、此処でゲームオーバーになってたのか。でもなんでスギゾウと一緒なんだ?」
首を傾げてみるが相手は人形、書いてあること以上の情報は得られない。諦めて部屋の中を調べているとあるモノを発見した。棚の上に置かれていたのは一般家庭にあるような救急箱だった。
木製の箱でしっかり『救急箱』という文字が書かれている。
《回復アイテム》が入っているのだろうが問題があった。救急箱の上に紙が置いてあったのだ。
『あけるな。』と書かれた紙。
「あけるなったって・・・えぇ!?」
ヒデ流のジョークかと思ったが、よく見ればその紙はルールブックの白紙ページ(まるで盗聴対策筆談用にしてくれと言わんばかりにルールブックには白紙のページがあった)を破りとったものだった。
救急箱が一気に不審物に早変わりだ。
「でも誰かのイタズラだよねぇ、トラップにしたって無理があるし・・・一応開けてみるか」
危険かと思ったが好奇心が勝ったため、ユキヒロは救急箱を開いた。
そして叫んだ。
「あほかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あらん限りの絶叫の後、診療所が倒壊するんじゃないかと思うような爆発音が響いた。
赤い閃光が部屋を部屋中に広がる。
ユキヒロが救急箱を開いた時、中にあったのは蓋を開けたらピンが抜けるように細工された手榴弾だった。

隣の診察室で隠れていたコータは爆発音に驚いて腰を抜かしていた。ライヴの特効ならば心の準備もできようがこれはあまりに唐突だったため本気で驚いた。
そして赤い閃光は木製の壁の隙間からコータにも届いていた。ピピピピピという電子音の後ランプは『オレンジ』を示した。《大怪我判定》だ。
「ば・・・爆発の巻き添えってことか!?っていうかなにが爆発したんだ!?」
こうなったら隠れている場合ではない、というより隣室の自分が《大怪我判定》ならば待合室にいた人間は確実に《ゲームオーバー》だろう。念のため腰に差していたサバイバルナイフを手にしてからコータは待合室へ駆け込んだ。
「ユキヒロさん!?」
「これ仕掛けたのてめぇか!?」
「違いますっていうか何がですか!?」
ユキヒロは憮然とした表情で救急箱を指さす。
「しゅ・・・手榴弾・・・な、なんつーもんが配布されてるんだ・・・」
原作でも映画でも配布されていたことはいたが、まさか《ごっこ遊び》でこんなものにお目にかかるとはさすがに思っていなかった。
「コータ・・・」
「は、はい!」
焦るコータを見てユキヒロは逆に冷静さを取り戻したようだった。
「本来、俺はこれ以上しゃべっちゃいけないんだろうけど・・・」
『赤』が点灯している胸のランプを指さして、苦笑気味に言う。
「《ごっこ遊び》っていうのはなりきるのも重要だと思うんだ、まぁ今気づいたんだけどさ、その点、俺はちょっと不用意すぎた、のってるのってないじゃなくて《本気》であることも大事なんだろうな。だからオマエはすぐに此処を出ろ、此処は爆発したんだ、爆発した場所から《手がかり》は得られないだろ?」
ユキヒロの言うことは尤もだ、本来ならこれが《手榴弾》による爆発だという情報すら、コータが知ってはいけなかったのだろう。
「・・・わかりました、失礼します!」
コータは頭を下げると、足早に診療所を出た。ユキヒロの言う通りであったし、それに今の爆発音に驚いた他の参加者が様子を見に来ないとも限らない。
誰もいなくなった待合室でユキヒロはテツの《死亡カード》を手に取ってみた。
「メンバーと同じ場所ね、ストーリー的には悪くないかな。もっと真面目にやればよかった」
こんなとんでもないトラップを仕掛けるような参加者までいるのだ。むしろ適当にやるほうがバカバカしいのかもしれない。
「状況からみて《マシンガンのマーダー》さんってとこか・・・残るはケンちゃんとハイドか・・・それから・・・」
サクラ、ユキヒロの前のドラマー。それこそ一時期はタブーのような存在だったが今ではごく普通に交流している、溝が全くないとは言い切らないが。
加入当初、あの表情の読めない、ぽやっとした顔でドラムセットを見つめていたハイドについサクラの話題をふってしまったことがある。
ハイドはやはり表情を変えないままぽつりともらした。
『やっちゃんとは精神が同じやねん・・・いや、魂魄でいうとこの魂(コン)のほうやな』
『魂の双子、的なモノなの?』
『そうやなくて、あくまで同じ魂(コン)ってだけ』
深く話したくなかったのか、マイペースな男なのでそれで話が終わったと思ったのかそれ以上語ることはなかったし、ユキヒロも『魂魄でいうところの魂』について調べはしなかったので結局それがどういう意味なのか今でも分からないままだったが・・・
あの二人は一緒にいるのだろうか?
そこまで考えてからふとある「現実的な問題」に思い当たった、今までわりとシリアスで詩的なことを考えていたというのに、嫌な話だ。しかし人間の思考なんて案外そんなものである。
例えばサクラとハイドが最後まで生き残った場合、例えばサクラとケンが最後まで生き残った場合、それはどういう判定になるのか。
名簿ではサクラの所属は『なし』となっていたが、ケンとはSOAPで一緒に活動しているし、「元メンバー」というのがどういう扱いになるのかは、どこにも書かれていない。
「・・・これは、帰ったら聞いてみないと」

コータ
【武器】サバイバルナイフ
【所属】アンジェロ
【状態】オレンジ(大怪我判定)
【行動方針】メンバーと合流
【特性】?

【ユキヒロ ラルクアンシエル ゲームオーバー】

【残り41人】

島中とは言わないがかなりの広範囲に爆発音は響いた。参加者に動揺が走る中、一人凶悪な笑みを浮かべている人物がいた、そう、《マーダー》イノランである。
「ふふっ。だからちゃんと《あけるな。》って書いたのに」
引っかかった相手が分からないのが難点であったが、十中八九タクヤではないということは分かっている。そもそのあの『あけるな。』は、タクヤが引っかからないために書いたものなのだ。左利きの上、少々悪筆であるイノランの筆跡には特徴があり、親しい者なら見ればすぐに分かる。
散々イノランの悪戯の餌食になっているタクヤなら絶対に開けないだろう。似たような理由でリュウイチも警戒して開けないはずだった、Jは好意的解釈をしてしまう可能性があるのでなんともいえないのが、思いついた手があれだけだったのでしかたあるまい。
「友達は直接自分の手でだなんて、あまり逹瑯君のこと言えないなぁ、俺も」
手榴弾は二つだったので残りは一つ。またトラップに使ってもいいし、なかなか良い武器である。
鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な表情でイノランはまた闇の中を歩き出した。


『ぴぃ〜〜ん!ぽぉ〜〜〜ん!ぱぁ〜〜〜ん!ぽぉ〜〜〜ン!』
突然、スピーカーから調子外れなヒデの声が響いた。
『緊急放送、緊急放送、主催者のヒデちゃんよりお知らせです、音を聞いた人もいるでしょうがついさっき診療所が爆破されました!よって診療所を立ち入り禁止とします!入ったら警告が鳴るから注意しろよ〜!それからっ!!』
ダンッと何かを叩きつけるような音がした。
『最初に言ったよな?ゲームオーバーになったヤツは白い帽子かぶれって、でもだぁれもかぶって帰って来なかったんだけどどーゆうことかなぁ!?かぶるの恥ずかしいよな、そりゃ、赤白帽だもんなっ!!これはゲームオーバーになったヤツに科せられるペナルティだからちゃんとかぶれ、かぶるのが嫌なら死ぬ気で勝ち抜けばーか!!以上、緊急放送でした!あ、暗いからバトる奴は充分に注意して怪我のないように!』
もしかして酒飲んでますか?というくらいテンションの高い声でヒデが続ける。さっき叩きつけたのはもしかしたら酒瓶かもしれない。
『どうでもいいけどさ、《怪我》って漢字、変じゃねぇ?怪しい我だぜ?怪しい我!なんでこうなったんだろうねっ!?』
ホントにどうでもいい話だった、ヒデのこの言葉に隣にいたY・J氏が『そもそも当て字だからだよ』とツッコミなのか解説なのか微妙なラインの台詞を吐いたのをマイクが拾ってしまったため、彼を知る参加者に「あ、来てるんだ・・・」と知られてしまったのはご愛敬。
『え?なに?ああ、あれね・・・』
とマイクのスイッチが入ったままY・J氏とヒデが何かを言い合っている様子がしばらく続いたあと、ある意味、診療所爆破よりも嫌なことが伝えられた。
『あ〜言い忘れたけどさ、この島、マムシが出るから気をつけて。じゃあ、ばいばいびー!!』
島のあちこちで小さな悲鳴が上がった。

−参加者の全員が《診療所が爆破された》という情報を得ました、立ち入り禁止になったのは《診療所》のみです


メリーのネロ、シドのリズム隊である明希とゆうや、そしてユウナの《マーダーキラーチーム》は休める場所を探して集落まで来ていた。集落は全部で4つ、便宜上、薫と京が潜んでいた既に禁止エリアとなっている集落は集落A、心夜がいる廃校から一番遠い集落を集落B、そして今、4人がいる集落を集落C、残りを集落Dとしよう。
微かに波の音が聞こえるここは海に近い集落らしく漁網が打ち捨ててあったりした。
ヒデの「マムシが出るよ」発言に一瞬パニックになりかけたもののユウナが「この季節のマムシは大人しいし、臆病な性格だから大丈夫だよ」と言って収束させた。
まぁ落ち着かせるために言ったので、マムシは夜行性なので夜間に歩き回るのはそれなりに危ないという部分はあえて黙っていたが。
「ね、診療所が爆破されたって、支給武器に爆弾があるってこと?」
明希の後ろにぴったりとひっついているゆうやが言う。本人は隠れているつもりなのかもしれないがゆうやのほうが明希より背が高く体格も良いのであまり意味がない。
「まぁこの状況で爆弾を作ることはできないからそうなるねぇ」
どこかのんびりとした口調で言うユウナにネロが苦笑する。
「つーかイヤですよ爆弾作れるミュージシャンとか・・・」
「映画だとなんか冊子みて作ってましたよね、なんとか時計っていう」
明希は同意を求めるようにゆうやを見たが、ゆうやは笑って首を傾げて「おぼえてないよ」と言った。
「あぁ、もしかして《腹腹時計》じゃない?」
そう言ったのはユウナ、思いがけないところから正解が出た。
「あ、たしかそんな名前だったような・・・実在するものなんですか?」
「うん。まぁ《ゲリラの手引き書》みたいなものだよ、爆弾の作り方も載ってる」
「ユウナさんって何でも知ってるんですね!」
「そんなことはないよ、アカシック・レコードじゃあるまいし」
マニアックな喩えで言われた。当然他三名は「なにそれ?」と思ったがユウナがあまりにもさらっと言ったので「もしかして一般常識の部類で知らないの俺だけ?なら聞いたら恥ずかしいな」というなんとも日本人的な感覚で全員ここは流すことにした。
「爆弾のことはともかく、どこの民家に入る?」
ネロはそう話を戻した。
「遭遇率から考えたらどこに入っても同じじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだが・・・適当でいいか・・・」
ゆうやにそう言われてネロは目の前にある民家の扉を開いた。古い引き戸がガラガラと大きな音を立てたため最後尾にいたユウナがふり返って周囲を確認する。
「・・・誰もいないね」
「入るか・・・」
先頭にネコパンチバズを構えたネロ、その後ろをシドのリズム隊が続き、最後にユウナが中に入って扉を閉める。武器のスペックから考えれば間違っている気もする隊列だがなんとなくそうなってしまった(というかゆうやが明希から離れなかった)のでしかたない。
がたりと奥で物音がしたので四人はその場に立ちすくんで顔を見合わせた。
「だ・・・」
声を出そうとしたネロを制してゆうやが前にでる。
「ネロさんはマズイですよ、俺が行きます。明希君これ持ってて」
そう言ってゆうやはコルト・ウッズマンを渡すと明希が止める間もなく奥へと進んで行く。
「やるねぇ、彼」
ユウナが感心したようにそう声を上げた。

「え〜っと、シドのゆうやです、明希君とあとユウナさんが一緒です!ネロさんもいるけど全員のってませんから大丈夫です!武器も持ってません!そちらはどなたですか?」
物音がしたのは台所だったので、そのガラス戸の手前でゆうやはそう声をかける。《ごっこ遊び》とはいえなかなか勇気のいる行動だ。
しばらくの沈黙の後、相手は答えた。
「恒人(ツネヒト)・・・Dの恒人です・・・ホントにのってないの?」
「のってたらこんなバラバラのバンド集まりませんよ〜」
あくまで明るいゆうやの声に恒人は警戒を解いたようだった。
ガラス戸に懐中電灯のものらしき光と人影が映り、開いた。
自己申告通り、そこにいたのはDのベーシスト恒人。着用しているのは女子のブレザーで明希と同じようにニーソックスをはいていた。ちなみに絶対領域を出すため二人ともスカートがやや短めである。
そして明希同様、本当に女子かと思うほどに可愛らしかった。明希が清楚系なら恒人はギャル系といった顔立ちだったが。
恒人はゆうやの顔を見て、それから不安そうに他の三人を確認した。
「ホントにバラバラの集まりですね・・・何をやってるんですか?」
「マオ君を撃った《マシンガンの人》を探してるんだけど、なにか知りませんか?」
「いや、俺はずっとココに隠れてたから・・・そちらは、あの、ウチのメンバー見ませんでしたか?」
ゆうやは首を横にふってからネロ達のほうを見る。
「俺は見てないよ」
「すいません、俺も見てない・・・」
「残念ながら俺もだ・・・なぁ、よかったら俺達と一緒に行動しないか?」
「でも、俺・・・他のメンバーと相談しないと」
「なら他のDのメンバーと会うまででいい、《マシンガンのマーダー》を倒すのを手伝ってくれないか?せっかくの《ごっこ遊び》だ、なにかしたほうがいいだろ?」
ネロの熱い勧誘に恒人はその特徴的なくっきりとした大きな瞳を動かす。
「メンバーと会うまでなら、かまいません。たぶん俺の武器、お役に立てるかと・・・」
そう言って恒人が取り出したのは自動拳銃、ジェリコ914。《大当たり判定武器》だ。
「これで銃器・・・ネロ君のネコパンチバズを数に入れて良いのか微妙なとこだけど、銃器が3つに俺の《超大当たり判定武器》か、他にどれだけの参加者が固まって行動してるかは分からないけど・・・もしかして俺達、最大火力になったかも」
そう呟いたユウナを他の面々が注視する。
「だって《マシンガンのマーダー》は一人なわけだから・・・銃器が3つもあれば難なく倒せちゃうと思わない?」
「まぁ、確かに」
「と、言っても完勝ってわけにはいかないだろうけどね〜。二人ぐらいは死ぬかも」
さらりと言ったユウナに他4名は顔を引きつらせた。

台所が一番綺麗だったので5人は台所に腰を下ろしていた。5人・・・バンド結成みたいな人数だがユウナ以外は全員リズム隊なのであまり意味がない。
ドラム二人にベース二人のバンドなんて斬新すぎる。
落ちていたダンボールで窓を塞ぎ、懐中電灯を吊してランタン代わりにした。
「そういえば恒人君とこって一人ゲームオーバーになってたよね?」
明希の言葉に何故か恒人は拗ねたような顔をする。
「俺のことはツネでいいですよ。・・・英蔵さんがゲームオーバーになりましたね」
「そうか、残念だったな」
ネロの言葉に恒人は口を尖らせて言った。
「いいんですよ、英蔵さんバカなんです、キライですよ、もう」
「・・・ツンデレ?」
「ツンデレなの?」
「わぁ!ツンデレだ!!」
「へぇ、これがツンデレなんだ」
「ツンデレじゃありませんっ!!」
大声を上げた恒人を人差し指を上げて制止ながら明希が笑って言う。
「でも嫌いっていうのは嘘なんでしょ?」
「き、嫌いだったらバンド組んでませんよ・・・」
「ダメだよ、好きならちゃんと好きって言わなきゃ」
なにげにすげぇ会話になっている。
「なんだか今、修学旅行の夜に女子の部屋に遊びに来ちゃったよ〜な背徳の香りを感じておりますですよ!!俺やばい!!テンション上がってきた!!ひーほー!!明希君もツンデレって言われてたからツンデレ二人ですか!?にゃんにゃんですか!!!???」
集落中に響き渡るんじゃないかという大声でゆうやが騒ぎ出す。ネロが顔をしかめて明希を見た。
「静かにさせてろよ」
「うおおおおおお!!夜だ!!暗いっ!!」
「ゆうや、ちょっと黙ろうか、ね?」
その場でヘドバンを始めたゆうやの肩を明希が押さえる。
「うほー!!!!」
「恒人君がどん引きしてるだろーがっ!黙れ!」
明希が立ち上がってゆうやの後頭部に蹴りを入れ、ようやくその場に静寂が戻った。
「え・・・と、大丈夫なんですか?」
さっきより座ってる位置が50センチほど後ろに下がった恒人が言う、本気で引いたらしい。
「ゆうやは普段からこんなですから」
明希はゆうやのネクタイをめいっぱい引っ張ったまま答える「ぐえ〜!」とゆうやの口から変な声がもれた。
「明希、ぶっちゃけめんどい方が残ったなぁって思っただろ?」
ネロに少し意地悪な感じに言われて明希はきょとんとした。
「え!?俺じゃなくてしんぢ君が生き残ったほうが良かったの!!??」
「そんなこと思ってねぇよ、そんなこと言うなよ〜!どっちも大事だっての〜!」
ネクタイを掴んでいた手を離して明希はぺちぺちとゆうやを叩いた。
「つーか明希、さっきゆうや蹴った時、パンツ見えたぞ」
「え!?マジですか!?」
明希が顔をしかめてスカートの裾を伸ばす。
「短いんですよ、これ・・・」
「でもニーソだとこれくらいの長さじゃないと綺麗に見えないですもんね」
「そうそう、腿がね、見えないと」
再び元・女形によるすげぇ会話が始まる。
「ゆうや、修学旅行の夜に女子の部屋に遊びに来ちゃった感、納得したわ・・・」
ネロが心なしか遠い目で言う。
「俺も納得だよ」
ユウナもやや困惑気味の顔で言った、静観していたわけではなく、単純についていけなかったらしい。
いい大人が集まって(しかも内二人は女子ブレザーで)妙なテンションのまま《マーダーキラーチーム》の夜は更けていった。


明希
【武器】匕首
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】?

ゆうや
【武器】コルト・ウッズマン、新体操のリボン
【所属】シド
【状態】青
【行動方針】マオの敵討ちを兼ねて《マーダー》を倒す。
【特性】タミフル

ネロ
【武器】ネコパンチバズ
【所属】メリー
【状態】青
【行動方針】《マーダー》を倒す。
【特性】全身全霊
(現時点ではこのパーティのリーダーである)

ユウナ
【武器】自殺志願−マインドレンデル−(超大当たり判定武器)
【所属】なし
【状態】青
【行動方針】ネロ達につき合って《マーダー》を倒す。
【特性】??
(スギゾウを攻撃したことは告げていない)

恒人
【武器】ジェリコ914
【所属】D
【状態】青
【行動方針】他のメンバーに会えるまでネロ達と行動
【特性】?

(他の《超大当たり判定武器》について外見だけ分かっています、ハイドが《超大当たり判定武器》を持っている事を知っています)


「しんど〜、ライヴより疲れたわ・・・」
そうぼやきながらラルクアンシエルのギタリスト、ケンは懐中電灯で足元を照らしながら歩いていた。
「リーダー(テツ)はゲームオーバーやし、ハイドはたぶんサクラとおるやろし。俺はどないしようかなぁ・・・」
目下の目標はユキヒロとの合流なのだがこの暗闇、遊歩道から外れないように山の中を進んでいるものの、まめに地図を見ないとすぐに現在地が分からなくなってしまいそうである。
「向こうにトイレがあるから、今この辺りやな。しっかしあんな掘っ建て小屋みたいなトイレ誰が入んねん・・・」
「外でするよりはましじゃないですか?」
独り言に突然返事が返ってきてケンは飛び上がるほど驚いた。いつの間にかすぐ横に立っていた人影は、懐中電灯で自分の顔を下から照らしてニヤリと笑った。
「うわぁ!!」
「ちょ、顔見せてるのにその反応はないんじゃないですか・・・」
「・・・あ、なんや逹瑯か、びっくりした〜。パグの化け物が出たのかと思った」
「俺だって傷つくんですからね」
逹瑯は懐中電灯から顔を離してそう言った。ちなみに気合いを入れたつもりなのか再びメイクをしなおしている。
「あれ?ケンさん、手にはめてるソレ、なんですか?」
逹瑯がケンの手を指さす。ケンの手には筒状のメタリックな物体がはめられていた。
「支給武器や。《サイボーグクロちゃんのガトリング砲》やて」
ケンはごく自然にそれを外して逹瑯に手渡す。
警戒がないのは当たり前だ、ケンがムックの曲をプロデュースしたのはつい最近のことであり、ケンにとって逹瑯は今、最も可愛がっている後輩なのである。
逹瑯が興味深そうにガトリング砲を調べるのを見ながらケンは言う。
「ユッケとヤス(サトチ)がゲームオーバーになっとたな、ヤスは自爆やったみたいやけど」
「そうなんですよ。バカだバカだとは思ってたけど、あそこまでとは・・・思ってたけど」
「なんや、それ」
逹瑯の妙な言い回しにケンが笑うと。逹瑯は急に真剣な声音になった。
「あの、ミヤ君を見ませんでした?」
「やぐっちゃん?見てへんなぁ。そういえば腑に落ちんことがあってな、ケン・ロイドおるやん?オブリの、一時期イノラン君と一緒にやってた」
「ええ、ケンさんの次の出発ですよね?」
「そや、それで見たんやけど・・・俺が見た時はイノラン君と一緒におったんや。でも彼だけゲームオーバーになっとった、おかしいと思わへん?」
ケンの言葉を聞いて逹瑯はふっと笑った。
「確定です。イノランさんはね、マシンガンを持ってるんですよ」
「じゃあ《マシンガンのマーダー》は・・・イノラン君!?」
「ケンさんと出会えてラッキーでした、推測が確定になりましたから、ねぇミヤ君」
「は?」
いつの間にか、ケンの背中に固いものが当てられていた。目の前では逹瑯が笑っている。
「ま、《先輩後輩関係なし》ってルールなんで」
その舌っ足らずな声を聞くまでもなく、もちろんふり返るまでもなく、後ろに立っている人物は分かっている、そして背中に押し当てられているものについても予想はついた。
「おい、おまえら・・・」
「「ごめんなさいね」」
ケンがそう言うと綺麗なハモリで謝罪され、そして大きな銃声が響いた。

胸のランプが赤に変わり《ゲームオーバー》となったケンは遊歩道の端に座って、ディバックをあさる逹瑯とミヤを見ていた。
「ミヤ君ってさぁホントは危ないこと大好きなのに最近やらなくなったよねぇ」
「あたりまえだろ、立場とか色々あるんだよ。オマエみたいに脳味噌小学生じゃリーダーやってられねぇの」
「一人だけ大人ぶっちゃってずるいなぁ」
逹瑯は手にはめたガトリング砲と説明書を見比べて、片耳を塞いで銃口を上に向けた。
「デタラ〜メな君が好き、試験管ベイヴィー、君の嫌いな物は僕が射殺しよ〜♪」
ガガガガガガガガガガガガガッという爆音が響く。
「これ、すっげぇ!!」
「歌うなバカ」
ミヤ、突っ込むところが違う気がするが、逹瑯は満足そうだった。
それを見ながらケンは思う。ムックのレコーディング風景を思いだす。
歌う逹瑯にミヤが細かな指示を出していくのだが、その作業が長時間続くとこの二人の間に、凸凹コンビという名称がぴったりのこの二人に、不思議なシンクロが起こる。
同調。
呼吸すら重なっているような空気。
「・・・なるほどね、レコーディングやライヴじゃなくても起こるわけや」
ケンの呟きに二人が不思議そうにふり返る。
激励の言葉でも贈ってやろうかと思ったがそれも悔しい気がした、《ごっこ遊び》の最後の言葉、いや、もう《ゲームオーバー》になっているので最後の言葉にはカウントされないが、立ち去る二人に、愛すべき後輩に届けたい言葉。
「なぁ、そこの《最悪》コンビ、何処まで行くつもりなんだ?」
ケンの言葉に逹瑯とミヤはニヤリと、同じ笑顔で笑って同時に言った。

「もちろん、地獄の果てまで」


ミヤ
【武器】レミントンM870、ギターの弦
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】リーダーモード

逹瑯
【武器】サイボーグクロちゃんのガトリング砲、バタフライナイフ
【所属】ムック
【状態】青
【行動方針】優勝を狙う、闇に乗じて他の参加者を攻撃
【特性】俺様サドモード
(基本的に友人相手に遊びとしてバトルを持ちかけるつもりです・ルナシー全員が《ジョーカー》である可能性を疑っています・イノランが《マシンガンのマーダー》である確証を得ました)

【ケン ラルクアンシエル ゲームオーバー】

【残り40人】


山中にある小さなお堂の中に薫と京がいた。格子戸から僅かに差し込む月明かりは思ったよりくっきりと照っていて互いの表情が分かるほど。
多数の銃声、あげくには『診療所爆破』という知らせ。状況は刻一刻と悪くなっている、もしかするとディルのメンバーの中にもゲームオーバーになった者がいるかもしれないと思うと、《ごっこ遊び》だというのに胸が苦しくなるような感覚を薫は抱いていた。
メンバー全員を出口で待つなどというまねは到底できなかったのだけれど、何故安易に「なにか合流の方法があるだろう」と思ってしまったのか、京と二人で話したいことがあったのも事実だけれど・・・
薫は隣で猫のように丸まって眠っている京を見た。元々童顔だが寝顔はますます幼い。薫はそっと京の髪を梳いた。
普通に振り払われた。眠ったままで。
「・・・・」
そういえば昔からどこででも丸まって寝ていたなぁと懐かしく思いだす。いつ頃からか《内に籠もる》時間が増えて、最近は楽屋でも目立たないところで蹲っていることが多い。
京が《表現者》であり続けることに必要なこととはいえ、せめて眠っている時ぐらいは様々なものから解放されていればいいなと薫は思う。
《ごっこ遊び》からだって夢の中では解放されていればいい。
ガラが《マーダー》であることがけっこう堪えているようだったからなおのこと。
「しかしまぁ、俺も確信を持って言えるわけじゃないけど、ガラが《マーダー》になったのはたぶん京君のためだろうになぁ」
ガラはかつでディルアングレイのローディーだったので薫もガラのことはよく知っている。京への心酔っぷりもなにもかも目の当たりにしている。
無論、彼だって今は自分のバンドを持っているので100%とは言わないけれど。
「・・・あ、違うのか、そっちか」
京は自分に向けられる感情にとても敏感だ、特に悪意には過剰なほどに。だからといって好意に鈍いわけではない、ちゃんとそこも酌み取れる。
最初にガラが《マーダー》だと知った時点では混乱していて気づかなかったにしても冷静さを取り戻したなら鋭い京のこと、それに思い至らないはずがない。
だからむしろガラが《自分のため》に《マーダー》になったということが、重いのかもしれない。
どちらにしても口に出してはくれないだろうけど。
「これも保留か、まぁガラがメリーとして優勝狙ってるにしても京君を攻撃することはないと断言できるしな」
最優先事項は京を守ること。
京が誰にも《殺されない》こと、そのイコールでの優勝狙い。
多くの参加者の中、これだけメンバー内のただ一人を《守る》ことに固執しているのは薫ぐらいのものかもしれない。
「ま、敏弥に関しては早急に回収せなあかんけどな、堕威がなんとかしてくれてるかもしれへんけど・・・」
堕威、剣道有段者で男気溢れる性格。素直すぎるので口八丁で相手を丸め込むようなまねはできないまでも警戒心を抱かせるタイプではないので上手くやっていそうだ。
敏弥はああ見えてネガティヴ気質、たまに素面でラリってる、身体能力はそこそこながら一番気がかりだ。
心夜は全く感情が表に出ないタイプであるがその裏に抱えているものは激情だ。身体能力でいえば敏弥と同じぐらいだが冷静で慎重な性格、今の段階ではどこかに身を隠している可能性が高い。
「・・・あ!今気づいた!ウチのメンバーって俺以外全員ドSや!」
いや、アンタもドSだよ。そしてそんなことは今、どうでもいい。
隣で京がうるさそうに身じろぎしたので薫は声のトーンを下げた。
「《マシンガンの人》がルナシーメンバーである可能性か・・・ゲームオーバーになったスギゾウさんと真矢さんは除外。で《主催者反撃ルート》狙いのはずのJさんも除外。残るはリュウイチさんとイノランさんね」
ルナシーの天然コンビ、どちらも怪しくないしどちらも怪しい。
ケン・ロイドがゲーム開始直後にマシンガンの被害にあっていたことをから彼と交友のあった人物を疑うのはたぶん間違っていないだろう。と薫はもう一度思考を反芻する。
「そういえばあの控え室でハイドさんも話しかけてて・・・あぁ、そうか・・・そっちの繋がりでもいいのか」
ハイドが現在コンビを組んでいる相手はカズ、そもそも彼はオブリヴィオンダストのギターであり、ケン・ロイドはそこのボーカルだ。
交友関係とまでいかなくてもハイドとの繋がりは案外しっかりとあったのだ。
ハイド、無表情というよりはぽや〜っとしており、何を考えているか分からない人物。彼も《マーダー候補》いれておくべきかもしれない。
薫は京の頭に手を置いた。今度は振り払われなかったがかわりにぱっちりと目が開いた。
「変やない?」
なんの前置きもなく、主語すら吹っ飛ばして言う京に薫は苦笑する。
「なにがや?」
「此処ってお堂なんやろ」
「まぁ、そう見えるわな」
こういうタイプの休憩所というのはあまり見ない。そもそもこの中では天井が低すぎて立つことすら不可能なのだ。
「なにかを祀ってた形跡がないやん」
「ん?」
京が息を吐いた、笑ったのかもしれない。
「別にスピリチュアルな気配とかそんな話とちゃうで。生憎そっち方面のマニアではないから此処に祀られてたのが神か仏か知らんけど、ご神体なり仏像なりが此処に安置されていたのなら床が均等に汚れてるのはおかしいやろ」
それだけ言うと京はまた目を閉じて、寝息を立て始めた。
「今の寝言!?」
そうでなかったら御神託かもしれない。改めて京を一人で放置しなくてよかったと思った。
まぁ案外めんどくさがりというか気分の乗らないことはしないタチなのでさっさと禁止エリアにでも踏み込んでリタイアしてた可能性もあるが。
「あ〜その流れでいったら俺につきあっとるだけやん、それは地味に落ち込むわ。だってこれがもし《本物》だったら・・・殺すのと殺されるのってどっちが辛いんかなぁ、どっちもごめんやし、人が殺されたり殺したりする姿なんて、見たくないなぁ」
人間は追いつめらればどうにでもなってしまうということを薫は実体験として知っていたが《殺人》はさすがにお門違いだ。
「ま、正直考えたくもないな、《本物のバトルロワイアル》なんて。そういえばヒデさんは何を思ってこんな手の込んだ企画を?」
深い意味があるような気がするのだが、命について考えるとか、メンバーとの絆を深めるとか。
「安直すぎる、か?」
暗いところで一人で起きているとどうも思考がネガティヴな方向に行きそうになる。
「薫君」
いつの間にか京が仰向けになって薫を見上げていた。
「俺は最近の簡単に人が死ぬ話が嫌いや、正確には《死》を感動のネタにする奴が嫌いや、《死》でしか感動を演出できないレベルの創作物が嫌いや、自己犠牲や愛による殺人なんかを美化して陶酔する奴が嫌いやってゆーかオマエが死ねってぐらい大嫌いや」
京が何を言いたいのか分からずに困惑する薫の頬に手が触れる、京の手が。
「だから阿呆なこと考えんでええんや、ただの《ごっこ遊び》や、誰も死なないゲームなんやから、難しいこと悩まんでええ、暗い思考に囚われて頭掻きむしって馬鹿みたいに悩むんは俺の役割なんやから、薫君はちゃんと答え探してな」
「答え?」
「忘れたんか、最初の民家で言ったやん。《俺が言って欲しい》言葉や」
「ああ、ちゃんと覚えとうよ、今のはヒントなん?」
「ふふっ、あれがそもそも《これが本物のバトルロワイアル》だったらって話やったけどなぁ、まぁ矛盾は正常な証拠やし」
そこまで言うと京はまた目を閉じて寝息を立て始めた、薫は目が点になる。
夢遊病??御神託?二重人格マーダーフラグ?
薫もだんだん眠くなってきた、この状況で二人揃って寝てしまうわけにはいかないと目を擦るがどうにも眠い。


【武器】S&W M500、ワルサーPPK
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(眠い)
【行動方針】京を守る、メンバーを探す、ルナシーメンバーとハイドを警戒(?)、優勝を狙う
【特性】保護者モード全開


【武器】愚神礼賛−シームレスバイアス−(超大当たり判定武器)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(睡眠中)
【行動方針】薫に任せる、《ゲーム》の《攻略法》を探す、ルナシーメンバーを警戒(?)
【特性】???



高台の藪の中、タクヤは仰向けに寝転がって目を閉じていた。
診療所の爆破という物騒な事態については保留だ、どうせ禁止エリアにならないかぎり此処から動く事はないし、此処が高台である以上、いきなり爆発物を投げつけられる可能性は低いだろう。
暗くなってしまってはスナイパーライフルを使う事はできない、仮にターゲットの姿を目視できたとしても、レーザーポインターの機能が狙いを定めるさいに発動してしまうため、暗がりで使うのはリスクが高すぎる。
居場所を特定されてしまう。
そうなったら自分は投了だ。
タクヤはイノランのことを考えていた。
イノランを《危険乱数》と称したのは彼の性格的な特性に気づいたからだった。
「百手先を読んでいるような顔をして実は一手先すら読んでいない」それがイノランだ。
タチが悪いのはそのくせ洞察力と直感が異様なまでに優れているため、ずばずばと相手の本心を言い当ててしまうところだ。
本当にタチが悪い。
「百手先を読めるくせに一手先すら読まない」という部分もタチが悪い。
こと《音楽》以外に関しては「できるくせにやらない」男なのだ。
イノランのこの性格がいったいいつ頃形成されたのかタクヤは知らないが少なくともルナシーのメンバーはそれに気づいていないと思っている。
中高生が気づけるレベルのものではないし10代後半でバンドを組んだ時点で付き合いは《音楽》が中心、《危険乱数》は発動しない。
ならばケン・ロイドはどうだろうか?
微妙なラインである、イノランは対人関係に関して使う仮面の種類が異様に多い。
タクヤに対するある種の「気の抜いた状態」をケン・ロイドの前で見せていたのか、いや、ケン・ロイドはイノランに《弟》としてそれはもう砂糖菓子のように甘やかされていたのでたぶん《危険乱数》は発動していない。
とは言っても《危険乱数》状態をイノランが意図して使っているのか、自然に出てしまうものなのかそれはタクヤも分からないのだが。
「剣呑ってゆーか・・・無茶苦茶っていうか・・・辻褄が合ってない人なんだよな」
まあそこが魅力ではあるのだが。
「あの妙に秘密主義なところとか女性から見たらたまらないんやろなぁ・・・」
そしてイノランのそんな特性を知っているタクヤもはたしてイノランの音楽以外のスキルやスペックがどれほどのものなのかは知らない。
タクヤは考えるのを止めて目を開いた。一面に広がる星空、満天の星、手が届きそうだ。
「あ〜あ、イノラン君、早く来ないかな・・・」

タクヤ
【武器】ワルサーWA2000
【所属】ロボッツ
【状態】青
【行動方針】夜間は行動しない、適度に眠る、イノランに仕返し
【特性】?


黒柳は集落Bにいた、20件ほどの民家の中、適当に一件を選んで中に入る。休息をとるためだ。懐中電灯で照らしてみるとほとんど物がないせいか荒れているという印象はなく廃屋というよりは空き家といった雰囲気だった。
順番に部屋を覗いていき、一番奥の手前の部屋まで来ると襖がしっかりと閉じられていた、何の気もなしに襖を開けたその瞬間、横からの素手による追撃を受け懐中電灯が叩き落とされた。ガラガラと豪快な音を立て、おそらく蓋が外れて乾電池を飛び散らせながら懐中電灯がどこかに飛んでいく。
窓は何かで塞がれているらしく、まさに鼻をつままれても分からない様な闇が降りる。
「誰だっ!!」
そう声を上げるが返答はない。相手がどこにいるのかさえ分からない。
「答えないならやる気とみなすぞ!」
やはり返答はなかった。黒柳はベレッタM92を構えると部屋中に乱射する。装弾数いっぱい、15発を至る所に向けて打ちまくった、が、《当たり判定》を示す音は聞こえてこない。
支給された銃器に付属しているレーザーポインター機能が裏目に出た。相手側からすればどこを狙っているかなど明瞭なのだ。そしておそらく相手はずっとこの部屋にいて暗闇に目を慣らしている。
「どうしますか?」
初めて相手が喋った。あえて口調や感情を抑えているような奇妙な声。少なくとも聞き覚えはない。それでも周囲が関西人ばかりの黒柳だからこそ分かる、関西訛りがあった。
「この暗闇で、リロードできますか?」
「・・・っ!」
指摘通りだった。この暗闇の中でリロードボタンは操作できない。
「できないようですね」
やはり感情のこもっていない声で相手は言った。撃ってこないところをみると相手の武器は銃器ではないのだろう。黒柳はベルトに差していたファイティングナイフを抜いた。息を殺して声のした方へ向けて飛びかかる、が、脛の辺りを何か固い物にぶつけて動きを中断せざるおえなくなる。高さと感触からしてちゃぶ台のような低い机だろう。
微かな衣擦れの音がして相手が移動したのが分かった、再びファイティングナイフを構えそちらにいこうとするが今度は何か柔らかい物を踏んで足を取られる。
慌てて足を下げるとまた何かを踏んだ、これは感触で分かる、ダンボールだ。それも二枚重ねにしてある。滑って転びそうになるのをなんとかふみとどまり、黒柳は気づいた。おそらくこの部屋中、いたるところにそういった物が置かれているだろうということを。
相手は、誰だか分からないこの相手は、部屋中のそれを把握してるというのか?この暗闇の中で。
躊躇したその瞬間、黒柳の顔面が懐中電灯で照らされた。
暗闇に目が慣れかけていたところでの光。
目が、眩む。
そこにすかさず何かが飛んでくる、慌てて避けるが幾つか当たってしまった。胸のランプが《当たり判定》をはじき出している間に、交戦相手は窓を塞いでいたものを取り去り(ダンボールだったのだろう)外へ飛び出して行く。
月明かりでかろうじて見えたのはセミロングの髪と細い体。女子ブレザー。猫のような身のこなしで窓から飛び降りてそのまま民家の陰へと走り去ってしまった。
「・・・いや、やばくね?今の奴やばくね!?」
戦い慣れているというかなんというか・・・ミュージシャンという範疇を逸脱しているように思える。
胸のランプを見ると《緑》で《かすり傷判定》。窓から差し込む月明かりを頼りにまず懐中電灯を回収して元に戻し、部屋の中を確認する。
相手の武器はシルバーナイフだった、5本床に散らばっている。不幸中の幸いといったところか、相手がもっと有効な武器を持っていたら黒柳は今頃《ゲームオーバー》だっただろう。
そして黒柳の予想通り部屋中のいたるところに物が置かれていた。ちゃぶ台や子供用の椅子、座布団や二枚重ねにされたダンボール。おそらくこの民家にあった持ち運びできるもの全てが床に散らばっている。
ヒデが「怪我しないレベルのトラップならOK」とは言っていたが、まさか実際にトラップを張る参加者がいるなんて予想外だ。
不用心だったのは認めるが、これはいくらなんでも相手のレベルが高すぎる気がする。
自分で仕掛けたものとはいえこれだけのトラップの位置を全て把握していたとは。
「というか俺がヤバイな、二回連続失敗なんて、このままじゃ《サラマンダー》だ」
自ら撃つよう進言してきた真矢は黒柳のプライドにかけてカウントに入れない。
二回の襲撃失敗、一回目はトラブルで、二回目は相手の罠に飛び込んでしまったが故に。
「・・・気合い、入れ直すか」

黒柳と交戦したのは心夜だった。昼間のうちに作っておいたトラップがこうも有効に働くとは、案外この手を使えば相手によっては倒せてしまうかもしれない。
無表情のまま心夜は集落を駆け抜けて山道へと入る。
神経が高ぶっている、五感が覚醒している、そうなってくると心夜はむしろ冷静になれた。
暗闇の室内でのトラップ、その全ての位置の把握。
案外、簡単なものだった、ドラムと同じ要領だったからだ。
太鼓やシンバルをいちいち見て叩いているわけではない、曲によっては視線をやる間もないほどのスピードが要求される。だからすべての位置を感覚で捉えているのだ。
もちろん使い慣れたものであればあるほど良いので全ての配置は正確に、いつも同じ位置にセットするが、不測の事態で同じようにセッティングできないこともあるのだ。それに対応できなければプロとはいえまい。
確証を持って言えるほどのことではないが、ドラマーはそういった能力が高いのだろう。
覚えるのに時間を要したわりに使えるのは一回だけというのが欠点ではあったが。
返す返すも武器がシルバーナイフなのが悔やまれる。
5本投げてしまったので残りはあと5本・・・頼りなさ過ぎる。
またどこかでトラップを張って身をひそめるか、メンバーを探すか・・・
無表情な心夜の顔に少しだけ笑みを浮かぶ。
ライヴ以外では起こらないと思っていた覚醒状態が訪れているのだ。五感の全てが驚くほど鋭敏になっている、月明かりだけで木の葉の数まで分かってしまうぐらいの覚醒。
これを楽しみつつ、夜のジョギングと洒落込むのも悪くない。

心夜
【武器】セバスチャンのシルバーセット(ナイフ5本)
【所属】ディルアングレイ
【状態】青(覚醒状態)
【行動方針】エリアが狭まるのを待ってメンバーと合流、攻撃してくる者がいれば倒す、夜のジョギングを楽しむ
【特性】男前

黒柳能生
【武器】ベレッタM92、ファイティングナイフ
【所属】ソフィア
【状態】緑(かすり傷判定)
【行動方針】優勝を目指す
【特性】なんちゃってクール
(真矢の助言に従い元ルナシーメンバーは一応警戒しています)

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